それから私は、なるべく考えないように努力しながら生活した。
あの日から、あの涙を絞りきった日から私は泣いていない。
悲しくないと言ったら嘘になる。
辛くないと言ったら嘘になる。
忘れられると言ったら嘘になる。
だけど、もうどうにもならないのだ。
「ゆず乃〜! 今日、飲みに行かない?」
友達の乱菊が、元気良く声をかけてくる。
私はそれに笑顔で答える。
「良いねぇ〜行く行くっ!」
「今日はねぇ〜、いろんな人を連れて行くわよっ」
また無理矢理誘うのか、と苦笑した。
きっと来るのはいつものメンバーで。
いつものように馬鹿騒ぎになるのだろう。
今の私には、とても有り難い誘いだった。
仕事が早く終わり、私は約束の場所へと向かう。
着くとそこには既に皆が集まっていて、仕事は?と聞きたくなった。
「来た来たっ。さぁ、始めるわよ!」
乱菊の声と共に、飲み会という名のストレス解消が始まった。
「かんぱーい!」
「あっ、そのつまみ取って」
「乱菊さん、今日は俺早く帰らせてもらいます」
恋次の禁句発言に、乱菊は睨みを利かせながら恋次に掴みかかった。
「あんた。そんなこと、許されると思ってんの?」
そう、この飲み会は途中離脱は厳禁なのだ。
1度踏み入れたら最後、飲み潰れるまで帰ることは出来ない。
それがルールだ。
「ところで、一角まで来るなんて珍しいわね」
私が一角に声をかけると、乱菊をちら見しながら「いや…分かるだろ?」と言った。
それを聞いていた修平が、横から「何で俺まで…」と呟いた。
それが面白くて、私は一角にお酒を勧める。
皆、どんどん飲み酔っ払っていく。
「ゆず乃、飲んでる〜!?」
「飲んでるわよぉ〜、もう吐きそう…」
「えぇっ!? 吐くなら私じゃなく…そう、恋次が良いわね。恋次に向かって吐きなさいよ」
言われるまま、私は恋次を振り返る。
焦った恋次は、後ずさりながら修平を盾にした。
「テメェ…」
額に血管を浮かばせながら恋次に掴みかかろうとする修平。
私は笑いながら再びお酒を飲んだ。
一角は既に潰れて、豪快なイビキをかいて寝ている。
弓親も、顔には出ていないが酔っているらしくて。
壁に向かって何か話しかけている。
いつの間に参加していたのか、イヅルもいて。
青白い顔をしながら、1人でどこかの民謡を口ずさんでいた。
本当に楽しくて。
私は、こんな毎日が続くのなら喜助さんのことは忘れられる気がした。
どのくらい時間が経ったのかは分からないが、ジョッキや皿が散乱していて。
気づかない内に、台風でもここを横切ったのかと本気で思う私も、随分と酔っているのだろう。
同じ事を思ったのか、酔った恋次が「敵かっ!?」と言って斬魄刀に手をかけていた。
私と乱菊は、そんな光景を腹を抱えながら笑って見ていた。