hypnotism



漫画雑誌のページをぱらりと捲れば、少年誌には少し似合わない画風の読み切り漫画が目に入った。

何の取り柄もない少年が催眠術を独学でマスターし、学校内で起きた事件を解決する。と云った内容のものだ。

大した面白さは無かったが、その題材に興味が湧いた。

『催眠術』

すぐ横に置いてあった携帯電話で調べると、胡散臭いものから信憑性の高そうなものまで、ずらりと検索結果が表示された。


「レグ?」

「え? あぁ、ちょっと催眠術のこと調べてた」


これ、とケータイを手渡せば、カルディアは一瞥してすぐに飽きてしまったようで、興味無さそうにそれを投げ返されてしまった。


「…催眠術、ねぇ」

「うん、カルディアは興味無い?」

「あんなモンただの暗示だろ」

「そうかもしれないけど、他人を意のままに操れたりしたら面白いよね」

「意のまま、か…」


カルディアは俯せに寝転んでいた身体を起こしてベッドから降りると、じっと俺の眼を捉えた。
真意の読めない眼差しに、息が詰まる。


「…カルディア?」

「もし、お前が催眠術で俺を好きになってるんだとしたら、どうする?」

「どうする…って、」

返事を待つより先に、視線の間にカルディアの右手が介入する。
人差し指だけ紅く染まったその手が形作ったのは、そう、あれ。
所謂、指ぱっちんってヤツ。


「解いてやろうか?」

「……カルディアを好きになる、っていう暗示を?」

「あぁ」


挑発的に笑った顔が情事に誘う時の姿によく似ていて、そういう時のカルディアは大抵何かを隠してたり、感情を誤魔化したりしている。
多分これは試されているのだろう。


「いいよ、解けるなら」

「はっ、随分と余裕だな。それもそうか、信じちゃいないもんな」

「そうじゃなくてさ。もし、本当に解けたとして、それでも俺は、好きなままだと思う」

「大層な自信だな。それが全部俺に造られた感情かもしれないのに」

「きっかけはそうかもしれないけど、今こうしてカルディアのことが好きだっていう気持ちは、間違いなく俺のものだから」


――だから、魔法が解けても大丈夫。

今度は俺がカルディアの視線を捉えて、その右手を捕まえる。
人差し指の爪に触れるだけのキスをすれば、ほら、俺の勝ち。



(H;hypnotism=催眠術)




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