(現パロ)





私が仕事から帰って来て、自分の部屋のドアの鍵を開けたら中に右隣に住むエース(らしき人物)がいました。








「おう。名前おかえりー!」






元気のいい挨拶に続いてパンッという安っぽい破裂音と共に赤や青や黄色の小さな破片がひらひらと私を包んだ。火薬の臭いを思いっきり吸い込んでしまい、鼻のおくを刺激するそれに小さく咳き込む。え、……え?何これ。





「びっくりしたか?」





ええ、びっくりしましたとも。








「どうして私の部屋にいるのかなエースくん」

「んー?何かドアノブ回してたら開いちまったもんで」





嘘だ。絶対嘘だ。だって私今日出かける前にちゃんと鍵二つかけて行ったよ。
そう反論しようとしたところで、二発目のクラッカーが私を襲ってきたのでその言葉は飲み込まざるを得なかった。つーかうるさっ。火薬くさっ。そして何故にクラッカー?

それで満足したのかエース(らしき人物)は悪びれた様子もなく呑気にお茶をすすり始める。言っておくけどここは私の部屋だ。何故こんなにも奴はくつろいでいるんだろうか。そして未だに下駄箱でぼんやり突っ立っている私に「あ、靴はちゃんと揃えて脱げよ」だなんてほざきやがった。もう一度言います。ここは私の部屋です。


ちなみに何故“エース”の後ろに“(らしき人物)”という言葉がついているのかと言うと何故かこいつは少し斜めに傾いてしまっている白い髭付きの鼻眼鏡をかけるという非常に妙ちきりんな格好をしているからだ。その上頭に乗っているのは紙で出来た横じま模様の派手な三角帽子。仕事から帰ってすぐにここに来たのか服装はスーツという何とも異様な身なりで私は思わず目を奪われてしまった(断じて良い意味ではない)。


何故こんな格好をしているのか、なんてことは聞いたりしない。ていうか聞きたくない。とりあえず早く帰ってほしい。私は仕事で疲れているんだよエースくん。





「ほら、はやく名前も座れよ」





…あれ?ここ私の部屋で合ってるんだよね?

淡々と言われた通りにエースの隣に座った。確かに部屋にある家具もエースが今使っている湯のみ茶碗も紛れもなく私のものなんだけれど、もはや自分が帰る部屋を間違えてしまったんじゃないかという錯覚に陥る。






「あのさ、何でこんな時間に?」




私は壁にかけてある時計を見た。時刻は23時55分。もうすぐ日付が変わってしまう時間帯だ。こんな遅くに何の用なんだろう。
エースは私と同じく時計を見上げると少し困ったように笑った。(ただ私は、まじまじ見ると鼻眼鏡をしているエースがかなり面白いことになっているので笑うのをこらえるのに困った)。「ちよっと間に合わねーかもな」と小さく呟いて私の方に向き直る。え、何?






「名前さ、今日誕生日だったんだろ」





私は「あ、」と声を上げた。エースの可笑しな格好とクラッカーの理由を、わたしはようやく理解した。



覚えててくれたんだ、誕生日。




「本当はちゃんと祝ってやりたかったんだけどさ、皆何かと忙しいだろ?だからささやかでも良いから何かしてやろうって皆と話し合ったんだ」




けどまだあいつら帰ってきてないんだよなァ、とエースは少し寂しそうに零した。


そんなことを考えてくれているなんて少しも思わなかった。私は思わず頬を緩ませる。
時計の下で静かに佇むシンプルなカレンダー。そこには自分で記した誕生日の印が、確かに赤くきらりと光っていた。




「もうすぐ日付も変わるし……とりあえず俺だけでお祝いしちまうか」




エースが短く笑ってポケットからクラッカーを取り出した。一体いくつ持ってきたんだろう。そんなことをぼんやりと考えながら、私はエースに向かって微笑んだ。クラッカーの照準がぴったりと私に当てられる。







「名前、誕生日…………」







ガチャ







「悪い名前!遅れた!」

「サッチ早く上がれよい!」




エースがクラッカーの紐を引っ張ろうとした刹那、ドアが騒々しく開け放たれた(ご近所迷惑!)。そこにはお向かいのサッチと、左隣に住むマルコが息を切らしながら駆け込んで来る。二人とも仕事帰りから慌ててやって来たのかスーツが少し着崩れていた。


そしてサッチの左手には大きなケーキ。マルコの右手には淡いピンク色で統一された花束。
それらは一体誰のためのものなのか、わたしには分かる。きっと自惚れなんかじゃないはす。








ああ、私は今すごく幸せだ。








「どうだ名前サッチ様お手製のバースデーケーキは」

「すごい…美味しそう!」

「だろー!ちゃんと名前も書いてあるんだぜ!」

「マルコの花束も綺麗だね」

「ああ。ちゃんと名前のイメージに合うようにしてもらったんだよい」

「いい男はやることが違うねえ、マルコちゃーん」

「……うるせーよい」




サッチがにやにや笑いながらからかうと、マルコはぷいっとそっぽを向いてしまった。「おいおい照れんなよー」とサッチが肩に回す腕をマルコは鬱陶しそうに振り払う。まったく、いい年して子供っぽいんだからなぁ。私はエースと顔を見合わせてこっそりと笑い合った。






「ほら二人とも、もうすぐ日付が変わっちまうから急ぐぜ」




エースがそう言いながらポケットから二人分のクラッカーを取り出した。いや、本当いくつ持ってきたのこの人は。
黒いスーツを着た大人が可愛いらしい柄をしたクラッカーを持っている光景というのは、改めて見るとやっぱり変な感じだ。サッチが「えー、ごほん」とわざとらしく咳き込んだ。

「寒さがお身にしみるようになった今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。えー本日は、名前さんがお誕生日を迎えたということにつきまして、」

「そんな挨拶おかしいだろい!」

「フツーでいいんだよフツーで」

「え、こういうこと言うもんじゃねーの?」

「馬鹿だもんなーサッチ」

「お前に言われたくねェよ!」

「もう良いからやるよい」




マルコの言葉にエースがにやりと笑って私を見た。サッチとマルコに目配せして、「せーの!」と高らかに叫ぶ。










「誕生日おめでとう!」










三人の声が重なったと同時に、破裂音が部屋に響いた。一つだけでは安っぽかったそれも、三つ重なればかなりの迫力だ。頬がだらしなく緩むのが自分でもよく分かる。鼻の奥がつんとしたけれど、それはこの火薬の匂いのせいだけではないはずだ。





「ありがとう、皆」





小さく呟いた私の言葉と三人の照れくさそうな笑顔が、色鮮やかな紙片の中に滲んだ。









三人三色の
プレゼント









2010.12.05 ナガトさま

誕生日祝いにナガトさんよりいただきました!memoにて呟いた妄想をまさかこんなにも素敵なお話にしてくださるなんて!うっかり涙目です(ρд;)わたしの細やかな夢を叶えてくれてありがとうございました!