何でだか、昔から頼みごとをされやすい。そんなにお人好しな面をしてるんだろうか。そう思いながら一休みがてら来たトイレの鏡でじっと自分の顔を見つめてみたら、なんだかナルシストみたいで気持ち悪かった。


「終わるわけないじゃんかー」


入学早々、遠足のしおり作りを頼まれたわたし。何とか半分まで仕上げたが、だいぶ疲れてきて腕が痛い。
他のクラスにもしおり係りがいるみたいなんだけど、誰一人として残ってないし。なんて、ぶつくさと文句を言いながら両手で頬をぎゅっと押さえた。

ガツッ、よそ見していたせいでぶつかった机からドサドサと教科書がでてきてしまった。やば、誰の席だろう?
ノート一冊一冊に丁寧に書かれた名前、奈良シカマル。
その名前をみた瞬間、どきんと心臓が跳ねた。シカマル今なにやってるんだろう、もう家に着いたのかな。ただ名前を見ただけでこんなにも考えてしまうのは、彼が他でもないわたしの彼氏だからだ。


ヴー、ヴー、


もう残りは帰ってからやろう、そう決めて鞄をかけた瞬間、鞄の奥から響くバイブの音。
あとで読めばいいや、と勝手にメールだと判断したが、そのバイブの音がいつまでも鳴り続けることでそれは電話だと気付いた。
焦りながら鞄の中をあさって携帯を手にした時にはもう動きは止まっていて、ぴかぴかと着信を知らせるランプが光る。


「え…」


運命だと思った。
偶然にも着信ありのディスプレイに表示された名前は、奈良シカマル。
迷わず発信ボタンを押して、鬱陶しい呼び出し音を聞く。わたしが聞きたいのはこんな音じゃなくて、シカマルの声なんだから。


「もしもし?」
「あ、シカマル?」
「おー、悪ィな。忙しかったか?」
「ううん、全然」


やっと聞けた彼の声のせいで緩みまくった頬を軽く叩いて、げた箱へと足を進めた。


「どうしたの?シカマルが電話なんて珍しい…雨でも降るかもね」
「降んねェよ」
「へっへーん」
「調子乗って落ちんなよ、階段」


嬉しくって思わず一段飛ばしで階段を下ったら、音でバレたのか呆れ笑いをされた。
この呆れ笑いが好きだから気にしないなんて言ったらまたバカにされそうだから、言わないけど。


「でも良かった、一人で帰るから退屈で困ってたの」
「俺は暇つぶし道具かっつぅの」
「いじけないでよ」
「いじけてねぇし」


肩で携帯を押さえながら靴を履く。
シカマルの声を聞いたら何だか会いたくなってしまって。でも、めんどくせぇって思われるのが嫌で言葉が喉の奥に詰まる。


「あ、じゃあ切るわ」
「は?なに急に」
「家着いたらメールしろよな」
「ちょっ…」


少し乱暴な音を立てて電話を切られた。結局要件も何も言われず、一方的に終わらされてもやもやする。
せめて「声が聞きたかったから」とかさ、何でも良いから言ってくれるばいいのに。
それか実は、黙って外で待ってくれてると………か……―



―…やっぱり運命だと思った。
だいぶ錆び付いた校門に寄りかかってカーディガンのポケットに突っ込みながら気だるそうなに立っているシカマルが、こっちにひらりと手を振った。


「待っててくれた、の…?」
「…通りかかったから」



(うそばっかり)(遅いんだよお前)








2010.05.05 kai.様より

1万打と一周年のお祝いに頂いたシカマル!スカマルでキザマルなシカマルがツボすぎる!!わたしったら、いつかkai.に萌殺されるんじゃないだろうか…!?

kai.ありがとー(^^)