【双子弟×蠍】倒錯トワイライト
※デフがまだ聖域に居た時の話
傾いた陽の光が、聖域を赤ともオレンジとも取れるような曖昧な色に染めていた。
沈み行くそれを寝台からぼんやりと眺めるカルディアの視線を、人影が遮る。
二番目、と呼ばれる男が、そこには立っていた。
「なんだ、こんな時間に珍しい。夜しか出歩かないんじゃなかったのか?」
「たまには、な」
「へぇ、その滅多にない機会に俺の所へ来るなんて物好きだな、お前」
「……あぁ、」
一人の穏やかな時間を遮られた報いとして嫌みを飛ばしてみるものの、目の前の影が退く気配は無い。
これは何かあるなと、上体を起こしてデフテロスに向き直す。
「デフテロス…?」
「……こういう時間を、逢魔が時、と言うそうだ」
「随分難しい言葉を知ってるんだな」
「あぁ、」
少しずつ傾きを変える夕陽は、背を向けた男の表情を見せてくれない。
「それで、魔が出て来ましたって?」
次期教皇候補とまで言われる出来の良い兄とは対照的に、弟であるデフテロスが影だの悪魔だのと罵られていることは、聖域中の誰もが知っている話だ。
「あぁ、そうだ」
「その悪魔が俺に何、の…」
不意に影が揺れた。
褐色の肌に映える真っ白な八重歯が、カルディアとの距離を詰める。
茜色だった視界は完全に影に支配され、真っ暗だ。
一瞬驚いて隙間の開いた唇に、熱を持った舌が押し込まれる。
「…ッ!…ん、んぅ…!…は…ぁ、」
「ならば、魔が差す、という言葉も知っているか」
「……っは、…それ、誘ってんのか?」
「あぁ、夜は独占欲の強い獅子がいるから、な」
「で、わざわざこの時間に、ね。その悪魔ってのは俺を熱くさせてくれるんだろうな」
「さぁ、どうだか」
「いいぜ、乗ってやる。来いよ」
その腕を引いて自分から唇を重ねてやったら意外そうな顔をされた。
拒絶されると思ったのだろうか。
熱を与えてくれる相手ならば、人だろうと化物だろうと構わないというのに。
自分を魔だと自負している割に、臆病な二番目。
それがどこか哀しくて、熱に浮かされたふりをして抱きしめてやった。