はろ、はぴ | ナノ



07.新入部員と少女A



「はじめまして。神話科二年の神田飛鳥です。よろしく」


そう言ってふんわりとほほ笑んだ先輩は、弓道部ではないらしい。



さきほど、少し遅れてきた犬飼先輩と一緒に道場へ来た。

先輩たちもなにも違和感のないようで、
てっきり弓道部の先輩かと思ったら、違うという。。
ただ、弓をひきに来てるだけらしい。


「よ、よろしくおねがいしますっ!」
「そんな肩はんなくてもいいのに。
 じゃっ、はじめよっか」
「はいっ!」


今日は神田先輩が指導にあたってくれるらしい。


「まず、一本ひいてみよう」

先輩の言葉に、弓と矢を持って的前に立つ。


入部したてのころに習った
射法八節にそって弓を進めていく。




パンッ!




軽い音と共に、矢が飛んでいった。

ささったのは的より遠く離れた2時の方向。


弓を戻して、ずっと僕の射を見てた先輩の方を向く。



「………小熊くん、山羊座?」
「えっ……そうですが…」
「やっぱり?射がそんな感じしたんだ」
「そんなかんじ?」

うん。と軽く頷く先輩は、思った以上に変わった先輩なのかもしれない。

若干よくわからない…。


「小熊くん、なんか自分でひいてて違和感ある?」
「違和感、ですか?」
「そう。なんかスムーズにいかない、とか…」
「………肘が、うまく後ろに入ってない気が、します……」

少し考えるようなしぐさをとってから、よし!と声をあげた。


「たぶん間違ってないと思う。
 うちあげるとき、いつもより高く、遠くして………」


自分の弓で再現しながら、教えてくれる先輩。

「………こんなんで大丈夫?」
「はっはい!ありがとうございますっ!」
「じゃぁ、もう一本持ってみようか」
「はいっ!」


矢を番え、さっき注意を受けたところを意識しながら弓をひく。


パンッ!


今度はギリギリだが的に当たった。


「「「「「よしっ!」」」」」


弓を元に戻し、的前からでる。
先輩の表情は明るく、なぜかすごく興奮している。


「そ!それ!ぎゅいーんって……いてっ!タカ…?」
「ぎゅいーん、じゃわかんねぇだろ。小熊困ってるぞ」

そんな先輩を止めたのは、犬飼先輩。
弓を持っていない方の手で、先輩の頭を小突く。


「っで、タカ何?」
「あぁ、立射やるんだけど、人数足んなくて…」
「私はいいよ。もう射込みはおわり?」
「あぁ、じゃぁ、第2の中に入って」


どうやら、今から試合形式に入るらしい。

今日は夜久先輩がいない分、一人人数が足んない。
それで、神田先輩が呼ばれたのだろう。






*〜*





「選手一歩前へ」

しんとした空気の中、一列に並んだ先輩たちが一歩前へ出る。

5人立の立射。

部長、副部長、白鳥先輩、犬飼先輩、神田先輩の立順。


それぞれが前から順番にひいていく。


パンッ!



軽い音と共に、部長の矢が的へささる。

空気が切りさかれたように鋭い。



……やっぱりすごいや…。


金久保と書かれた的中表にしっかりと○を書き込む。


-----------------------------

金久保 ○
宮地  ○
白鳥  ×
犬飼  ○
神田

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次は神田先輩の番だ。


打ちおこしの状態から、ゆっくりと弓をおしひく。



…すごい、きれい………



頬と口に矢をつけた状態で伸び続けている先輩。


教本通りの美しさとはちがうのだけれど。



凛としていて、

ゆるぎなくて、


けど、どこか閉鎖的で。




的を見つめる眸は

強く、鋭い。


さっきまで笑っていた先輩からは想像できない。




弦の軋む音がしてから、矢が飛ぶ。



パンッ!




ささったのは、ど真ん中。







07.新入部員と少女A





四本目が終わり、射場から神田先輩が出る。





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金久保 ○××○
宮地  ○○×○
白鳥  ××○×
犬飼  ○×○×
神田  ○×○○

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110809

梓は入部前です。
ただ、主人公も弓が引けるってことが
言いたかっただけの回。

*補足*
 
【的前】 弓を実際にひく位置
【射法八節】 弓の基本動作
【射】 単体で使うときは、動作全般
【矢を番える】 矢を弓にセットすること
【立射】 立ってひく弓のこと
【第2の中】 第二射場の中のこと
 射場は3つ区切り。
 大きな道場でも第四射場ぐらいまで。
 的は右から、御前・中・落とよぶ。
 六つ的が張ってあれば、第2の中は5つ目の的。
【5人立ち】 団体戦の場合、
 5人1組と3人1組がある。