紫陽花 Ajisai    萌葱の葉 3


「何でしょう? アタシに出来ることだったら聞きまスよ」
「隊長にしか出来ません」


真剣に、目を逸らさずに私は彼を見つめた。
浦原隊長は、そんな私の視線に気づいていながらも何も気づかないフリをしている。
私のお願いを聞いてくれるだろうか?
この人は人に協力なんてしない。
優しいようで、厳しい。
でも。
でも、優しいから。
予想もつかない。


「アタシにしか出来ないことっスかぁ〜? さぁ、何でしょうねぇ」
「実験のことです」


率直に、遠まわしに言うことは止めて本題に入った。
「実験」という言葉を聞いた瞬間、浦原隊長は一瞬だけ鋭い目をした。
予想もしていなかったのだろう。
不器用で、才能もなかった私の口から実験なんて言葉が出るなんて。


「実験店っスか。宿題でも出たんスかぁ? 自分の力でやらないと。すぐ聞いたら駄目っスよ」


どこかで聞いたことがある言葉。
きっと捏隊長から、昔言われた言葉だ。
そんなことより、浦原隊長を何とか納得させなくては。


「そんなんじゃないんです。私、今1人で実験をしているんです」
「ゆず乃さんがっスかぁ!?」


ワザとらしく驚く浦原隊長。
私は冷静さを保って、表情を崩さない。
絶対に引けない。
この男に少しでも弱みを見せたら負けだから。


「お願いします。隊長にしか分からないんです…」
「…アタシにしか分からない? ゆず乃さん、何を作ろうとしてるんスか?」


どこか厳しい顔をして、浦原隊長は私を見据える。
もう、さっきまでのふざけた彼ではない。
本当の彼の顔だ。


「それは…教えられません」


私は顔を伏せる。
誰にも言わないと、決めているから。
例えそれが浦原隊長であっても同じだ。


「まだ、誰も作ったことがないモノを作っています。ですから、誰にも言っていません」
「………」


浦原隊長の厳しい視線が痛い。
威圧感で押し潰されそうだ。
この人は今、どう思っているんだろう?
計り知れない。

私達は、しばらく沈黙を続けた。
静けさが逆に煩く感じる。外
の風邪の音や、少しの物音でさえも際立って聞こえる。
私は緊張していた。
そして、沈黙は破られる。
浦原隊長が口を開いた。


「ふぅ〜。まぁ良いでしょう、教えてあげまス♪」


一気に周囲の空気が軽くなる。
私は、力が抜け目眩がした。


「おや? ゆず乃さん、大丈夫っスか?」


額に手を当てた私に浦原隊長は、白々しく聞いた。
私は溜め息を吐いた。
そして浦原隊長を見上げる。


「…本当に、良いんですか?」
「男に二言はないっス♪」


それは浦原隊長にも通じる言葉なのだろうか疑問に思う。
でも…安心した。
私は、微笑を浮かべ浦原隊長を見た。
そして、手を差し出す。
不思議な顔をして、私の手と顔を見比べる浦原隊長。


「ふふっ、握手です。これから、お世話になります」


私の言葉に、浦原隊長は苦笑いを浮かべる。
そして、呆れたような顔で私の手を取った。




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