「お、お俺、お前の事が…」
「ウソップ…私も、私もウソップの事が…」




「っていう夢を見たんだよ」
「夢かよ!!期待させんじゃねェ!!!」


相も変わらず美味そうなクッキーやらを持ってきたサンジにそう話し出したら、サンジは口に含んでいたクッキーを盛大に吹き飛ばしながらそう言った。
いやまさか、俺がそんなことアイツに言えるわけないだろ。サンジの持ってきたクッキーを遠慮なしに貰うと、やっぱりそれは相変わらず美味い。

「ウソップお前、チンタラしすぎじゃねェか?」
「んなこと言われてもよー」
「名前ちゃんだって女だぜ?そのうちどっかのイケメンに取られちまうかもな」
「てめッ、縁起でもねぇこと言うなよ!」
「本当のことだろーが」
「はぁ…どうすっかなー…」
「君が好きだって言えばいいだけだろ。簡単なことじゃねーか」
「バカ、簡単に言うなよ」


俺を誰だと思ってんだ。"君が好きだ"なんて言うのにどれくらいの勇気が必要かコイツはわかってねェ。ていうか俺とサンジじゃ見た目も全然違うし、そりゃサンジみたいな男が君が好きさなんてキラキラしたオーラを纏いながら言えば誰もがイチコロになるだろう。俺みたいな平々凡々な男の気持ち、こいつにはどうせわかりゃしない。


「あのな、俺がアイツに告白なんて出来たら俺は世界のキングにだってなれる気がするぜ」
「あ?世界のピンク?」
「ピンクじゃねェ!!キングだよ!!ピンクはお前の頭ん中だろーが!!」
「あー、そういえば名前ちゃん、今日は美化委員で放課後残んなきゃいけねェとか言ってたっけな」
「へ?」
「美化委員、今日はナマエちゃん一人らしいなー」
「…!」
「チャンスじゃねーの?」
「でもチャンスって…どうしたらいいんだよ…」
「それくらい自分で考えろ」


もうひとつクッキーを口の中にぶち込まれると、背中を思い切り押された。さっさと行ってこいというサンジの声が鼓膜にジンと響いて、口の中に残ったクッキーを流し込むように机の中に置いた缶ジュースを飲みほした。
でも確かにそうだ。このままアイツに何も伝えずにいて何が変わるんだ。いつまでも臆病という壁から逃げてたってしょうがねぇだろ、当たって砕けろって言葉があるだろ。
先に帰っててくれとサンジに告げて教室を出たはいいものの、フラれて一人で帰るのも寂し過ぎることに気付いた時には俺は既に走りだしていた。まぁいい、いざとなったら一人でゲーセンにでも行けばいい。フラれたって笑い飛ばしてやる。俺だって、男だ。



走りづらい踵を踏みつぶした上履きのまま裏庭に出ると、ゴミ袋を二つ抱えたあの子がゴミ捨て場に向かって歩いているのが見えた。
一言目に何を言ったらいいか。今日も良い天気だな?やあ、偶然だね?いやいや、違うな。何だ、何て言ったらいいんだ。なんて考えながら走っていたら足元の段差に気付かず自分でも驚くくらい思いっきり転んだ。


「…ウソップ?何してるの?」
「あ、いや、その、」
「大丈夫?」
「お、おう」
「ははっ、芝生くっついちゃってるよ?」


俺に気付いた彼女はゆっくり歩み寄って来ると、俺の肩やらについた葉っぱをパタパタとはたいてくれた。その瞬間、やっと俺の決意は固まった。伝えるぞ、俺。頑張れ、俺。


「ゴミ捨て、大変だろ。手伝うぜ」
「ほんと?助かる!…でも何か用事あったんじゃないの?急いでたみたいだけど…」
「あ…ちょっとジョギングしてただけ




だから」
「え?ジョギング?」


彼女は少し疑問が含まれたような笑顔を向けると、俺に片手のゴミ袋を手渡す。
こいつとは普段からよく話すし女子の中じゃ仲が良い方だけど、だからこそなかなか一歩を踏み出せなくて。だけどそんなの周りからしちゃ言い訳らしい。俺にとっては正当な理由なんだけど。


「あ、あのさ…」
「んー?」
「お…」
「…お?」
「え、英語のテスト何点だった?」
「英語?英語はねー、今回は57点!」
「げ、マジかよ!俺赤点だったんだぞ…!」
「へっへーん、凄いだろー」
「すげぇなー。あれ、お前って大学だっけ?」
「ううん、就職。ウソップは?」
「俺も就職。働きたくねぇなー」
「ねー。でも勉強する方が嫌じゃない?」
「ああ、だから就職にしたんだけどよ」
「私も!」


……。
ち が う だ ろ 。
なに他愛のない話してんだよ俺が頭悪い事伝えてどうすんだよバカか俺は。ゴミ捨て場にゴミ袋を投げ入れ、教室に戻ろうと言う彼女の後ろで自分の太ももを抓って再び自分を奮い立たせる。
人生一度くらいフラれたって死にやしないさ。そう自分に言い聞かせて、先を歩く彼女の背中に向かって口を開いた。


「…なあ!」
「へ?」
「はな、話があるんだけどよ」
「話?」
「おう…」


近づいてきた春のおかげで色づき始めた花壇から、蝶々がひらひらと空を舞って行った。
改めて彼女を目の前にすると緊張からか吐き気さえして、奮い立たせた自分が崩れそうにもなったが俺は必死に持ちこたえた。


「話、って?」
「お、おおお俺さ、」
「うん、」
「…」
「…」
「お、おま…お前の事…っ、す、好き…なんだ」


ぎゅっと瞼を閉じて下を向きながらそう言った俺はやっぱり臆病なんだろうか。言い切った後、目を開けると俺の汚い上履きのそばに彼女のローファーがちらりと覗いた。
でも我ながらよく言えたと自分を無理矢理励ましながら顔を上げると、彼女は少し困ったように笑いながら唇を薄く開く。


「…ウソップ、」
「へ…」
「……私も、すき」


そう言って笑う彼女を抱き締められたらそれこそ男らしいんだけど、ごめん。俺にはそんなこと出来ないみたいだ。
フラれることしか考えてなかった俺はまさかの展開に心の中で小躍りするだけで、頭と身体がついてかない。向き合ったままお互い笑って、ここからどうするとか何もわからなくて。とりあえず、と手を差し出したら彼女の手が柔らかく重なった。
いや、しかし本当に俺にしてはよく言えたもんだよな。でもこのあとどうしようか?デートってどんな感じだ?
ああやっぱり、頭で考えるだけで行動に移せない俺は、臆病からなかなか抜け出せないのかもしれねぇな。



S h e e p
〜Song of teenage love soldier〜
Keep on lovin' you I love you from my heart!




Sheep〜Song of teenage love soldier〜/ポルノグラフィティ
Thank you for the great music!






2011.04.03 kaiさま

前kaiてゅん宅の一周年企画よりウソップ夢いただきましたあああああ!!kaiてゅんありがとおおおお\(^O^)/“世界のピンク”ネタも使ってくれてありがとうww今一歩踏み出せない臆病なウソップが果てしなく可愛くて息苦しさを覚える程です!まじで!大好きな曲からこんな素敵なお話を書いていただけるとはね!ほんと、幸せです(〇´∀`〇)