short | ナノ



From "I" to "You" ver.2012





「めずらしいね。ピアノの前に座ってるなんて」


扉をあけて入ってきた黒い少女は、
すでに部屋の中にいた白い少女に言う。


「うん……今日、は…ね」

歯切れの悪い解答。

その理由を黒い少女――ロードは知っているので何も言わない。


飛鳥は、あの人を想うとき

必ず、このピアノに弾きにくる。




「そっか、今日…か」

「うん。せめて、届けばいいな…」

さみしそうに、そういう飛鳥。


?今日?は、逢うことの許されない

 愛しいあの人の、生まれた日。



僕は目を伏せて、そっと飛鳥に抱きつく。



「なんか、さみしい…ね」

「それは、ロードもでしょ」

「全部、どうしようもないこと、だもん…」

そうだね、とほほ笑む飛鳥はすごくきれいだった。

飛鳥にわからないようにそっと、背後に小さな扉をつなぐ。



夕暮だ。

陽に溶けていく。



「ねぇ、聴かせてよ。…………飛鳥のピアノ…」


僕の言葉に静かにうなずいて、鍵盤に指をおく。


(…大丈夫……僕が、あの人に届けてあげる…)


エクソシストなんかに手を貸すは

きっと、?今日?だけ。



――― ――― ――― ――― ――― ―――



任務先の人気のない、静かな郊外。
つい先ほど戦闘の終え、六幻を鞘に収め静かに息を吐く。

ポンっ!
軽い音をたて、背後に何かが現れる。

「っ!」
咄嗟に、振り返り六幻を構える。

そこにあったのは、手のひらサイズの小さな扉。
ノアのガキが所有しているものと極似している。

「ちっ…新手かよ…」

いましがた戦闘を終えたばかり、
苛立ったまま、しっかりと六幻を構えなおす。


『……だ…神田!イノセンスなんてしまってよ!』

小さな人形のような形でノアのガキが出てくる。

『今日は、届けモノしに来ただけだから!』

ガキはちいさな手を否定するようにブンブンと振った。


「はぁ?届けモノ…?」


『 うん。 あの子から、神田に 

  たいせつな、贈り物…だよ…… 』

それだけ言うと、扉の向うにひっこんだ人形。



次の瞬間、聴こえてきた音に

思考のすべてが奪われる。



『 ………Some … my……… come …… 』


扉の奥から流れる、ピアノの音。

それにのって、微かな歌声。



あいつが弾くピアノを


あいつが唄うこえを


聴き間違うはずがなかった。





ただ、しずかにながれるその音に身体を預ける。


『…Some day my prince will come
  Some day we'll meet again
  And away to his castle we'll go
  To be happy forever I know ………』


「………っ…」


高いFの音の余韻を残して、

呟くような飛鳥の声だけが響く。






From " I " to " You "
(I believe when some day my prince will come.)







『……Happy Birth day …ユウ…

 ………生まれてきてくれて、ありがとう…』


消え入りそうな、泣きそうな飛鳥の声に

この戦争の中、I need youの言葉が許されないことを実感する。


なら、せめてもの返礼に


「 Don't cry.
  I will call for you surely.
the place in which darling you are for.

  surely.
It is because I love you.




6月6日  午後5時すぎくらいのこと。


愛しいお前へと

愛しいあなたへと



今できる、最大の愛を。








2012 Birtheday
『Some day my prince will come』より。
だんだん暗くなっていくのは、気のせい…?
あなたの生まれた今日いう日に
感謝をこめて。

2012.06.06