情報屋の事務所には今日も多くの貴婦人達が溢れ返っていた。
いつも以上に多い貴婦人達に情報屋も呆れながらも笑顔で接客をこなし、情報を売る。
どうして昼間に来る女共はこうも香水と化粧に塗れた奴らばかりなのか。
窓を開けているというのに部屋に匂いが篭る。
さっさとこの貴婦人らを追い払って外に出たいものだと心の中で愚痴る。


「ベネット、」
「あれ、アレックスじゃん。どうしたの」
「ウォリックに言われて…」
「あぁ、ありがとう。申し訳ありません奥様方。先約がありますので今日の所は店仕舞いとさせていただきます」


そういって5人は居た貴婦人達を追い払い、アレックスにお茶を出す。
ありがとう、と笑顔で礼を告げるアレックスに軽く微笑む。


「これ、」
「はい、確かに」


便利屋から頼まれていた情報の情報料をアレックスから預かった。
まぁそんなに大きな仕事でもなかったから値段も低め。
封筒に入った金を預かってこちらをじっと見つめるアレックスに苦笑い。


「そんなに睨まれるようなことしてないはずだけど」
「ち、違うの!ごめんなさい、少し不思議に思ってただけだから」
「不思議?あぁ、便利屋との事とか?」
「え、えぇ。この後引き摺ってでも連れてこいって言われてて」
「…は?」


アレックスは苦笑いでそう言って立ち上がった。
スタイルの良いアレックスを見上げると綺麗な手がこちらに伸びてくる。


「ッ!!」
「?ベネット??」
「行く、行くから、離して…ッ」
「え、うん」


頬に寄せられた手を振り払い、金の入った封筒を金庫に入れるため逃げるようにアレックスから離れる。
金庫へたどり着き、鍵を開けようとダイヤルを回そうとするが、右手が震えてダイヤルを上手く回すことが出来ない。
震える右手を抑えるために左手で掴んでようやく金庫を開けることが出来、金を仕舞った。
何事もなかったように右手を後ろに隠しながら不思議そうにしているアレックスの元へ戻った。


「さぁ、ごめんね。行こうか」
「何か気に障ることをしたみたいでごめんなさい」
「いや、いいんだ。ごめんね、手、大丈夫?」
「平気よ。ベネットって優しい人なのね」
「…そんなことないよ。女性には紳士なだけさ」「ふふ、ウォリックにはとっても厳しいから驚いた」
「……あいつは問題外だ」


表通りにある事務所の裏口から外に出て、裏通りにある便利屋の事務所に向かう。
ヒールの音とブーツの地面を擦る音が裏通りに響く。
ヒールを履いたアレックスの横に並ぶと、少しだけ背が足りないのが気になったがとりあえず歩く。


「あ、ウォリック。外にいるなんて珍しいじゃない」
「アレッちゃんご苦労さまー」
「…わざわざ呼び出しやがってこの糞眼帯が」
「ひっでー言いようだな!出迎えてやっただろーが」
「はッ!嬉しくもなんともないね!」
「二人ともこんな所で喧嘩しないの」


アレックスに言われ、仕方なく事務所の中に入ればニックはどうやら外出中らしく居なかった。
そのままベネットはウォレックの部屋へ連れて行かれる。
アレックスは手話の勉強をするといって1階へ下りてソファに座った。


「…で、ベットに連れてくるってことはそういう事?」
「お前、最近寝てねぇだろ」
「は?」
「…肩も、それで撃たれた」
「…ただ寝かせるためにわざわざ呼び出したワケ」
「そうでもしねーと寝ねぇだろ」
「保護者か、お前」


ウォリックにベットへと無理やり押し倒され、睨みつけた。
その行為にウォリックは眉を下げて、いつものように悲しそうに笑う。


「…保護者でもなんでもいいさ」
「………」
「寝ろよ。寝るまでここに居てやっから」
「……このシーツ、香水臭いから嫌だ」
「そこは我儘言うなってぇの。ほら、『ベネット』」
「…ッ、」


ぎゅ、っと抱きしめられながら一緒のシーツに包まる。
シーツは、安っぽい煙草の臭いと女物の香水の残り香とが混ざった匂いした。
それでも目の前にあるウォリックの服からは安っぽい煙草の臭いとウォリックの匂いがした。
背中に回された腕が温かさを求めるように引き寄せる。


「目を、閉じると…あの人が浮かぶんだ」
「……」
「眠りたいけど、あの人が居るんじゃないかって、」
「いねーよ。今は俺とお前だけ」
「…ッ、『ウォリック』ッ」


シャツから覗く厚い胸板に額を寄せて目を閉じる。
鼻をくすぐるウォリックの匂いがあの人を打ち消す。
胸板に1滴が流れて、頭を優しく撫でられる。


「大丈夫、大丈夫」
「…ッ、ひッく、」
「『ベネット』、お前は一人じゃねぇ」
「う、ッく…ッ、『ウォリ、ク』…ッ」
「お前の母親はもう死んだ。だから大丈夫」


さっさと寝ちまいな、と優しい声でウォリックは言う。
泣いて、シャツにシミを作って、規則正しい心臓の音が耳を伝う。
そのまま子供をあやす様に背中を叩かれ、夢の世界へと誘った。
それを続ければウォリックの腕の中で安心しきった寝顔がそこにあった。
ウォリックは頭に優しいキスを落とし、まるで壊れ物を扱うかのように抱きしめ眠った。
「あら、ニック。おかえりなさい」
【………】
「ウォリックなら今ベネットと一緒に部屋にいるけど」


手話の本を眺めながら勉強していたところにニコラスが1階へ下りてきて帰宅を知らせる。
ウォリックの事をちら、と気にするとアレックスが上を指さして伝えた。
ベネットと二人で上に居ると聞いたとき、少し考えるようにして言う。


【絶対に部屋に行くな】
「え、なに?もう一度お願い」
屋にくな」
「それって、どういう…」


手話の本を閉じ、刀を壁に立てかけながら言うニコラスをじっと見る。
頑なに上には行くなと言うニコラスに疑問を抱き、ふと思う。


「も、もしかして…」
【ヤってはねぇから安心しな】
「そ、そう」
【…寝てるんだ】
「寝てる?まだお昼よ?」


ニコラスはいつもと違う、優しい雰囲気で2階へ続く階段を見る。


にたくなかったらあいつの寝には絶対入るな」
「それって、どういう…」
【万が一、あんたが部屋に居たら…】



目覚めた瞬間



(あんたはベネットに殺されるってことだ)





修正:2012.1.28




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