浦原が店の中に入り、部屋の襖を開けると、そこにはちゃぶ台を囲みジン太とウルルが座って浦原を見上げていた。
テッサイまでもが脇に控えめに立っている光景を見て、浦原は苦笑する。
「おや? 皆お揃いで、こんな夜中に何か会議っスかぁ〜?」
いつも通りにしても無駄だと分かっていても、浦原は普通に接した。
するとジン太が口を開く。
「店長…良いのかよ、このままでっ!」
「あぁ、聞いてたんスか。盗み聞きは駄目じゃないっスか〜♪」
3人を通り過ぎて部屋へ向かう浦原。
そこに、テッサイが立ちはだかった。
浦原は、笑いながらも目を鋭くしてテッサイを見る。
額に冷や汗を浮かべながらも、テッサイはどかなかった。
「…まったく…。お人よしばかりっスね」
浦原は、溜め息を吐くと諦めた様子で座布団に座った。
そして皆を見渡すと、話をする意思を見せる。
沈黙の中、初めに口を開いたのは誰でもない浦原だった。
「で、皆はアタシがゆず乃さんに会いに行け。と思ってるんスか?」
3人は、俯いて何も答えない。
浦原は、そのまま続けた。
「最後に会って、ゆず乃さんはどう思いますかね? もう二度と会えない私の顔を見て、後悔しないっスかね? 自分のしたことを」
冷静に話す浦原の言葉は尤もで、間違っているとは誰も言えない。
恋次も乱菊も、ジン太もウルルもテッサイも。
そんなことは分かっている。
それに言いたいことは、そんなことじゃない。
そして、そのことは浦原も分かっていた。
分かっていながらも、あえて正論を言って誤魔化しているのだ。
「もう…二度と会えねぇんだぞ…っ?」
ジン太は顔を歪めて浦原を見る。
それを平然と受け止めながら、浦原はウルルを見た。
ウルルは目に涙を溜め、小刻みに震えている。
テッサイは、真っ直ぐに浦原を見つめ返してくる。
「店長。俺、大人がそんなに面倒な生き物なんだったら、大人になんてなりたくねぇよ」
ジン太はそう言って自分の部屋へ走って行った。
ウルルも何か言いたそうな表情をしながらも、部屋を出て行く。
テッサイも出て行くのかと目をやると、テッサイは無言で浦原の近くに座った。
「…私は、何も言いません。しかしながら、どうなっても店長について行かせて頂きます」
「本当、参っちゃうっスよ〜…」
浦原は、仰向けに倒れると苦笑する。
昔、新人で右も左も分からないといった雰囲気だったゆず乃。
不器用で、何故十二番隊に配属になったのかと疑問に思った。
正直、面倒だと思ったこともあったが一生懸命な姿で全て許すことが出来た。
ある日、ゆず乃は失敗をした。
私が話しかけると、ビクビクと怯えて泣きそうになっていた。
安心させる為に頭を軽く撫でてやった。
…今思うと、それが全てもの過ちだったのかもしれない。
―――年前。
「隊長、ここが分かりません」
神妙な声色で話しかけてきたのはゆず乃。
アタシは、またかと苦笑する。
何か企んでいるとは、バレバレだ。
だが、可愛いと思い背を向けたまま答える。
「すぐ聞いたら身につかないっスよぉ〜?」
「全然、少しも分かりません。もう駄目です。私は才能がありません。今日は、帰ります」
そうきたか、と思いアタシは振り返る。
すると、信じられない程の速さでゆず乃は「今よっ」という掛け声と共に飛びついて来た。
流石に予想だにしない突然の襲撃に、アタシは動きを止めた。
そこにフラッシュっス。
本当に参った。
しばらくの間、どう対処したら良いか考え呆然とした。
写真なんてものは余計に残しておきたくはない。
だが…。
「やったーっ! やったねゆず乃♪」
「うん…嬉しい…」
そんなゆず乃の姿を見て、水を差すようなことはしたくないと思った。
それに、ゆず乃なら問題はないだろうと。
珍しく人を信用している自分に気づいた。