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[64]企画参加希望です!
by 李童

「誰も見た事ないような、すっごいお宝見つけるぞ!」

なんて言って旅に出たけど…そう簡単に見つかるわけもなくて。
船の上で、これからどうしようかと途方に暮れる。

大見え切ったから帰りづらいし…まあ、もう何日かしたら何かしらは見つかるかな。
楽観的に考えつつ空を眺めてたら、どこからか歌声が聞こえてきて。でも、少し音は外れてた。

他の人は誰も反応してないから…もしかして、俺にしか聞こえてない?
不思議に思いつつ、少しずつ近くなる歌声に胸が高鳴る。

こんな海の中で、誰が歌ってるんだろ…気になるなぁ…

「気を付けろー!海の主が出たぞ!」

えっ?って思った時にはもう、船の向こうにデッカいタコが居て。
食べられるかな、なんて軽く現実逃避してる間に長くて太い脚に巻きつかれて船は壊れ始めてた。

背中の鞘から剣を抜き構えたけど、足場が崩れてそのまま海に落ちる。
このままじゃマズイ。どうしよう。焦ってる内にタコ脚が伸びてきて左腕に巻き付かれた。
そのまま引っ張られるから何とか抵抗しようと剣を振ってみたら上手く当たって斬れたけど、また直ぐ新しいのが伸びてくる。

もう一度剣を構えて戦う準備をした、けど。どこからかまた歌声が聞こえてタコの動きが止まった。
そのまま逃げるように水中に潜っていったけど…もう一度歌声がして。
海の主って呼ばれた大ダコは、あっさり死んで海に浮かんできた。

どうなってるの…?あの歌声のせい?でも、俺は助かったし…気になるから捜してみよう。

背中の鞘に剣を納め、さっき歌声のした方へ暫く泳いで…少し遠くに誰かの姿が見えたから声を掛ける。

「あの!さっきは助かりました。ありがとうございます」

違う人だったらどうしようかと思ったけど、その人は振り向いてくれて。
お互い目が合ったから、軽く右手を振ってみる。
そしたら急に見えなくなって…海だから隠れる場所なんてないのにって不思議に思ってたら、下から勢いよく出てきて目の前に現れた。

「…俺が、見えるのか?」

驚いて少し仰け反ったけど直ぐに戻って…綺麗な空色の瞳をした人に見つめられながら、問い掛けられる。
当たり前のことを言われたから不思議に思って首を傾げた後、返事をして大きく頷いた。

「なら今直ぐ陸に帰れ。このまま海に居たら死ぬ。
俺の歌声はおかしくて魔物にしか効かないから、普通人間には聞こえないし、姿も見えねぇんだ。もし本物のセイレーンが来たらあっという間に呼び寄せられて食われるぞ」

会ったばかりの俺のことを本気で心配しながら話してくれたその人は更に、陸が遠くて一人にしたら危ないから送ってやるって、俺の手を握って泳ぎ始めた。
お礼を言って、連れられるままに陸に向かいながら…その人の下半身が人間じゃないことに気づいて。綺麗な尾びれだなぁって見惚れてた。

「…俺も一応セイレーンだけど、ちょっと変わっててな。人間を食わなくても海の生き物を食って生きれる珍しいタイプなんだ。だからこうして誰かを助けられる。…まあ、俺の姿が見えたのはお前が初めてだけどな」

人魚なのかな?なんてぼんやり考えてたら口に出してたらしい。陸が近くなったからと手を離した後、向かい合いながら話してくれた。
早く帰れと肩を押されたけど…何となく、このまま帰っちゃダメな気がして口を開く。

「俺…貴方の歌声が好きです。今まで聞いたどんな歌よりもずっと、綺麗だったから。また海に来たら会えますか?」

本気でそう思ってるから、じっと見つめながら真剣に伝えた。
ただでさえ大きな目を更に見開いて驚いた表情をした後、暫く固まって…緩く頭を横に振られた。

「ダメだ。さっきも言ったけど、俺の歌声が聞こえるし姿も見えるってことは、本物が来たらあっという間に食われちまう。だから二度と海には近寄るな」

皆から嫌がられる歌声を好きだって言ってくれて、嬉しかった。そう言って笑ったその人の笑顔は本当に綺麗で、でも可愛くて。鼓動が跳ね上がり一気に顔に熱が集まる。
引き止めようとしたけど、じゃあなって軽く手を振った次の瞬間にはもう、海の中に潜って見えなくなった。(俺もすぐ潜ったけど泡しか見えなかったんだよね)

……どうしよう。俺、あの人のこと好きになっちゃったかも。さっき見たばかりの笑顔を思い出して、また鼓動が早くなる。
今まで何度か、可愛い女の子や綺麗な女の人の笑顔を見たことはあるけど…こんなにドキドキすることは無かった。
一目惚れ、なのかな?また会いたいな。

なんて考えつつ、とりあえず言われた通り陸に上がろうと砂浜に向かい泳いで海から出た。
いい天気だったから、浜辺を歩きながらびしょ濡れだった服とか髪を乾かして…ある程度乾いたから、とりあえずどこか街に行こうかと整備された道の方に向かう。

そういえば、俺はあの人が助けてくれたから無事だったけど…船に乗ってた他の人達はどうなったんだろう。魔物が居なくなったとはいえ、海の真ん中辺りだったし…

もしかして、本物のセイレーンってやつに食べられてたりして。そこまで考えて身震いした。
だとしたら俺は相当運が良かったんだな…もしまた会えたら感謝しないと。というか、もう既に会いたい。また笑顔を思い出してニヤニヤしつつ、ひたすら街に向かって歩いた。


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翌朝。宿屋で目を覚ました時、外は酷い大嵐だった。
特に予定もないし、出歩けそうにないからもう一泊お願いしようと思ってフロントに行ったけど誰も居なくて。
そんな筈ないと色々回ったけど…そもそも、俺と同じように泊まったであろう人達も居なくなってた。

おかしい。外に出たら何か分かるかな。
そう思って出入り口のドアに手を掛けたタイミングで、酷い頭痛がして頭を押さえる。

急にどうして。耳鳴りまでしてきた。微かに聞こえるのは…誰かの、歌声?
でも昨日聞いた、少し外れた綺麗な歌声なんかじゃない。酷く汚い音。聞きたくないから耳を塞いだのに、それを通り越して直接頭に響いてくるせいで身体がふらつき後退りした。

「…おかしいわね。私の歌声に逆らう人間が居るなんて」

目の前で話し声がしたから、まだ酷い頭痛がするけど見上げて…固まる。
今まで見たことがないくらいに綺麗な女の人なのに、凄く怖い顔をして俺を見下げてたから。

「どんな人間もほんの少し歌うだけで、眠っていても虜になるのに…もう一度聞かせてあげる」

止めてよ。そう訴える前にまた、酷く汚い音の歌声が響いてきて。あまりの苦痛に悲鳴を上げながら膝を折り、耳を塞いで思い切り頭を横に振る。
嫌だ。聞きたくない。こんなのは歌じゃない。俺が聞きたいのは……!

あの人の笑顔を思い浮かべながら、心の底から強く願う。

その声が届いたのか、汚い音を掻き消すように綺麗な歌声が聞こえてきた。
少し外れた音に安心すると同時に、身体から力が抜けて…横に転がるように床に倒れ、強い眠気に襲われる。閉じようとする瞼を開こうと必死に逆らったけど、段々と重くなって最終的には眠りに落ちた。


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「本物のセイレーンが海から出るなんてな。何が目的だ?」

穏やかだった海が何も前触れもなく突然荒れた。嫌な予感がしたからほんの少し命を削って脚を生やし、一番近い街に来てみればこれだ。
間に合って良かったと安心しつつ、俺の歌を好きだと言ったあの子を守る為に前に立つ。

「そうねぇ…ずっと海に居たら飽きて、魔女に頼んで地上の見物に。代償として天気が最悪だったから憂さ晴らしに歌ったんだけど、海の時と変わらず人間たちが寄ってきて…つい食べちゃった」

悪びれもなく口元に手を当ててクスクス笑うそいつは、紛れもない本物。
海に追い返そうと大きく息を吸い込んで思い切り歌おうとしたけど、肺と喉に引き裂かれるような痛みが走って口に手を当て激しく咳き込む。少しして落ち着いたから手を離したけど、赤黒い血がべったりで…これ以上は無理だと身体からの警告に苦い顔をするしかなかった。

「海の魔女が言ったこと、本当だったのね…貴方の歌声は地上だと制限されるって。さっき一度歌ったからもう無理なんでしょう?
残念ね…その子、貰ってもいい?私の歌声を拒絶するなんて初めてのことだから、気になってるの」

俺が歌えないと分かれば憐れむ、というよりは蔑むような目で見て笑った後ゆっくり近寄ってくる。

本当は制限どころか、地上で歌えばその分だけ命を削っていく。今の代のセイレーンは最近(とは言っても十年くらいか)生まれたから知らないだろうけど、普通は数十年の命なのに俺はもう何百年と生きてる。どの代も同じように地上に出ては命を食い荒らそうとするから、その度に俺の歌声で止めて海に戻してきた。二度と地上に行こうなんて思わないよう、御呪いをしてからな。
けど、それももう限界か…だったら二度とセイレーンなんて魔物が生まれないように、存在ごと消すしかない。勿論それには俺も含まれる。

「誰が渡すかよ。…生まれてそんなに経たないお前には悪いけど、一緒に滅びてくれ」

地上に出たいなんて願わなければ、もっと長く生きられたのに…ごめんな。
心の中で謝りつつ、首にあるチョーカーに手を添えて残りの命全てを使うと願いながら息を吸い込み思い切り歌う。

目の前に居たセイレーンは、抵抗する間もなく一瞬にして灰になりその場に小さな山を作った。
これでもう、海の歌声に誘われて誰かが死ぬことは無くなるだろう。次に生まれる時は、誰かの命を奪う魔物なんかじゃなく幸せな人間として生まれ変われますように。その場に跪き灰に触れ、願う。
そうすると力強く光り輝き、すぅっと静かに消えていった。

何百年続いた役目がやっと終わる。嬉しいことの筈なのに素直に喜べない。
…この子と一緒に、生きてみたかった。あんなに真っ直ぐ俺を見て、歌声を好きだと言ってくれたのが本当に嬉しくて。一緒に居たらきっと、お互いに笑いながら幸せに暮らせただろうな。

今更願っても叶うはずがないことを思って苦笑いしつつ、隣に寝転ぶ。
静かな寝息を子守唄に…少しずつ強くなる眠気に逆らわず瞼を閉じて、そのまま意識を手放した。


------


ゆっくり意識が浮上する感覚がして、目を覚ました。
そしたら目の前に俺のことを助けてくれた人の顔があって。驚き過ぎて少しの間固まってから、全力で頬をつねる。
痛い。夢じゃない。海に居る筈の人がどうしてここに?いや、会えたのは嬉しいけど…ああもう、寝起きから衝撃的過ぎて考えが纏まらない。心臓の音は五月蝿いし…

そこまで思って漸く気付いた。
目の前に居る大好きな人の呼吸が、酷く弱い。まだ生きてはいるけど、今にも死んでしまいそうなほどに弱りきってる。
慌てて身体を起こし軽く肩を揺さぶってみるけど反応がなくて…海に戻れば何とかなるんだろうか。分からないけどやれる事はやるしかない。
細心の注意を払いながらそっとお姫様抱っこをして、あまりの軽さにゾッとした。これが本当に人一人の重さなの?
とにかく急ごう。でも、あまり揺らさないように…海に向かって必死に走りながら、どうかこの人の命を奪わないで欲しいとひたすらに願ってた。

漸く海に着いて、濡れるのも構わずどんどん浸かっていき肩まで入って…水面に身体全体が浮いたその人は、やっと目を覚ましてくれた。
でも全然、元気にはならなくて……俺に気づいて目を合わせた後、微笑んでくれて…優しい声で、俺の頭の中に直接話しかけてきた。



***

ここまで連れてきてくれて、ありがとな。けどもう、時間が残ってねぇんだ。
(首に嵌めていたチョーカーを外して差し出し)
これを持ってて欲しい。そしたらきっと、これを探してまた会えるから。
どれだけ時間が掛かっても必ず会いに行く。その時は…もし、気が変わってなかったら一緒に生きて欲しい。数百年生きてきて初めて、俺の歌声を好きだって言ってくれたから…
そういえば、名前、聞いてなかったよな。
俺は…

***


お互いにじっと見つめ合い、差し出されたチョーカーを受け取って、頷いたりしながら頭の中で優しい声を聞いて…
名前を聞く前に、声が途切れた。

慌てて俺の方から名乗ったら、声は出ないけど嬉しそうに笑ってたなぁ…その笑顔がまた綺麗で可愛くて…どうしてこの人を連れて行くんだと神様を恨んだ。

直接語りかける元気もなくなったみたいで、俺に渡してくれたチョーカーを指差しながら手をくるくる回したから、真似をして色んな角度から見てみて…だいぶ薄くなってたけど、肌に触れる面の方に名前が書かれてた。

「リッド、さん……」

そう、呟くように呼んで…嬉しそうに笑って大きく頷いてくれるのが見えた。
ダメだ。やっぱり、神様になんか渡したくない。
水面に浮かんでいた身体を抱き寄せて、このまま離れたくないと力強く抱きしめる。

「………、ル…」

波の音に掻き消されてしまいそうな、本当に小さくて掠れた声だったけど。確かに、俺の名前を呼んでくれた。
それが嬉しくて、もう一度リッドさんの名前を呼んで。繰り返し呼びながら腕の力を弱めほんの少し身体を離して…俺の命を取っても構わないから。そう願いつつ、瞼を閉じて口付ける。

直後、身体から力が抜ける感覚がして…全力で肩を押され無理矢理離された。

「お前……今、何を願った?」

さっきまで掠れた声しか出なかったのに、今度はハッキリ言葉が聞こえる。でも、表情は凄く険しくて。
いきなりキスしたから怒っちゃったかな、なんて落ち込みつつ…命を取っても構わないと願ったことを、素直に話した。

「この馬鹿!!そんなこと願う奴があるか!!
直ぐ離れたからほんの少しで済んだけど、あのまま続けてたら本当に全部取っちまう所だったんだぞ?!」

命は大事にしろって、物凄く怒られたけど…そんなことより、元気になってくれたことが嬉しくて。ごめんなさいを伝えた後離したくなくてもう一度しっかり抱きしめたら、少しの間の後長い溜息が聞こえてきた。

「分かったよ。貰った分の命は大事に使う。
…短い間になるだろうだけど、カイルと一緒に地上で生きてみたい」

抱きしめてたからお互い顔は見えなかったけど、確かに、そう言ってくれて。…嬉し過ぎてどうにかなりそうだった。多分俺、凄い顔してたと思う。

「生まれ育った海じゃなくて、俺を選んでくれて…ありがとう…」

本当に心の底から嬉しくて、自然と涙が溢れてきたから…感情のまま素直にお礼を伝えた。

暫くそのまま抱きしめてたんだけど、知らない間に海の水で身体が冷えてくしゃみが出ちゃって…ぶるぶる震える俺に苦笑いしつつ、とりあえず砂浜に上がってゆっくり話そうって言ってくれたから素直に従うことにする。

二人並んで砂浜に座って、のんびり海を眺めながら…服や身体がある程度乾くまで色んな話をした。

俺の家は孤児院で、血の繋がりはないけど弟や妹、それと頼りになるけどモテない兄も居ること。一人で旅に出るなんて母さんは反対してたけど、父さんは男なら一度は旅をしたいものだし…自分達も旅先で出会ったから、もしかしたらそうゆう人を見つけてくるかもしれないって説得してくれて、何とか許可を貰ったこと。

で…今目の前に、二人に紹介したい、大好きな人が居ること。

最後の方は若干照れて、ニヤニヤしながら話してたと思う。リッドの反応はというと…目を見開いて固まって、そのままじっとして…顔を真っ赤にしたと思ったらそのまま右頬にビンタされた。

「お、お前が悪いんだからな!急に恥ずかしいこと言うから…!」

痛いじゃないかって文句を言おうとしたのに。
真っ赤に染まった顔を俺に見られたくないのか背中を向けて早口に喋る姿が可愛くて仕方なくて、怒りなんかどこかに飛んで行った。

「えー?そんなことないと思うけど…言われたくないなら止めとく…」

好きだと伝えることのどこが悪いんだろう?疑問に思いながらも、もし本当に嫌だったら困るから語尾を弱めて膝を抱えながらほんの少しいじける。

また、長いため息が聞こえてきて。呆れられたかなぁなんて落ち込んでたら、背中に体重が掛かる感覚がしたから頭だけ振り向いてみる。
こっちは見てないけど、お互い背中合わせになってる状態。背中を預けてくれるってことは、信頼してくれてるのかな。

だとしたら嬉しい…あ、また顔がニヤニヤしてきた。
次は何を話そうかなって考えてたら、波の音に消えそうな小さい声で…でも確かに、俺も好きだって聞こえた気がして。
嬉しい気持ちを抑えきれずに変な笑い声を出しちゃったら、笑われた。

「ホント、面白い奴だな……カイルが話してくれたし、次は俺の番か」

暫く機嫌良さそうに笑って面白いって褒めてくれたからまたニヤニヤしてたら、今度はリッドのことを教えてくれるみたいだからキュッと顔を引き締めて聞くことに集中する。

もう大昔の話。他のセイレーンは歌声が凄く綺麗であっという間に人間を虜にして捕まえるのに、自分は歌が下手で馬鹿にされてて…どれだけ練習したって上手くならないから、諦めて歌うのを止めたこと。歌が下手な代わりに、他と違って人間を食べなくても海の生き物で事足りるからそれで満足して生きてたこと。
同じ頃に生まれた周りは段々と年老いていく中、自分は若い姿のまま変わらず生きていて…変だと気付く頃には気味悪がられ遠ざけられていたけど、幼なじみの二人は変わらず接してくれたし、自分のことも色々と調べてくれて…歌が下手な代わりに数百年生きる、本当に稀な珍しいタイプのセイレーンだと教えてくれたこと。(因みにその時、誰かに害を成そうとする魔物には容赦なく攻撃出来る歌声って聞いたんだって。だからあの時俺は助かったみたい)

「そういえば…カイル、手に握ってるの返して貰っていいか?
俺の為に二人が作ってくれた大事な物なんだ。形見のつもりで渡したけど、もう少し一緒に居られるなら必要ないだろ?」

ふと、思い出したように言って頭だけ俺の方を振り向きつつ右手の手の平を上に向けながら差し出された。
そんなに大事な物を預けてくれたなんて嬉しくて自然と笑顔になりつつ、返事をして大きく頷き直ぐに返そうとしたけど…

「…これ、俺がリッドに着けてもいい?」

「ん?……あぁ、いいぜ」

大事な物だからこそ、俺が着けてあげたいって思ったからダメ元で頼んでみた。
少し間はあったけどOKしてくれたから、お礼を言いつつ背中合わせだった身体を離しリッドの方を向く。

ふわっとした猫っ毛の下に少し隠れた首筋に、ちょっとドキドキしつつ…落とさないよう細心の注意を払いながら首に当てて、カチッと噛み合う音がするまでちゃんと嵌めた。

直後、チョーカーから眩い虹色の光が放たれ思わず瞼を閉じる。

光が弱くなった頃に瞼を開いたら…知らない男と女の人が立っていて、女の人の方は嬉しそうに笑いながらリッドの名前を呼んで抱きついてた。(その反動でリッドが後ろに倒れて、すぐ後ろに居た俺もそのまま下敷きに…重い…)


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「リッドー!久しぶり!!やっと会えたね!」

急に眩しい光が現れたから瞼を閉じて、だいぶおさまった頃にゆっくり開いたら目の前に誰かが居て…俺の名前を呼んだと思ったら凄い勢いで抱きついてきたから耐えられず、そのまま後ろに倒れた。
久しぶりって言ったよな?それに、懐かしい声…まさかと思いながらも固まったまま動けずに居たらゆっくり身体を離し、不安げにじっと俺を見つめながら口を開く。

「今は人として生きてるから、少し見た目は変わっちゃったけど…分かる?」

「分からないなんて言わせないぞ。記憶を持ちながら何度も転生を繰り返して、お前に会えるのを待ってたんだからな」

もう一人、懐かしい声が聞こえて。胸が締め付けられるような、何ともいえない感情と共に涙が溢れてきて…腕で拭いつつ身体を起こして、交互に二人を見る。
…ダメだ。涙が止まらない。何度拭っても溢れてくるし、言葉を発しようにも唇が震えて上手く声にならねぇ。
どうしたらこの嬉しさを伝えられるだろうと悩みながら、俯いて嗚咽混じりに泣いてたら、後ろからカイルに優しく抱きしめられた。

「大丈夫。ゆっくりでいいよ…リッドの思いはきっと、ちゃんと伝わってるから」

しっかり抱きしめながら優しく声を掛けて貰って…少し、心が軽くなった気がする。
時間は掛かったけどやっと泣き止んで、何度か深呼吸した後ゆっくり顔を上げ懐かしい顔を交互に見る。

「悪い、待たせたな…ちゃんと、分かるぜ。
ファラに、キールだろ?」

しっかり顔を見つつ名前を呼んで、元気そうで良かったと笑ったら、ファラは笑顔を見せてくれて、キールは目を見開いて顔が赤くなった気がする。…気のせい、だよな?

「うん!リッドはあの頃と変わらない姿なんだね…老けないなんてズルいなぁ」

大きく頷いたと思ったら、羨ましいと言いつつ頬を指先でツンツンされたから…いいことなんて何もなかったと苦笑いしてたら、次にとんでもない爆弾発言。

「で、その子がリッドの愛する人?」

「へっ?(えっ?)」

全く予想してなかった言葉に、カイルと同じタイミングで間抜けな声を出してそのまま固まっちまった。
ファラの方はそんな反応がくると思ってなかったのか、あれ?って感じで首を傾げてるし…短いため息が聞こえたと思ったら、黙ってたキールが口を開く。

「僕から説明する。そのチョーカーにはリッドに内緒で二つ、おまじないを掛けてたんだ。
一つは無理矢理奪われたんじゃなく、リッドの意思でチョーカーを託した相手がお互いに心から好きだと言える関係だった場合、僕らに報せが来るように。
もう一つは、歌声だけで魔物を倒せるなんて人間に知られたら、捕まって見世物みたいに扱われるんじゃないかと不安でな。ファラも同じ気持ちだったから、二人してリッドが人間に見つからないようにまじないをかけたんだ。その後僕らは人間に転生してしまったから、見つけられなくなって…数百年も一人にして悪かった…」

そこまで話して、キールの言葉が止まる。
後ろから抱きついてるそいつは普通の人間じゃないか。まじないが効かなかったのかと言いたげに、眉を寄せながらじっと見つめて…ハッとなったカイルが慌てて俺から離れ立ち上がる。

「はっ、初めまして!俺、カイルっていいます!
船に乗ってたらリッドの歌声が聞こえて、凄く綺麗だなって思って…その後船が魔物に襲われて危なかったけど、助けて貰ったんです。
歌声がした方に泳いで行ったらそこにリッドが居て…普通に見えてた、んですけど…」

俺、おかしいのかな?
困ったようにへらっと笑いつつ、右手の指先で頬を掻いてたから慌ててそんなことないと否定して、ほんの一瞬キールを睨んだ後立ち上がり、今度は俺が後ろからカイルに抱きつく。

「多分、俺の残りの寿命が短かったせいだろ。あの後地上で歌おうとしたら、血ぃ吐いてしんどかったし…まあ、地上の人間の命を食い荒らしたセイレーンが相手だから結局は歌ったけどな。本当ならあのまま死ぬとこだったけど、カイルがほんの少し寿命分けてくれたからこうして生きてるし」

だから悪く言うなよ、ともう一度軽く睨んでから軽く首筋に頬擦りする。くすぐったいって笑ってたけど嬉しそうだったから、こっちもニヤニヤしてた。けど、二人の雰囲気が変わって…マズイと思った時には遅かった。

「お前…僕らがあれほど命が危ないからやるなって言ったのに、地上で歌ったのか?
地上に出たがるセイレーンなんて、僕らが生きていた頃にも山ほど居たのに…!」

「リッドの馬鹿!!昔からずっと優しい人なのは知ってたけど、命を削ってまでやることないでしょ?!」

「そうだ!お前が人間に対して好意的なのは知ってたが馬鹿にも程がある!
だから見えないようにしたのに!そいつは何だ!どうしてそうなった!死にそうになりながら助ける必要があったのか?!そんなことになるなら僕が迎えに行ったのに!!」

「そうよ!私だって行きたかった!でも何回海に行っても会えないし、歌声だって聞こえなかった!それでもずっと諦めずに捜してたのに!!」

「「どうして僕(私)じゃない人間と一緒に居るんだ?!(の?!)」」

二人して立ち上がり凄い剣幕で怒りながら、一気に捲し立てられて。
ずっと捜してくれてたことは本当に嬉しいけど…そんなに怒らなくてもいいだろ…?怖くなるくらいに責められて、拗ねながらほんの少し身震いしたら、俺の代わりにカイルが口を開いた。

「あの…数百年待たされて、しかも命の危機だったなんて怒るのは分かります。そもそも俺のせいみたいだし…
でも。リッドが選んでくれたのは俺だから、怒るなら俺だけにして下さい」

本人はきっと気付いてないだろうけど、二人に対して全く怯まず牽制しつつ、怒るなら自分だけをと軽く頭を下げてお願いしてくれて…何か悪いなと思いつつ、さっきまで怖かったのにカイルの気持ちが嬉しくて勝手に顔がニヤける。
自分達より幼いであろうカイルに言われたお陰か、二人とも少し冷静になってくれたみたいで…さっき程の怖さは無くなったけど、それでもまだ怒ってる雰囲気は伝わってきた。

「……分かった。そうさせて貰う」

長いため息の後、まだ納得はしてないだろうけど頷いて、キールが何かボソボソと呟いたと思ったら。
急に強い眠気が襲ってきて、抱きついていた腕どころか身体中から力が抜けゆっくり後ろに倒れた…筈だけど痛く無かったから、何か特殊な力でも働いてたんだろうな。
動けないまま、深い眠りに落ちていく感覚…カイルが呼びかけてた気がするけど、応えることは出来ず瞼を閉じてそのまま眠った。


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「リッド?!どうしたの、しっかりして!」

後ろから抱きついてくれていた温もりが急に離れたから、慌てて振り向いたら砂浜に倒れたまま動かないリッドが居て。その場に跪いて声を掛けたけど応えてくれなくて…死んじゃったのかと思ったけど、胸に耳を押し当ててみたら鼓動が聞こえたから、一旦は安心した。
さっきまで元気だったのにどうして急に…不安に襲われながらもそっとリッドの頭を撫でようとして、後ろから声を掛けられる。

「起きていたら確実に色々と言ってくるだろうだろうからな。眠って貰ったんだ」

ゆっくり話をしよう。振り向いてみればさっきとは違って落ち着いた様子で話しつつ、その場に座り見上げてきたから俺も地面にお尻をつけて同じ目線になる。

「ちゃんと名乗ってなかったな。僕はキールだ」

「私はファラ。カイル君って呼んでいい?」

「キールさんに、ファラさん…はい、好きに呼んでください」

「分かった。僕は普通に名前だけで呼ばせて貰う。
色々と聞きたいことはあるが、重要なことを先に「どうやってリッドから好きって言って貰ったの?」

真面目な話をしようとしてるキールさんを遮って、ファラさんが前のめりになりながら質問してきた。
これはもう、変に話を増やしたりせず何があったか素直に伝えた方がいいかな?

「えっと、少し長くなるんですけど……」

ちゃんと前置きってのをしてから、リッドに出会ってから今まであったことを包み隠さず話した。
(命を取っても構わないって願いながらキスしたら本当に少し寿命をあげたことになったって話した時は、二人とも凄く驚いてたなぁ)

「俺、本気でリッドのことが好きです。これからもずっと一緒に生きていたいって、心の底から思ってます」

じっと、二人のことを見つめながら。嘘偽りのない気持ちを真っ直ぐに伝える。

二人とも暫く黙ってたけど…短いため息が聞こえたと思ったら次に笑い声がして、ファラさんが口を開いた。

「そこまで言われちゃったら仕方ないなぁー…リッドのこと、よろしくね」

大切にしてあげないと許さないから。腕を伸ばしてぽんぽんと優しく俺の頭を撫でながら、ほんの少しだけ寂しそうに微笑むファラさんに、ハッキリ返事をして任せてくださいと大きく頷く。

「僕は反対だ。……けど、これから話すことを聞いても気持ちが変わらないなら、考えてやってもいい」

キールさんの方はまだ納得してないみたいで、不満そうに眉を寄せながら俺のことを見てたけど…大事な話があるみたいだから、ピンと背筋を伸ばして待つ。

「カイルも含めて僕らは人間だが、リッドはセイレーンだ。無理に地上に上げてしまえば命を縮めるだけだし、かといって僕らが海の中で生きることは出来ない。
だから…リッドには内緒で、これからは人として生きて貰えるようにとても強いまじないを施そうと思ってる。その為に必要なのは……」


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ゆっくり、意識が浮上する感覚。
身体を起こそうとしたけど、やたら重くて上手く動かない。何だコレ。

「おはようリッド。起き上がれそう?」

俺の名前を呼んで顔を覗き込み、心配そうに見てくるけど…誰だか分からなくて軽く眉を寄せる。悲しそうに眉を下げるのが見えて一瞬胸が痛んだけど…どうしてだろうな。

「……重くて無理だ。起こして貰っていいか?」

敵意や悪意は感じなかったから、素直に頼ることにする。
嫌がられなくて嬉しかったのか笑顔を見せて頷いた後、背中の下に腕を入れてゆっくり起こしてくれた。

「やっと起きたのか。遅いぞ」

「ずっと待ってたんだからね?」

起き上がって直ぐ、懐かしい声が聞こえて。まだ少しぼんやりするけどゆっくり頭を動かして見れば幼なじみの二人がそこに居た。
久しぶりに会えて嬉しかったから勝手に顔がニヤけて…誤魔化すのに両手で頬を覆って動かしたら、背中を支えてくれてる奴が可愛いねって笑ってたな。不思議と嫌な感情にはならなくて…寧ろ、ほんの少し照れちまった。
ニヤけた顔は戻ったから手を離して、目の前に居る二人をもう一度見る。

「そう言われてもな…寝たくて寝たわけじゃねぇよ。そもそも、何で俺地上に居るんだ?やたら身体重いし…」

「それについては僕から説明する。
了承を得る前にしてしまったことを悪いとは思うが…今のリッドは、セイレーンじゃなくて普通の人間だ。僕もファラも、そこで背中を支えてるカイルも、一緒に生きていたいと願ったからな。
そのせいで記憶が抜け落ちている部分があるんだ。無理に思い出さなくても支障はないから、気にしなくていい」

「………は?」

とんでもないことを言われたせいで思考が止まり、やっと頭が回る頃には間抜けな返事が口から出た。
本当に突然過ぎて…俺が、人間になった?だから身体が思うように動かないって?おまけに記憶が抜け落ちてるって……どうゆうことだ?

「これからの住処なら心配は要らない。カイルの家が孤児院で、両親に確認をとったら了承してくれたから暫くはそこで世話になるといい」

まだ理解が追いつかない俺を置いて、ペラペラ喋るキールに段々腹が立ってきたから。砂を掴んで顔に向けて掛けてやった。
文句を言うキールは無視して、頭だけ振り向きカイルと呼ばれた人の方を見る。全然知らない筈だけど…どうしてだか気になって見つめてたら目が合って、一瞬、鼓動が跳ねた。
それは向こうも同じだったみたいで、目を見開いたと思えば顔が赤くなって…慌てて視線を逸らしたのが何となく気に入らなかったから、カイル、と名前を呼んでみる。

「なっ、なぁに…?」

まだ顔は赤いまま、もう一度目が合う。今度は逸らすことはせずにじっと見つめてきて…何だコレ。すげぇ照れる。どんどん鼓動が早くなってどうしたらいいのかよく分からなくなってきた。
お互い見つめ続けてたら、自然と顔が近づいて…もう少しで触れそうってタイミングで、いい加減にしろ!ってキールに怒鳴られてハッとする。

「もう、キール?空気読みなよ、良いところだったのにー」

ファラの機嫌悪そうな声を聞きつつ、慌てて身体を離そうとしたけどまだ上手く力が入らなくて横に転びそうになり、すぐにカイルが片腕で受け止めてくれた。

「わ、悪ぃ…」

「気にしないでよ。俺もちょっと変だったから…上手く歩けるようになるまでは、俺がおんぶして行くよ」

ほんの少し気まずい雰囲気だったけど、ちゃんと座らせた後俺の前で屈んで背中を向けるカイルに安心して…甘えていいのかと戸惑ってたら、ファラに持ち上げられてそのまま背中に乗せられた。

「ありがとうございます。…良かった、今度はちゃんと重いね」

笑顔でお礼を言った後ゆっくり立ち上がって…重さに安心したってことは、前に背負ったりしたってことだよな?
さっきキールが言ってた抜け落ちた記憶ってのはきっと…カイルのこと、なんだろうな。
後で聞いてみるかと考えつつ、背中から伝わる温もりと歩く度に揺れる動きが妙に心地よくて、眠くなって……いつの間にか寝落ちしてた。


------


それから数日。
カイルの家である孤児院でお世話になりつつ、少しずつ地上での生活に慣れてきた頃。全員で遠出して、海にピクニックに行くことになった。
人間になってからは初めて行くから、泳げるといいんだけど…

そんな不安は別にしなくて良かったな。水着ってやつを着て海に入ったら、身体が勝手に動いて…前と変わらないくらい自由に泳げた。
この調子なら狩りもやれるかと思い一旦海から上がって、銛を作ろうと材料を探す。

探す内に随分と皆から離れた所まできて…そしたら、見知らぬ男数人から声を掛けられた。
これが前に聞いたことがあるナンパってやつか。顔が可愛いなら何でもいいって奴らも居るから気をつけろとは言われたけど…まさか本当に居るとはな。
適当にあしらいつつ海に逃げてしまえばこっちのものだと向かってたら、腕を掴んで止められ、人数の利で直ぐに囲まれた。
これは流石にマズイか…?冷や汗を掻きつつ、ゆっくり深呼吸してから大きく息を吸い全力で歌う。

そうするとどこからかものすごい勢いでカイルが走って来て、周りに居た男の肩を掴み全力で後ろに引っ張って転ばせ、腕を掴んでた奴は、手首を掴んで痛みで離させた後腹に蹴りを入れ、同じように転ばせてた。

「遅くなってごめん!!腕、痛かったよね…」

掴まれていた場所を見つつ間に合わなかった事で悔しそうに顔を歪めるから、これくらい何ともないと笑ってみせたけど…うっすら手形が残ってたから納得はしてくれなくて。
とりあえず早く冷やそうと俺の手を優しく握って引っ張るから、一緒に歩いて向かう。
男達が引き止める声が聞こえたけど、カイルが振り向いて全力で威圧したら黙り込んだ。

「ちゃんと見てた筈なんだけどなぁー…これからはもっと気をつけるよ」

ゆっくり歩きながら皆が居た場所に戻って座り、氷嚢を当てて貰いつつ苦笑いするカイルと目を合わせて話をする。
そうしてくれと念を押した後笑ったら、頑張るって意気込んでたな。

カイルと過ごした時の記憶はまだ戻ってないけど…正直、どうでも良くなってきた。
孤児院の子達は生意気だけど可愛いし、カイルの両親は暖かい人達だし…何より、今目の前に居るカイルのことが好きだから。まだ伝えてないけど、何となくは伝わってる気がする。

今の俺は子供達の寝かしつけ担当。不思議なことに俺が歌うと、どれだけ元気にはしゃいでる子でも直ぐにうとうとして眠りに落ちるからな。カイルは拗ねてたけど…部屋に行って一人だけの為に歌ってやったら、満足そうに笑ってそのまま寝るから今では習慣になってる。

寝かしつけだけじゃ衣食住のお返しになってないから、他にも何かやれる事はないかって思ってて…海での狩りが出来そうだから、後で提案してみよう。

「あ、一人では行かせないからね。またナンパされたら大変だし、絶対俺がついて行くから」

心の中を見透かしたみたいに言われたから、驚いて目を見開きながらじっと見つめる。
泳いでるリッド見てたら何となく、と直感頼りだったらしい発言にまた更に驚きつつ、これじゃ隠し事なんて無理だなって笑うしかなかった。


------


それから一年くらいして…いつまでもお世話になる訳には行かないし、孤児院から出ることにした。
とは言っても、カイルの兄貴分であるロニが用意してくれた家だし、同じ街の中だからいつでも会える距離だけどな。

で、毎日ってくらいの頻度でカイルが遊びに来るから…いっそ一緒に暮らすか?なんて冗談半分に笑いながら言ったら。
あっという間に話が纏まって、本当に二人で暮らすことになった。

その初日の夜。同じベッドで横になってたけど、お互いにドキドキして全く寝付けなくて…カイルからは何度も聞いたけど、俺は恥ずかしくて言えなかったことを、今だからこそ伝えようとゆっくり深呼吸して口を開く。

「………、だ…」

本当に小さな、聞こえたか分からないくらいの微かな音で、初めて言えた。
早まる鼓動が煩くて堪らない。ああ、いっそ言わなきゃ良かったか。なんて思ったけど…いつの間にか目の前にカイルの顔があって。
そっと優しく、お互いの唇が触れる感触がした。

「嬉しいよ…やっと聞けた。本当に嬉しい…」

今にも泣き出しそうな、でも嬉しそうな笑顔で話して…繰り返し、触れるだけのキス。
触れる度に身体の熱が上がっていく感覚がする。でも嫌じゃない…寧ろ、心地良いとすら感じて。このまま任せてしまおうとほんの少し微笑みつつ、カイルの後頭部に手を添えて引き寄せもっと長いキスをねだった。


---END---


後日談へ続く…??


☆☆☆

お久しぶりです!最近、とはいっても一年と少し前からハマったカイリドで、やっと一本書けましたので投稿させて頂きますー!

タイトルは、旅人とセイレーンのキセキ、でお願いします(*´-`)

pixivの方でも上げてるのですが、URLで乗せた方が良かったりしますか…?その辺り分からないので、何かありましたら何でも仰ってくださいましー!



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