月の居ぬ間に口付けを(柔金)





「あ、柔兄」

「なんや、お前風呂上がってから姿見ぃひんと思ったらこんなとこで三味線弾いとったんか」

「此処やったら静かに弾ける思ったん」

細い三日月が空で笑う。


「ちょうどええわ、一曲弾いてくれんか」

「ええよ」


呼吸を深く吸う音が聞こえて、特有の張った音が鳴り響く。
弦の揺れが空気を振動する。

闇に漂う雲を誘う。

目蓋を閉じて、音に聞き入る。

空気をつんざく音の塊。


深く呼吸を繰り返す。

耳だけで感じ入る音に、心が透ける。

音が止んで、すぅーっと心が晴れる。


「…お前の歌も好きやけど、やっぱり三味線が一番好きやな」

「おおきに」

にこりと笑う、五つ下の弟を可愛いと、愛おしいと思い始めたのはいつ頃か
座っていた場所から、腕を伸ばす。

「金造」

名前を呼んで、金色の髪を引き寄せる。漂う雲が月を隠す間に小さく柔らかいキスを一つ。

「ん、…っふ」

舌で歯列をなぞって、頬を指の腹で撫でる。
まだ、しっとりと軽い水分を含んだ髪に空いた手を差し込んで深く口付ける。


「っふぅ…じゅ、」


三日月が少し顔を出す。
雲が晴れて、闇が広がる。

手招きをする。


唇を離して、弟の顔を見下ろす。

「柔、兄……」

「、…こんなとこでそんな物欲しそうな顔してもなんもしたれへんで」

「…っ」

赤い耳が金髪の隙間から見えて小さくリップ音を立てて口付ける。

三味線を立てかけて、腕を更に引き寄せて床に押し付ける。

唇を触れあわせる。

睦言を繰り返す、月が姿を現すまで







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