紫陽花 Ajisai      儚幻 4

現世―――。
空は闇に覆われ、雲1つない。それによって月の光は輝き、住民達を照らしている。

そんな中、空に響き渡る虚の断末魔。
その虚の最後を見届け、ゆず乃は斬魄刀を鞘に収めた。
後はいないか、と周りを見渡す。
夜の現世は、完全に静かではないものの。
どこか寂しげで。
生きるものの刹那の幸せや苦しみ。それらが全て詰まっているような気がする。
それらは、死神にとっては全て一瞬の出来事でしかない。
生きるものが大切に思い、しがみついている時間は。
死神にとっては、あまり重要ではない。
寿命が長いことで、生きる為に目標が必要になる。
何もせずに、ただ長い時間を途方に暮れることは出来ない。
つまり、長い寿命と引き換えに戦わねばならない。
本来、それが全てなのだ。
それによって出来た階級。
それがまた、生きる上での目標となる。
上を目指し、努力する。
それが生き甲斐となるのだ。
つまり、生きる為には目標や生き甲斐となるものが必要だということ。
それは生きていても、死んでいても、存在する限り変わらない。
生きるということは、黙って楽をしていても成り立たない。
上手く出来ているんだか、面倒なんだか…とゆず乃は苦笑する。


「さて、と。帰ろうかな。乱菊と飲む約束もあるし!」


気合を入れると、ゆず乃は飛び立つ。

その遥か地上では、1人の男が気配を消してゆず乃の姿を見送っていた。
ゆず乃が姿を消すと、その男は姿を現す。
浦原喜助である。


「ふぅ〜…。どうやら、元気そうにやっているみたいっスねぇ♪」
「自分で記憶消しといて…」


浦原を軽く睨みつつ、ジン太はブツブツと文句を言っている。
外へ出て行った浦原の後を、こっそりついて来たはずが、最初から気づかれており途中で声をかけられたのであった。


「で、久しぶりにゆず乃さんを見て安心したっスか?」
「…それはこっちの台詞だろっ!? 俺は別に…」


照れ隠しにで浦原に背を向けるジン太。
浦原は、穏やかにそんなジン太を見つめた。


「これで良かったっス♪ 元気そうな姿を見て、改めて確信しましたよ〜」


ヘラヘラ笑う浦原を、ジン太は複雑な顔で見上げる。
確かに、前までのゆず乃はジン太から見ても苦しそうで。
今にも死んでしまいそうだった。
浦原を見つめる瞳は、いつだって切な気で。
辛そうで。
あんな目で見られたら、きっと自分なら目を逸らしてしまうと思っていた。
きっと、浦原も男として同じ事を思い、耐えられなくなったのだろう。
ジン太はそう思っている。


「明日は晴れっスかねぇ〜? あぁ、地下に何か模様を書こうと思ってるんスよ♪」


すっかり能天気な浦原に、ジン太は苦笑する。
自分の尊敬する店長ながら、本当に掴めない。
大人には大人の事情ってもんがあるって、テッサイが言ってたけど。
俺には分からない。

あの日、声も出さずに静かに涙を流していた店長。
それは本当に苦しそうで。
じゃあ、何でそんなことするんだよっ! と掴みかかった俺に、店長は何も言わなかった。
テッサイは、俺を店長から離すと言った。


「大人というものは、真っ直ぐには歩けない生き物なんですよ」と。


俺はまだ子供だ。
だから分からない。
わざわざ、自分から進んで苦しむような方法を取る理由が。


「ぼーっとしてると、置いて行きますよ〜」


扇子を振り回しながら、変な踊りをしている店長を見て、ジン太は決意する。
最後まで見届けようと。

何百年と時間が経とうと、この2人がこれからどう生きていくのか。
その生き様を見届ける。
そして、自分の答えをだそう。
そう決意すると、ジン太は浦原の元へと走って行った。




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