ふと空を見上げればシュテルンビルドのビルの合間に冬の星座が微かに見える。
最近は温かいと思えば寒くなり、コートやマフラーがまだ手放せない季節。
あと1時間もすれば日付も変わって次の日に変わる。
こつこつと誰も居ない夜の道を歩く。


「よ!」
「こ、虎徹さん…?」
「お前なーこんな時間までどこ行ってんだよ」
「バイトだけど、なんで虎徹さんがここに…」


深夜まで営業している本屋でバイトを終わらせて家に帰れば、マンションのエントランスに虎徹さんが居た。
いつもは手ぶらなのに今日に限って何やら大きな紙袋を抱えていて、外でずっと待っていたのか鼻の頭が少し赤い。
虎徹さんの元に小走りで駆け寄れば大きな手で頭を撫でられる。


「ほら、ちょっとハルカに会いたくなって」
「…ッ!」


くしゃっとした笑顔でこちらを見るものだから思わずどきっとする。
そのままマンションのエレベーターに乗り込んで家へと向かう。


「今日は本屋のバイトだったのか?」
「うん。虎徹さん、これ」
「おー!レジェンドの復刻版!」
「丁度今日発売だったから」
「サンキュ!あ、でも俺がもらって喜ぶ日じゃねーのに…」
「え?」


リビングに入ってから鞄にしまってあったレジェンドの雑誌を取り出して虎徹さんに渡す。
子供のようにはしゃぐ虎徹さんを予想していたがしゅんと落ち込む虎徹さんに驚いた。
狭い部屋に陣取るベットに座る虎徹さんの横に座ると向かい合う様に体をずらされる。


「…あと5分だな」
「なに?今日の虎徹さんなんか変」
「変ってなんだよ。変って」
「だってその袋の中身教えてくれないし、レジェンドの本あげたのに…」
「それは…」
「あ、虎徹さんが変なのは前からか」
「こらハルカ!」


バーナビーがいつも変だって言ってたよと笑えば目の前に中身を教えてくれない紙袋を差し出された。
それに困惑しながら虎徹さんを見ればいつもより真剣みを帯びた顔。


「や、やっぱり今日の虎徹さん変…」


身体を引き、虎徹さんとの距離を少し開けると、腕を掴まれ距離を縮められる。


「ハルカ、今日がなんの日か忘れてんだろ」
「え、え?」
「2月22日」
「22にち…?」
「ハルカ、誕生日おめでと」
「…あ、」


自分の誕生日なんてすっかり忘れていて、日付が変わって22日になっていたのも気付いてなかった。
その袋、もう開けてもいいぞって言われ、赤くなった顔を隠しながら袋を開ける。
これはプレゼントだったから中身が言えなかったのかと思うと余計に顔が熱くなる。


「……ぬいぐるみ?」


袋についていたリボンを外せば大きくて丸い黒い耳を持ったネズミのキャラクターのぬいぐるみが出てきた。
ぎゅっと抱きかかえるのに丁度いいサイズのぬいぐるみの首元を見れば何か光るものが見える。


「……もうさ、虎徹さんは俺をどうしたいのさ」


そこにはシルバーリングにチェーンがかかったネックレス。
大きなぬいぐるみで少し泣きそうになる顔を隠すように押し付ける。


「気に入ったか?」
「……ぅん」


ぬいぐるみを抱える自分ごと抱きしめる虎徹さんの温かみを感じる。


「で、ハルカくんはいくつになったんだ?」
「…21」
「21かー。若いなぁー。おじさん羨ましいわ!」
「…カリーナのが若いし可愛いよ」
「おじさんは顔真っ赤にして涙目のハルカが可愛いけどなあ」
「…言ってて恥ずかしくないそれ」


くしゃくしゃと頭を撫でられて顔を上げる。
目に溜まった涙を親指で拭われてぬいぐるみにかかるネックレスを外し、首に付けてくれる。
冷たいリングが鎖骨に当たり少し体が震え、目をぎゅっと瞑る。
途端に瞼に唇を落とされ、頬に落ち、そのまま唇にそれを押し付けられる。


「ふ、んッ…んにゃ、ッ、こ、てつさ…ッ」
「…ン、本当に可愛すぎるだろその顔」
「なッ、何言ってんの!」
「だってにゃーとか啼くし」
「ね、猫だから仕方ないじゃん!」


虎徹さんはどさくさに紛れてベットに押し倒し、一緒に横になった。
顎下を撫でる虎徹さんの手にゴロゴロと喉を鳴らし、さっきまでの荒ぶった声を抑える。


「なぁハルカ…」
「…なに?」
「………いや、」


眉を下げて笑う顔に何を言おうとしたのかを察する。
このおじさんはこの期に及んで何を、と思う。
さっきまでの勢いはなんだったのか。
その鍛えた胸板に頬を寄せて、細い細い腰に腕を回せば虎徹さんの体に力が入る。


「虎徹さん、俺、もう一個欲しいのあるんだけど」
「お、おう?な、なんだ?おじさんがあげれる物にしてくれな?」
「おじさんにしか無理」
「こら、くすぐったい」


少し慌てふためく虎徹さんに頭をぐりぐりと押し付けてから顔を上げる。
目が合うと虎徹さんは優しい顔をして次の言葉を待つ。


「俺、虎徹さんが欲しい」
「…へ?」


きっぱりはっきり言ってやれば間抜けな顔をして、瞬間顔が赤く染まる。


「ハルカ?ど、どうしちゃったの。おじさんびっくりしたよ」
「バーナビーのとき、虎徹さん、自分がプレゼントとか言ってたじゃん」
「いや、その、それは…」
「…相棒だからってずるい」
「………、」
「……くれないの?」


目線がどこかに行っていた虎徹さんの髭にキスをして、腰に回す手を握りしめた。
そうすれば虎徹さんの柔らかい唇で噛みつくように塞がれ、きつく抱きしめられる。
息を付く暇もないくらい激しい口づけでどちらの物か分からない唾液が顎を伝って首に流れる。


「は、ッん…あ、ん」
「ハルカはおじさんをどうしちゃいたいの本当」
「ば、なびーなんかに虎徹さんはあげない」
「っだー!そうか!俺を殺す気か!萌え死ぬわ!」
「ひ、にゃんっ!こ、虎徹さん、そ、そこだめ…ッあ!」





小さな我儘、大きな愛に


(それでな、ハルカってばお前に嫉妬しちゃってよ!)
(ああそうですか。煩いので黙ってて頂けませんかおじさん)



*黒猫になれるNEXT主。
設定は連載予定の子とは別ですが。
誕生日は猫=22(にゃんにゃん)



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