感情論 | ナノ



07.見上げた空



駆けあがった階段の先


オレンジから紫へグラデーションを

はじめている一面の空。




右に折れ、少し奥へ進むと

まぶしい夕日に照らされた物陰に、ベンチがひとつある。


一番広い屋上庭園とは別の屋上。
校内でも奥の方にあり
つい最近まで立ち入り禁止になっていたことで、
生徒にはあまり知られていない場所だ。






肩より少し長い黒髪。


夕日に照らされ、タイルにも長い黒が落ちている。





かつっ、と靴音が響く。


ゆっくりと神田が振り返った。





「来てくれたんですね」




息が止まるかと思った。



それほどに、神田の声が自分の中で反響した。






今までに味わったことのない感覚。



夕日の香りがする。



淡く笑った神田だけがうつる。












「先生?」



「あっ、あぁ…」



3人がけの端と端にそれぞれ腰掛ける。









右に座る神田はずっと空を見上げている。


何もしゃべらない。



息が詰まるような沈黙が続く。





「まだ、星は見えないんですね」


神田の視線が正面を向く。

落ちきっていない日が眩しい。







「ねぇ、先生」




この前私の言ったこと、覚えてる?



神田が俺の方を向く。




「ゲーム…をしよう、ってアレか……?」





「そ。私と先生は恋人同士」




「っっ……仮、だろ?」




「はい。でも今は仮にも恋人同士ですよ、直獅先生」







納得したのか、また空を見上げる。



さすが星月学園の生徒、といったところか


神田も他の生徒と例外なく星が好きらしい。














しばらく沈黙が続いた。








ふいにねぇ、先生?と、神田が呟く。









「恋愛って、たのしいの?」





小さい子供が、

なんで空は青いのとでも聞くように

純粋に発せられた疑問だった。








「どうして、だ」





「いや、なんとなくきいてみたかっただけ」







少し目を伏せる。




耳にかけていた髪が落ちる。




あの朝かけていたメガネが今日はない。



深い深い黒の色だけがビー玉みたいに揺れる。





不覚にも、キレイだと思った。









「お前はなんで、こんなゲームなんてもちかけたんだ?」




声に反応して顔をあげる神田。




「えっ…先生が話が面白すぎたから」



どうしてそんなこと聞くんだといった風に返す。




「なっ…」


「先生がどう思おうと勝手ですが
 私は、恋愛なんてただの遊びだと思ってるんです。
 私と先生との考えの対比が面白くて。


 実際に私が恋っていうものをしたら分かるんでしょうか」




呟いたことばは


いつものように冷たいものではなくて




どこかさみしげて、とても小さかった。













07.見上げた空
(いつもの空、この手が届く距離の溝)













そのあとは何も言わず、





ただ、空を見上げていた。












120403
結局なにが書きたいのか分からなくなって
途中であきらめた。
伏線…になれたらいのだけれど…。