救解懇願 | ナノ

救解懇願






死にたくないと逃げて死にたくないからと罪のない人を殺し死にたくないからと君さえ裏切った。何もかも中途半端で臆病者の俺は君を守りたいと口先で言いながらあの人たちから逃れることなんか出来なくて、出来ない自分を無理やり肯定して銃を握った。だって恐ろしいだろう、あの人たちは人間じゃないからただのちっぽけな人間でしかない俺なんかほんの気紛れで殺すことだって出来るんだ。死にたくない死にたくない俺はあんな風に原型も分からない肉塊にされるのも生きながらに生気を吸われ干からびるのもなにもかも嫌だ! 死にたくないんだ怖いんだ恐いんだよあの人たちが。



なんて醜いなんて汚らわしい。俺が、俺なんかが生きていていいはずがないのにでも死ぬのは怖くて。だけど君を守りたいと思ったことは本当なんだあの時の俺の言葉は嘘じゃない。嘘じゃない信じてくれ君なら信じてくれるはずだろうお願いだから。本当は分かってるさこんな俺なんかが君に許しを請うことすら汚らわしくて浅ましい事なんだって。でもそれでも君が、ああどうか君が俺を信じてくれるならまだ俺は生きていて良いと思えるんだ。ただ恐い怖いこわい死にたくないとそんな事を繰り返すことしか出来ない俺でも生きる意味があると。どうか。



だって君にまで裏切り者と罵られるのなら俺はもうどうすれば良いのか分からない。君を守る力を失って君を危険にさらした俺が口にしていいことじゃないと分かっていても、俺は臆病だから誰かに支えてもらえないと誰かに認めてもらえないとここに存在できないから。存在する理由を生きる価値を失ってそのまま痛みも苦しみも無く死んでしまえるならそれでも良いと思うけれどそんな簡単に人間は死ねない。死ぬためにはあの怖い恐ろしい手足が震え呼吸もままならなくなるあの思いを絶望を通過しなくちゃならない。だから嫌だそれだけは嫌だ。



本当は俺だって、こんな醜い裏切り者の俺がまだ息をする事が許されているこの現実が異常だってことぐらい分かっているんだ。分かっているから何よりも清浄で美しい心を持ち神にさえ愛される君に願うんだ。どうか俺を否定しないで俺を認めて俺が生きていてもいいと許してくれ。死を恐れるのは人誰しもの性だと。だから俺だけがこんなにも生に貪欲で痛みに怯えるろくでもない人間なんじゃなくて仕方のないことなんだと言ってくれ君の口で。でなければ俺はもう死ぬしかないのに死ぬことのできない中途半端な宙吊りの怨霊と同じようなものに成り果ててしまう。



俺はまだ人間でいたい。生きていたい死にたくない怖い嫌だどうか助けてくれお願いだから。俺だってあの人たちの言いなりになることしか出来ないこんな自分は大嫌いなんだ。自分のために平気で人を犠牲にして嘘を付いて君を裏切って仲間をこの手で殺そうとするような俺が吐き気がするほどおぞましくて、出来ることなら殺してやりたいとさえ思ってる。裏切ってなお君に縋ろうとして君の優しさに付けこんで許されようとしてこんな奴が生きていて良いわけがない。分かってる。わかってるけどそれでも、死ぬのは嫌だ。



もしも俺に力があったら迷わず君を守れたのかな。あの人たちに立ち向かい戦えるだけの力があれば何か変わったんだろうか。いいやそんな物理的な力なんかなくてももしも俺の心がもう少しだけ強かったら。こんな風に自分の命を何よりに考えるような弱い人間じゃなくてたとえ敵わないと分かっていても君を守るために大切な仲間を守るためにあの人たちに背けたなら。そうしてあの人たちに殺されても君やみんなを失うよりは良いと言えるような強い人間だったら、俺はこんな風に自分を厭わずに済んだのだろう。そうして君を守る資格など無いと神から力を剥奪されることもなかったのだろう。



ただ俺は死にたくなかったんだ。あんな思いをもう二度と味わいたく無かっただけなんだ。誰だってあの戦いに共に居たならあの人たちの恐ろしさが分かるはずだ。人を人とも思わず花を手折るように首をへし折り潰し捻じ切り微笑みを浮かべながら喰らい尽くしていく情景を見たなら分かってくれるはずだ。俺だけが弱いんじゃない。確かに俺はいつだって中途半端で駄目な奴で何の力も無い愚か者だったけれどあの光景さえ見ていなければ、あの人たちの与える恐怖を絶望を体験していなければ裏切り者と呼ばれるようにならずに済んだはずなんだ。



仕方が無かった。だって俺だけがあんな思いをしてきたんじゃないか。本当は裏切りたくなんかなかった。だけど心の奥にも体の芯にもあの人たちの絶対的な力が染み付いて俺はもう逃げられなかった。逃げたら殺されてしまう死んでしまう笑いながらいとも簡単に命を奪われてしまう。それが怖い。恐い。俺は人間だからあの人たちのように神や魔の力を持っているわけでもなければ君のように加護を受け愛されているわけでもない。ただの愚かでちっぽけな人間なんだ。もしもそうでなかったら俺はこんなことしなかった。絶対にしなかった。君のためにみんなのために、もしもあの時恐怖を刻み付けられていなければもしもあの人たちに歯向かうことの出来る力があればもしも俺の心がもっと強かったなら、俺は絶対に闘ったはずなんだ。




願っても叶わない事ばかりを夢にみる。ああでも気付いてしまった。結局願っているのは俺がもっと素晴らしい人間ならという愚かな絵空事ばかりで、本当は君を守りたいから強くなることを望んでいるわけではないんじゃないか? 俺は自分を否定しないためにこれ以上おぞましいものだと絶望しないために思わずにいられる方法を求めているだけだ。なんて醜い。なんて浅ましい。汚らわしいおぞましいこんな俺は死んだほうが良い。けれどそれでも信じたい俺がそれだけを考えている人間じゃないと。本当だ。本当なんだ君を守りたいと思ったこともみんなを死なせたくないと思ったことも。本当なんだ! 嘘じゃない建前なんかじゃない俺はまだそこまで醜いものには成り果てていないはずだ。まだ俺は。こうして君の八葉でなくなったとしても身も心もあの人たちの傀儡になったとしてもそれでも俺はまだ君を殺せない。死にたくない。死なせたくない。どちらも紛れもなく俺の真実だ。




だからどうか、俺を許して。






[END]
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