imitation
はい、とレグルスに小さな箱を手渡された。
特に何かイベントがあるわけでもない今日、にこにこと笑みを絶やさず渡されたコレは一体何だ?
それなりに有名な宝石店のリボンが付いている所を見ると、何かしらのアクセサリーであることは間違いない。
「何だこれ」
「プレゼント。開けてみてよ」
付き合って何ヶ月記念日、みたいなアレか?
だとしたらマズい。全く覚えてない。
「……指輪?」
紅いリボンを解いて蓋を開けると、銀色のリングが姿を見せた。
飾り気の無いシンプルなデザインだ。
「そう、指輪」
「今日って何か、記念日…だっけ?」
機嫌を損ねるのを覚悟で聞いたのに、レグルスは首を横に振った。
なら尚更この指輪は何だ?
「安物だけどさ、バイト代三ヶ月分で買ったんだ」
「三ヶ月分…って、全然安くないだろそれ!」
社会人ならともかく、高校に通って部活までして、その合間を縫って働いた給料の三ヶ月分は、どう考えても高い。
自分だって欲しいものもあるだろう。
「受け取ってくれる?」
土台から外したリングの内側には“R to K”としっかり刻印されていた。
そうか、これはつまり、
「婚約指輪…か?」
「そう、当たり。ロマンチックでしょ?」
思い出した。
半年くらい前に、つけっぱなしになっていたテレビで流れていた映画のラストシーンだ。
食い入るように見ていたレグルスに古くさいと笑ってやったら、カルディアはロマンが無いと文句を言われた、アレ。
給料の三ヶ月、なんて一昔前の風潮だと馬鹿にした覚えがある。
「ロマン…ね、」
「分かんないかなぁ…」
立ち上がって向き合う位置に移動したレグルスが、指輪を箱から外す。
「ほら、左手出して」
「…ん」
小指にゆっくりと通されたそれは、ぴったりのサイズで。
「いつの間に測ったんだよ」
「内緒」
教えた覚えは全くない。
用意の周到さに呆れかえりながらも、素直に嬉しいと思った。
「これからも一緒にいてね」
「…恥ずかしい奴」
傅くように膝をついて、小指にキスを落とされる。
安っぽい映画の真似事も、たまには悪くないと思った。
(I;imitation=模倣)