Bandage | ナノ
 
※学パロ




 ああ、また倒れている。莫迦じゃないの。ああやって、また不良に絡まれて、ろくに喧嘩も出来ないのにそのまま拳を受け入れて。
 まるで、傷んだ林檎だ。
 彼、太宰が体育館裏に呼ばれて、無様な姿になるところを屋上からひっそりと鑑賞しているのが最早日課となってきていた。












「今日も派手にやられたね」

 そして騒動が収まった頃に僕は彼を嘲笑う様に戦場跡地に赴く。
 放課後になって人気のないこの場所にはもう太宰と僕の二人だけとなっていた。大の字に身体を寝かしている太宰の肌には至るところに痣が出来ていた。これを見て可哀想に、とは思わないけれども。
 何故なら、この行為は彼の自業自得であるからだ。
 太宰の女遊びの悪いところだ。誰彼構わず容姿端麗な人と付き合いをして、そしたら実は先輩の彼女だった、だとか。彼女も彼氏が居ながら太宰に引っかかっているのだからどうかと思うけれども、太宰はそんな事で女遊びの件で制服も砂まみれになってしまっていた。随分と年季の入った制服に様変わり。
 とはいえ、彼の怪我をそのままにしておくと太宰の生涯残る傷となってしまいそうだから、片手に持っていた救急箱を取り出して消毒液の匂いを散漫させる。露骨に太宰は厭そうな顔をしている。

「乱歩さんの治療は、何時も荒々しいんですよ」
「治療してあげるだけ有り難いと思ってほしいね」

 そして消毒液を大量に肘下に使用する。うっ、と染みたのか苦痛の表情を見せる。殴られた時だってそんな顔をしてはいなかった。

「もっと…優しくしてくださいって」
「そもそも太宰がこんなに頻繁に傷を作らなければいいだけの話だよ。ああいう奴らを簡単にあしらうことだって太宰なら容易じゃないのか。それとも、太宰はマゾだったりするのか?」

 だって、殴られる時の顔は笑っているのだ。どんなに酷い怪我を負われて、一度骨折を経験した時も、病院に着くまでも笑っていたのだ。

『乱歩さんに付き添ってもらえるとは思っても居なかったですよ』

 なんて訳の分からない科白を云って。
 片腕の治療を大まかに終わらせて、太宰の上体を起こすと、今度は右頬が腫れているところを弄り始める。

「いっ…つぅ」

 顔にはガーゼを使用して隠してあげる。
 そしてもう片腕には包帯を巻いてあげる。本当は身体中に巻いてミイラ男の様に変えてやりたいところではあるけれど、それでも包帯が勿体無いからやめておこう。

「一応聞いてみるけれど、今回はなんで先輩らと揉めていたわけ?また女絡みだろうとは予想尽くけれども」

 すると、ご明察、と誇らしげに云われた。
 ご明察、というか推察するまでも無く君の今までの行動を見ていれば真っ先に思いつくことだ。彼は毎回こんな体育館裏に呼び出されるという昭和の漫画並みの展開運びをしてくれる。先輩らもこんな女たらしが居る事自体に気に食わないと思って関係ない奴らも攻撃をしている事もあるよね。

「1組の先輩の彼女が少し色目を使ってきたからつい、ね」

 困った困った、なんて云ってあくまで自分からアピールしたわけでは無い、と僕に伝えると、それに溜息でしか返すことが出来なかった。

「なんで毎回こうなるって判っているのに我慢できないの」

 無理だろうとは思うけれど、少しだけ咎めておこうか。
 最早人の性格が直ぐに改心される訳が無いのだから、彼のこの女たらしという性格が彼の中から消化されることは無いかもしれない。まあ、僕だって人に褒められるような性格では無いと思う。時々先生が呼び出して説教をしてくることもあるからだ。それを直そうとしていないから、人に上から指示する事も出来ないだろうけど。

「美人には優しくしないといけないでしょう」

 そこに山があるから、と云う持論が彼にはあるらしい。
 ほら、僕と太宰の言葉が噛みあう事は無いんだ。今日、こうして治療をした後も直ぐにまた新たな女性に向かって行くんだ。こういう男だ、こいつは。

「―――乱歩さんだったら、別に構わないですよ」
「……何云っているの」

 治療を終えて、彼は指を曲げ、伸ばしを繰り返して動作に異常が無いか確認をする。

「乱歩さんだって容姿も非常に綺麗ですし」

 聞き間違えかもしれない。

「……遂に見境なくなったの?」

 冷たい目でお返しをしておく。だって、彼は嫌がらせ、というよりも単純に僕の事を彼の分類の中で「あり」の分類に含んでいた。そりゃあ、見境も無くなったか、と疑いたくもなるじゃないか。

「じゃあ、一緒に乱歩さん付き合いましょう。私結構優しいですから、直ぐに惚れちゃうと思うますし」

 今、ひょっとしてこの男は口説いているのか。

「……僕は太宰と付き合うのは厭だよ」
「それは同姓だから、ですか?」
「仮に、もし仮に太宰と僕が付き合っていたとしても直ぐに浮気するだろう」
「……ああ、そういうことですか」

 こういう男はきっと、一人の恋人で満足できない。
 そうして浮気や不倫をして、裁判沙汰にだって進展してしまう。

「本気で、乱歩さんを口説くにはどうしたらいいのでしょうかね」

 僕を口説くか。僕自身付き合った経験は無いから、太宰の方が経験値は高そうだけれども、僕は普通に付き合いたい。
 国語教師の福沢先生とか大人しいぐらいがいい。

 ―――太宰とは、このままでいい。

「まあ、太宰がもう少し改心してくれたら少しは見直すかもしれない」
「改心…ですか。今のありのままの私では乱歩さんのお気に召さないということですか。うーん、それは残念ですね」

 漸く互いに立ち上がる。

「……ま、僕は何時も君の治療係りでいいんだよ」

 この言葉の意味が判らなかったのか、太宰は頭にクエスチョンマークを出した。

「―――僕は、君の不幸が好きなんだよ。だから、また美人の女性でも捕まえて、またぼこぼこになってくれると嬉しいよ」

 そう、僕はこのままでいい。
 彼女と付き合って、そして太宰は長続きもしないで終わる。
 そんな彼の不幸を見ているだけで充分だった。
 こうして女性と付き合い別れ喧嘩をし、僕の元に戻ってくる。太宰は、誰の者になることも無く、繰り返される。
 それでいいんじゃないか。

「太宰、この治療代はコンビニのスイーツで手を打ってあげよう」
「数は制限していいですか?制限しないとコンビニの中に有る物全部とか言い出しかねないですからね」

 おお、その手があったか。

「ほら、行くよ」

 太宰の腕を掴む。包帯が巻かれたその腕を掴むと、太宰が苦しそうな声を出すも、聞かなかったことにしておこう。