junkie
あいつには変な癖がある。
甘噛みなんて生易しいものじゃなく、人の喉元に喰らい付く、癖。
「…痣になってる」
寝起きの身体で風呂場まで行けば、目に入るのは昨夜の交わりの痕。
所々に付けられた朱い所有の証と、獣のような荒々しい、歯形。
それを至る所に残してくれた迷惑な相手はとうに部屋から居なくなっていて。
――朝練なら無理して来なくても良いのに。
歯形を一つ指先でなぞる。
ぴりっとした痛みが、冒涜的な行為の罰のような気がして、どこか安心した。
「見えない所にしろって言ったのに…」
溜め息と一緒に吐き出した言葉。
ただの言い訳だと分かっていながらも、拒んでいない事実を認めたくない自分を慰めるには、それしかできない。
――いつ飽きられるかも分からないのに。
それでも望んで求めてしまう自分は、とっくにあいつに依存しているのだろう。
まるで麻薬のように快楽を与えて、俺の心臓を掴んで離さない。
「ほんと、馬鹿だな…」
滲んだ傷跡を爪で引っ掻いて呟く。
痛みも、愉楽も、お前の全部が欲しくて、溺れて。
なぁ、とっくに中毒じゃないか。
――俺も、お前も。
(J;junkie=中毒)