「…っ重…い…!」
「おら早く歩けよー。お前のせいでもう真っ暗じゃねェか」
「何で私なのよ!」
「お前が歩くのが遅いからだろ」
「ぐ…」


今日は私の年に一度しかやってこない誕生日である。
なのにこの私の目の前をつかつかと歩くヤソップという男は、そんな私に買い出しのお荷物を持たせて自分は手ぶらというとんでもない暴挙を仕出かしている。
やっと辿り着いたレッドフォース号を必死にあがり、甲板の上にどさどさと荷物を下ろす。二の腕の筋肉がぷるぷると震えた。


「つ…疲れた…」
「おう、名前。お疲れさん」
「ベン聞いて!ヤソップってば酷いんだから!」
「おいコラ、何チクろうとしてやがんだ」
「何だ、またヤソップに何かされたのか?」
「またって何だ、またって!」


ヤソップに一発蹴りを入れながら甲板に散らばった荷物をざっと分けてみる。
クラッカーに大量の骨付き肉、酒がゴロゴロそしてスイーツもたくさん。一目見てわかるくらいのパーティー用の材料がそこにはある。何故なら、どうやら私の誕生日パーティーをしてくれるらしいのだ。
だけど何故その買い出しに私が行って、しかも完全な荷物持ちにされたのかは謎なのだけど。


「…いいにおい。もうお肉焼いてるの?」
「ああ、ルウなんかもう食ってるぞ」
「あの人はいつもじゃない」
「まあな」
「……あー、じゃあ俺は一眠りでもすっか」


そう言うヤソップは大きく伸びをすると、さっさと船室に戻ろうと足を進める。
疲れた疲れた、なんて言って身体全体の筋を伸ばしているけど、疲れたってほど荷物も持ってないじゃないかと心の中で悪態を吐いた。まあいいんだ、ヤソップはいつもあんな感じだし。


「ちょっとくらい祝ってくれたっていいのに」
「あれはヤソップの照れ隠しだ」
「照れ隠し?まさか」


ベンと会話を続けながら、いい匂いが漂ってくるキッチンの扉を開く。それと同時に目に入ったのは、ダイニングテーブルに座ってせっせと折り紙で輪っかを作るシャンクスの姿。
一応この人、四皇なんだけどな。
「名前!遅かったじゃないか!」
「ごめんごめん。…これ何?」
「飾りを足そうと思ってな」
「へー…こんなことしてくれるんだ」
「当り前だろ!なあ、ベン」
「ああ、そうだな」


ベンは優しく微笑むと同じようにダイニングテーブルに座り、テーブルの上にちりばめられた折り紙を一枚ひらりと手に取った。ベンには何だか似使わない、ピンク色の紙がひらひらと揺れる。


「…お肉焼いたのシャンクスなの?」
「ああ」
「この飾りも?」
「いや、これは他のクルー達も手伝ってくれたぞ」
「……へへ、」
「うん?どうした?」
「何か嬉しいなーって思って」


嬉し恥ずかしくて頬が少し熱くなるのを感じた。赤にピンクに黄色に黄緑に、こんな鮮やかな折り紙をおじさんたちが切ったり貼ったりしてたのかと考えると少し可愛くて思わず吹き出しそうになった。
照れを隠すように私もテーブルの上の折り紙を手に取ろうとすると、不意にベンの手が重なる。


「え?」
「指の関節のところ、切れてるな」
「あ…ほんとだ。さっき荷物持ってたからかも」
「まったく…、さて。そろそろ宴でも始めるか?」
「おう、そうしよう!酒は買ってきたんだろ?」
「うん」
「じゃあ名前はヤソップを呼んで来てくれ」
「えー…」
「いいから」
「…はーい」


どうしてか、私はベンには逆らえない。ヤソップにはもちろんシャンクスにだって全然口答え出来るのに、ベンにはいつも妙に丸めこまれるというかなんというか。とにかくいつも反論できないのだ。別に怖いわけでも何でもないのに。
渋々足を進めながら甲板へ出ると、少しひんやりとした風が肌を掠めた。これからここで宴を始めて、お肉にかぶりついてお酒を飲んで。考えるだけでどきどきわくわくと胸が高鳴った。しかし何にせよさっき「一休みする」だなんて言っていたヤソップを呼びに行かなくては事も始まらず。とりあえず彼の船室へと向かっていると、船尾の方に人影が見えた。それはあまりにもわかりやすい、ヤソップの影だ。


「ヤソップー?」
「ん?何だよ?」
「宴を始めるから甲板に集合ってさ」
「おー、そうか」
「うん…何してるの?」
「見てわかんねェかよ。磨いてんだ」


きらり、ヤソップの手中にあるのは彼がいつも愛用してる銃だった。過去の栄光を聞かされるときに必ず登場していた銃。


「大事にしてるのね」
「まあな」「私の事もそれくらい大事にしてくれればいいのに」
「おーおー、一緒に風呂入って背中でも流せってか?」
「そういうんじゃないし!」
「そんなに大胆だったのか、お前」
「違うってば!」


思わずヤソップの腕を叩くと「バカ、冗談だ」とからかうような笑顔を向けてくしゃりと髪を撫でた。すると何でかさっきのベンの台詞が脳裏に浮かんできて、ほんの少しだけ変に意識してしまったのは自分の中だけの秘密。


「じゃあ、私先に甲板行ってるから」
「おう」
「ちゃんと来てよね」
「おい、」
「え?」


ヤソップの声に釣られるように振り向くと、フッと重たい無機質なものが私の手の中に見事に投げ込まれた。さすが命中率100%のヤソップだ。
その投げ込まれたものはさっき丁寧に磨いてた銃。ヤソップがこの海賊団に入ったときから使ってるって言ってた銃が、私の手の中にすっぽりと収まっている。凄く年季が入っていて、決して綺麗とは言えないその銃の重みはまるで今までの戦いの数を表しているかのようで。


「なに、え?」
「お前にそれやるよ」
「は?!だってこれ…!」
「"誕生日"なんだろ?」
「そう…だけ、ど…」
「じゃあありがたく貰っとけ」
「で、でもこれヤソップの大事なものなんじゃないの?」
「ああ、そりゃ一番大事だな」
「そんなの私なんかにあげちゃダメだって!」
「ったく…これだからガキは嫌んなるぜ」
「ガ…ガキって何よ!」


はあ、と溜息を吐きながら柵を降りると私の前に立ちはだかり銃を奪う。既に真っ暗になった夜空には満月があがり、その逆光でヤソップの表情が見えづらい。


「こりゃお頭と出会った頃から使ってる大事なもんだ」
「だったら、」
「だからお前にやるっつってんだ」
「え…?意味分かんないよ、私こんなの使いこなせないし…」
「"だから"やるって」
「へ?なに?」
「お前だからやるっつってんだよ、何回も言わすんじゃねェ」
「は……?」
「本当にボケナスだな、お前は」
「ボケナスって!」


そう吐き捨て足早に私の前から立ち去るヤソップの背中を追いかけた。
甲板に戻ればみんなからのおめでとうが響き、この上ない幸せに包まれる。シャンクスは既に一升瓶を片手に持ち、ベンは一服するように煙草に火をつけ、ルウとロックスターも他の船員たちも、皆の笑顔が胸に沁みた。
それでも何でか一番幸せを感じたのは、腰に掛けたヤソップから貰った銃の重みだった。ベンが言ってた「照れ隠し」は、あながち間違いじゃないのかもしれないね。



意地側は、
本当は照れ隠し?だなんて聞いたらまた意地悪するんで
しょ?



「…ベン」
「どうした、お頭」
「名前がヤソップに取られそうだ」
「そりゃ残念だったなあ」
「くそ…あいつ嫁も息子もいるんじゃねェのか…!」
「今夜は二人きりにしない方がいいんじゃねぇか?」
「不吉なこと言うなベン!!」







2010.12.07 kai様より


kaiちゅんから誕生日祝いに頂きました!四皇とその仲間たち可愛すぎてにやにやが止まりません!そしておっさんの照れ隠しとか、ヤソップが愛しすぎて息が止まりそうです…!(ぜぇぜぇ)欲張りなリク聞いてくれてありがとうkaiちゅん!愛してる\(^O^)/