Give me!



街に出れば何処彼処でティッシュやら割引券が配られていて、その中でたまたま飴玉付きのチラシを貰った。
受け取るつもりなんて無かったのに、つい反射で手を出してしまったのだ。
仕方なく目を通せばどうやら新しくできた美容院の広告らしい。
そういえば美容院なんて久しく行っていない気がする。


「それ、飴?」

「みたいだな。食う?」

「ううん、いい」


このままポケットに突っ込んでもいいが、多分溶かしてしまうだけなので、透明な袋に包まれたそれを開いて口に入れる。
人工的に赤く染められた飴玉からは、人工的な苺の味がした。


「何味?」

「いちご…?」

「何で疑問系なの?」

「いかにも人工的に作られました、って味だからな」

「そっか。じゃ、それちょーだい」

「…は?」


俺を指差して笑うこいつの意図することは、十中八九、この口に含まれた飴玉だ。
別に今更キスの一つや二つは気にしないが、ここは街中で、飴玉は既に俺の唾液にまみれている。


「んっと…あ、こっち!」

「レグ!? 何処に…」


手を引かれて一本裏道に入ると、人通りの無い薄暗い路地が続いていた。すぐ隣にはさっきまで歩いていた大通りがあるというのに、妙に静かで落ち着いた空間だ。
見上げれば空が狭く切り取られていて。


「ここなら大丈夫でしょ?」

「…ったく、欲しいなら最初から言えよ」

「別に飴が欲しいわけじゃなくてさ、カルディアから口移しで欲しいんだよ」

「……阿呆じゃねぇの」


気恥ずかしさに顔を背けたら首に腕を回された。

――あぁ、もう逃げられないな。


「うん、好きに言ってくれていいよ。…だからさ、」

「なに」

「ちょーだい?」



(G;Give me!=ちょうだい!)




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