「何事だネっ! ゆず乃っ、また君かネ!」
戻って来たマユリが、凄まじい形相で睨みつける。
隊士達は慌てて遠ざかった。
今関わったら殺される。
そんな恐怖に体を震わせている。
「どうして怒ってるんですか? 今、隊長との思い出を話していたんですよ?」
「思い出? 身に覚えがないネ」
マユリは、ついに頭を抱える。
ゆず乃の変貌ぶりの気色悪さに、頭痛を覚える。
「何言ってるんですか!? 忘れたの!?」
興奮のあまり、敬語すら省略してゆず乃はマユリに掴みかかった。
マユリの頭がガクンと揺れる。
たまに見る光景だ。
やっと前のゆず乃だと、隊士達は少し胸を撫で下ろす。
「隊長、私が新人の時に失敗しても優しく頭を撫でてくれたじゃないですかっ!」
「腐ってるんだネ」
「…は?」
「頭が腐ってるネ。どれ、来なさい」
そう言われ実験室に引きずられて行くゆず乃を、助けようとする猛者はいなかった。
部屋に入ると、マユリは道具をカチャカチャといじりだす。
そして、道具を見ながらいくつか質問をした。
「で、いつから腐り始めたんだネ? その脳は」
「腐ってませんよ…何馬鹿なこと言ってるんですか?」
「ふむ、もう大分進んでるネ。では全て取り除いて、開発中の取り外し可能なNo.AH12を使おう」
マユリは、どんどん話を進めていく。
しかしゆず乃は怯えることも、焦ることもなく呆れているだけだった。
溜め息を吐くと、近くの椅子に腰をかける。
「隊長、本当に忘れたんですか? 私にお見合いを勧めた時のことも」
マユリは、ブツブツと呟きながら手術の準備をしていて何も聞いていない。
ゆず乃は、構わずに話し続けた。
「私、本当に嬉しかったんですよ? 本当に…。それで、必死に実験までしてプレゼントを作って」
ゆず乃は、懐かしそうにクスクス笑う。
マユリは、気味が悪いと思いながらも準備を進めた。
一刻も早く、この生き物を何とかしなければとうんざりしている。
「でも、隊長は追放されて…」
その言葉に、マユリの動きが止まった。
同時にゆず乃も言葉を止めた。
マユリが振り返ると、ゆず乃は目を見開いてマユリを凝視していた。
「あ…れ? 隊長、追放されたのに何でここに?」
「…なる程ネ。そういうことだったか」
マユリは面白そうにニヤリと笑う。
ゆず乃は訳が分からず、考え込んでいる。
そんな様子を眺めながら、マユリもまた考えていた。
明らかに、記憶変換装置だ。
そして操作されている記憶から、それを使った人間は十中八九、浦原喜助。
何があったかは知らないが、面白いことには変わりない。とマユリは思い至る。
「まぁ…しばらく様子を見ようじゃナイか」
どうやら変換装置は、まだまだ不十分なようだ。
これを超えるモノを作ることが出来たら、浦原を越せる。
マユリの頭は、既にそれで一杯だった。
「…え? いや、それより隊長! どうやって戻って来たんですか? 何で私は知らないんですかっ」
ゆず乃の質問を、うざったそうにかわしながらマユリはゆず乃を部屋から追い出した。