「うわー社長のそれ、綺麗な色だね!何それ、金色って事は高価なものだったりするのかな?」
「高価…?何を云っている。これはお菓子の付属品なんだから、別にお前が思っている程の価値は無いぞ」

 福沢は夢の無い現実を乱歩につきつける。

「えー金色だよ。凄い綺麗だよね」
「………」

 乱歩が購入してきた駄菓子を二人で囲んで食していた時の頃であった。福沢が所持していたお菓子の付属品が『金色』に装飾されたプラスチック製の指輪であった。彼にはその色が金であったことから高価であると勘違いしたのだ。

「……そんなに欲しいなら、お前にやろう」
「え、本当に?社長からのプレゼント?!」
「プレゼント…という程のものでは無いが…」
「見てみて―、ねえ僕に似合っている?」

 乱歩はそれを貰った途端にすぐさま指に嵌めて高く手を上げた。手の甲を視界に向けて、それを堪能していた。にこりと喜んでいる様を見て、流石に興ざめの台詞を云う事も出来なくなった福沢は黙り込んだ。

「これ一生大事にしよう!だって社長がプレゼントしてくれることなんて滅多に無いんだよ。きっと明日は大雪でも降るに違いないよ。如何しよう、雪でも降ったら大事故が頻発しちゃうね」

 今年は温暖化が進んで暖かい気温が続いている。それはあり得ないだろう。
 福沢は心の中で思っていた。
 それよりも、そんなにプレゼントをしていない、という発言にも気になってしまった。自分自身が薄情な男であると示唆されている。

「ふふ、まるで婚約指輪みたいだね」
「………」

 一瞬だけ、肩が上がった福沢。

「ただの、玩具だろう……」

 福沢は机に広げられた菓子を一つ、口に含んだ。














「……ほんと、過去って残酷なんだよね」

 乱歩は、街中を外れて、入れ違いに太宰も座り込んでいた川辺にやってきていた。

「金色の指輪、ね」

 今となっては剥がれ落ちて、所詮は玩具の装飾。金色がすっかり色剥げをして水色へと変化をしてしまっていた。ずっと、持ち過ぎていたのだ。それ程耐久性の無い玩具を、何年も酷使させてしまっていたのだから、仕方がない…と乱歩はその形が残っているだけで充分であったのだ。
 それが、今朝方。太宰宅を離れて仕事場に向かう道中でそれが無いことに気づいた。昨夜の記憶が酷く曖昧で、どの時点で無くしたのか思い出すことが出来ないでいた、乱歩は…とりあえず探偵社に電話をして、其処に偶々居合わせた敦に捜索依頼をしたのだ。彼に一方的に要求して追及させる隙も与えること無く。

「……恋人が居るのに、何時までも未練たらしく所持していたのが…悪いのかな」

 太宰と付き合って…それでも、手放すことが出来なかったあの玩具―――指輪。
 いつからか、福沢を好きになって、そしていつの間にかその気持ちを無かった事にしていた。乱歩は、無謀な恋をする事を諦めていたのだ。

『乱歩さん、好きです』

 そんな事を、太宰が真正面から云ってくれた時、彼を酷く間抜けだと心の中で嘲笑っていた。

『君は、僕の何処が好きなの?』

 太宰は、意外と真剣に物を捉えている。
 乱歩が彼に問い掛けても、彼はあの時素直に答えてくれたのだ。

『乱歩さんが、乱歩さんでいる処ですよ』

 彼は、乱歩の全てを肯定した。それは、福沢と乱歩の関係性も受けいれた上で。彼は、今まで通り、乱歩さんと社長はそのままの付き合いを持ち続ければいい、と。

『そこに、少しずつ私との時間を作っていってくれればいいですよ』

 それを云われて、乱歩は直ぐに肯定返事をした。
 彼の心の広さに甘えて、福沢から逃げる口実として当初は太宰を利用していたのだ。だからこそ、指輪について何も触れる事無く、ひっそりと持ち続けていた。





「僕って……最低だなあ…」

 今までの自分の愚行に笑うしか出来なかった。祝日だろうとお構いなしに静かなこの場所で、笑おうと、誰にも気づかれることは無い、と思っていた。

「最低なのは、私の方ですよ」

 独り事であった筈の言葉に、聞きなれた声から返答が来たのだ。此れには流石の予想していなかった事態に身体を反転させると、其処には矢張り太宰が居た。
「何処に居たの?事務所に電話しても居ないっていうから今から家に訪問でもしようかと思ったんだけどさ」

「……乱歩さん」

 太宰は、国木田の説教から逃れた後、一人で乱歩の所在を探していたのだ。乱歩にきちんと云う為に。

「乱歩さんこれ」

 そして、太宰の握り締められた手から出てきたのは、乱歩もよく知っている「水色の指輪」であった。

「矢っ張り、君が持っていたんだね」
「…知っていましたか」
「まあね。そもそも僕と敦君と会話をしているのも盗み聞きしていたでしょ。まあ、お風呂に入っている間に指輪でも見られたのかな、とは思っていたよ」

 流石、乱歩。彼は既に指輪の所在を知っていたのだ。まさに、敦は無駄な行動をする嵌めとなったのだ。乱歩としては、太宰に密かに気付かせるために敦を動かしたことに無意味では無かったのだが。

「乱歩さん、此れは福沢社長から貰ったものですよね」

 しかし、太宰も無知では無かったのだ。

「……ごめんね、何も話していなくて」

 俯きながら云った。
 そんな乱歩の隣に太宰は並び立つ。

 そして、彼は云った。


「これ、返しますよ」


「…乱歩さんの好きにしてください」


(選択式ENDルート)



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