死に損ないの藍
どうしようもなく自分勝手で気まぐれな友人は、どうやら恋をしているらしい。
友人と言うよりは悪友と呼んだ方がしっくりくるその相手は、何か嫌なことがあった時、必ずと言って良いほど俺の元へ訪れる。
勿論、その『嫌なこと』を忘れるために。
死に損ないの藍
「マニ…も、挿れろ…っ」
「馬鹿、まだキツいっての。もう少し慣らしてからじゃねぇと…」
所謂『セックスフレンド』って関係になってから、どのくらい回数を重ねたのか。
もうお互い、とっくに覚えちゃいない。
甘い言葉の一つも無しに、ただ熱に溺れて獣のように交わって、それで終わり。
最初は付き合わされることに苛立ちを感じたりもしたが、俺以外にこいつを抱かせるのも何だか癪になって、それからはずっとこんな関係が続いている。
「いい、痛い方が好き、なんだ」
「ったく…壊れても知らねぇから、なっ」
人が丁寧に慣らしてやろうってのに、我儘な蠍がご所望なのは、乱暴で荒々しい交尾。
狭いとキツいのはそっちだけじゃねぇんだけど。
…なんて、文句を吐いた所で聞き入れたりしないことは承知済み。
まだ受け入れられるような柔軟さを持っていないソコに、自身を押し当てて貫いた。
「…〜ッ!!…ぁ、く…ッは……はあっ…」
「…っ、きっつ…」
見開かれたまま視点の定まらない瞳が、その苦痛を露にしている。
勿論こっちだって無理やり突っ込んでるわけで、その圧迫感は尋常じゃない。
短い息を途切れ途切れに繰り返して、少しでも苦痛を和らげようとする唇を、同じく呼吸の荒い口で塞いでやった。
こいつがキスを嫌うのを知ってて、わざと、だ。
我儘に付き合ってやってるんだ。多少の見返りを求めた所で、文句は言えないだろ?
「…はっ……ナカ、あつ…いッ…マニ、奥まで…!」
「無茶言うな。今だってギリギリだっつーのに…っ」
「いい…から、はやくっ」
「…クソッ、わあーったよ!」
涙の滲んだ瞳で訴えられて、首に腕まで回されちゃ、男として応えないわけにはいかない。
だがこいつが今求めているのは『熱』と『痛み』で、それに付き合わされるってことは、つまりこちらもそれ相応の苦痛を覚悟しなくちゃならない。
たまには気持ちイイだけの甘ったるいセックスでもさせてくれねぇかな、なんて、叶うはずのないことを頭の片隅で思いながら、溜息を一つ漏らした。
「なるべく力抜けよ」
「…っ、あ…あぁあッ!!」
「っく…狭すぎ、だろ…」
「ふ、ぁ…はっ、マニ、ぃ…!」
嬌声混じりに名前を呼ぶのは、滅茶苦茶にして欲しい時の、合図。
いつだったか、ただ何も考えずに熱と痛みに沈んで逃げたいだけなのだと、カルディアは言った。
そうまでして傷付きながら、どうしてあの男に執着するのだろうか。
いっそ傷付き壊れて、その恋心が死んでしまえばいいのに。
死に損ないの藍
(そうすれば、痛みより快楽を共にできるのに)