short | ナノ



From "I" to "You"






From I to You.

(わたし から あなた へ )


はじめて会った日のこと、覚えてますか?


あの日から、もう何度も季節は巡って。


きっと、あの日の記憶は

色褪せることなく、

ずっと、ずっと、私を縛り続けるんでしょ?


こんなことなら、出会わなきゃよかった。








「………っっ!!…はっ…はっ…………このッ!!!!!」

荒い息と金属がぶつかる音があちこちで響く。


アレンとティキ。

ラビとロード。

神田とわたし。


それぞれが対峙しながら戦っていく。



19世紀末。

日本・江戸。

伯爵さまに命ぜられ、江戸へ来たエクソシストたちの相手をする。
まぁ、単なる余興に過ぎないので、兄弟たちは本気ではない。

それでも、エクソシストたちはこれまでの疲れも重なって、負け寸前。


ただ、ひとり


神田ユウを除いては。





その神田は今、わたしの目の前にいる。


お互いに刀を構えながら、相手の動きを探る。


「ねぇ、ユウ」


忙しく動く周囲に反して、ここだけは静かで冷たい時が流れる。




「なんで、そんな悲しい目をしてるの?」



「守ると決めたお前に、刃を向けているからだ」



ただ、淡々と告げる。


「そっか…」


彼の泣きそうな目に映る私も、泣きだしそうな眼をしていて。


「…っ……飛鳥!引くぞ!!!」


アレンの太刀を振り払って、ティキが叫ぶ。

その隣にはロードの姿も。




「わかった」




時間切れ。タイム・リミット




「もう、さよならだね」



「おわんねぇよ」



ぐっと距離が縮まる。

ユウの長い髪が頬に当たってこそばゆい。

耳元に唇を寄せる。



「え…?」




「迎えに行くから、生きて、待ってろ」



それだけ言うと、ティキのいる方へ戻される。


「神田っ!何して……」

「るせぇ」

「でも、あの子ノアですよね」

「関係ねぇだろ」

「えっ…?」



「飛鳥、アレが前言ってた…」

「うん……。さっ、早くいこう」

「ねぇ、飛鳥。ホントにいいの?怒んないよ?」

「いいの。勝つことが先」

「そっかぁ」

「よしっ!じゃぁ、少年。さらばだ!!」

ティキたちが颯爽とロードの扉の中へ入っていく。


最後に一度振り向いた際、ユウと目が合った。


その口元が微かに動く。



ア・イ・シ・テ・ル



涙でかすんだドアが静かに閉じる。










From I to You  /0606


史上最悪とまで言われたあの戦争から、もう2年が過ぎたね。

そして再会できて1年。

ボロボロで、敵で、ユウの仲間を何人も殺した私を、

ユウは約束通り、迎えに来てくれて。

こうして、今は静かに暮らしてる。

あの時、"さよなら"って言った私を否定してくれたこと。

迎えに行くから、と、"生きてろ"と言ってくれたこと。

どんなに嬉しかったか。

思い出したくもない、嫌な記憶もたくさんある戦争だったけど、

ユウとあえて、ほんとうにしあわせなんだ。


ねぇ、ユウ。




「何書いてんだ?」

「っユウ!!!」


覗き込むユウから見えないように、急いでページを閉じる。


「いつもの日記か?」
「まぁ、ね」

ほら、と片手に持っていた紅茶をくれる。

ユウが隣へ腰掛けて、景色を一緒に眺める。

視界の奥に広がるのは、静かな郊外の街と美しい海。

潮風と暖かい空気がちょうどいい昼下がりの庭を演出する。


あの戦争が終わって、ユウと2人でここに住むようになった。

今でも微妙に活動している教団から支給された家で、

海の見える、郊外の静かな街にある。



「ねぇ、ユウ」

「なんだ?」


「今日、誕生日でしょ?」


一瞬おどろいたように目を見開くユウ。


「あぁ、確かそうだったな」

「そうだった…じゃないよ!大事な日じゃん」

「そうなのか?」

「そーだよ。ユウが生まれた日なんだから」

「生まれた日って言ったって、俺は創られた日だぞ?」

「違うよ。"神田ユウ"が生まれた大切な日だよ」


あなたという人格が生まれて、

たくさんの人を、世界をうごかすきっかけとなった日なんだよ。


「そうなのか。…飛鳥、お前の誕生日は?」

「え?……そういえば知らないな…。
元々ノアは7000年前からオリジナルがあるわけだし…」

「そんなこと聞いてんじゃねぇ。"飛鳥"が生まれた日をきいてんだ」

「覚えてないよ、そんなの」

ふと考えるようなしぐさをとる神田。


「じゃぁ、今日がお前の誕生日だな」

「えっ…?」


紅茶を片手にしたまま、こちらに向き直るユウ。

その表情は、いつもの仏頂面ではなく。



「ちょうど一年前の今日。俺はお前を見つけた。

 その日がお前…"神田飛鳥"が生まれた日、だろ?」


ずるいよ、ユウは。

あったかい笑顔で、そんなこと言うなんて。


「そうなの、かな…」

「そうだ。"神田飛鳥"になった、大切な日だろ?」

「そうだね。ありがとう、ユウ!」






From "I" to "You"
( わたし から あなたユウ へ )


ユウは私に2人の暖かさをくれた。

ユウは私に恋、愛をくれた。

ユウは私に家族をくれた。

ユウは私に大切な日をくれた。


抱えきれないほどの愛情と、思い出をくれた。


掌から零れおちちゃいそうなくらい溢れる、

それに対する返礼は

精一杯の笑顔と、



愛情で。






From "I" to "You"
わたしからあなたへ、愛をこめて







願わくば



ともに歩めむことを



愛しき人が、幸福に満ちらむことを




死が二人を別つまで











2011年誕生日夢
原作があんなになっている
この時期だから、
やっぱり神田くんには
幸せになってほしいと
切に願います。
2011.06.06