いつ雨が降り出してもおかしくないような、真っ黒でぶ厚い雲が空を覆っていた。

「これじゃあどこも行けそうにないね」
「そうだな、せっかくの休みなのに…」

 窓の外を眺めるわたしの後ろで「せめてこの部屋に暇つぶしになるようなものがあればよかったんだけど…」と旭が申し訳なさそうに呟いた。旭さえいればわたしは暇つぶしなんていくらでも出来るけど、とは言わないでおいた。

「暇つぶしって言っても旭、ゲームもトランプもオセロも全部弱っちいじゃん」
「うっ…厳しいな、ナナは…」

 窓越しに旭が苦笑いする顔が見えた。
 視線を窓の外に戻すともうぽつぽつと小雨が降り出している。更に上空ではごろごろと雷のくすぶる音。こういう天気が嫌いじゃないわたしは雷が怖いなんてかわいらしいコトは言えない。雷に怯えることができればそれを口実に旭の懐に飛び込めるのに、残念。

「雨ふってきた」
「そっかぁ、あんまり酷くならなきゃいいけど」
「そうだね」

 窓を離れて旭の隣に腰をおろす。一瞬、隣のごつい肩が揺れた気がした。真相をたしかめるべくわざと距離をつめてほんの少しだけ肩をあててみる。…と同時に部屋が光り、直後けたたましい雷鳴が轟いた。

「のわぁッ!」

 そしてこの悲鳴。
 肩があたったことに対してではなさそうな悲鳴に思わず発生元を凝視してしまった。ハッとしてあわてて口元をおさえる旭。これはもしかしなくても。

「…旭、雷怖いの?」
「あ、えと…怖いというかびっくりする…?」

 ふいと顔を逸らして気まずそうに頬をかく姿のなんとかわいらしいことか。身長180超え、またそのいかつい顔立ちから数々のありもしない悪い噂を囁かれるこの男が、雷が怖いだなんて。

「ぶはっ…ホントへなちょこ!」
「大地みたいなこ――…ヒぃッ!」

 思わず吹き出してしまったわたしに反論することも敵わず、またも鳴り響く雷鳴にあっさり負けてしまう旭。かわいすぎて笑いが止まらなかった。

「仕方ないなぁ、…ほら」

 旭の正面にまわってその両耳を自分の手で覆う。膝立ちで、普段見上げてばかりいるその顔をにこりと見下ろせば情けない顔はみるみるうちに赤く染まって。

「え、なにっ!?ナナ…?」

「普通は逆なんだろうけど、」

 ちゅ。

「っ!?」

 轟く雷鳴を聞きながら、真っ赤な顔でおろおろと視線を彷徨わせる旭のくちびるにキスをした。びくんと跳ねた肩は強張ったまま固まってしまい、くちびるを離した旭はもはや泣きそうですらある。

「あ、また光った」

 ちゅ。

 無抵抗なのをいいことにすき放題キスをする。合間に掠れた声で名前を呼ばれればどくんと大きく胸が脈打った。あぁ、仕掛けたのはこっちの筈なのに嵌ってしまったのも結局わたしだなんて。

「ねぇ、また光ってるけど…どうする?」

 旭の耳を塞いだまま、相変わらずの位置から彼を見下ろすわたしの頬に大きくて骨ばった手が伸びてくる。するりと頬を撫ぜた手はわたしがしているのと同じようにわたしの両耳を塞いだ。
 そのまま引き寄せられるように、雨の音も雷の音も聞こえなくなった二人だけの世界で唇が重なった。


或いはきみを世界と呼ぶのかもしれない

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