「先輩にこき使われんのはもうご免です!大体惚れた弱みにつけこんでこんないたいけな少女をパシリにするなんて最低よ!先輩のこと…嫌いに、なりましたから…もう電話もメールもしてこないでくださいッ!………よし」


 完璧だ。コンビニの前でコンビニ袋をぶらさげて拳を握り、この後の予行練習を済ませたわたしはずんずんと先輩の待つ学校の屋上を目指した。本来なら生徒は立ち入り禁止の屋上は、今はロー先輩の城と化している。

 昼休みの賑やかな教室や廊下の前を通り過ぎ、校舎の端っこにある階段を登る。屋上への入口を前に一度深呼吸、そして勢い良くそのドアを開けたら「うるせェ」と一言、静かに怒られた。

 誰か(たぶんシャチ君辺り)に持って来させたのであろう青いベンチに偉そうに腰掛けている先輩に無言でコンビニ袋を渡した。


「…おい、アレが見当たらねェんだが」

「え、ちゃんと買ってきましたよ?」


がさごそとコンビニ袋を漁るロー先輩から袋を奪い、彼のお目当てのものを取り出す。たいして中身も入ってないのに。先輩の目はきっと節穴なんだ。


「あ、ほら。…はい、抹茶アイス」

「…おれが言ったのはハーゲンダッツの抹茶だ、誰がスーパーカップの抹茶買って来いって言ったんだカス」

「カス!?こっちは昼休み返上して頼み事聞いてあげてるのに何て言いぐさですか!」

「お前に頼み事した覚えはねぇ」

「よくもそんなことを!これだって先輩が買って来いって言うからあたし…!」

「それは頼み事じゃなくて命令だ。覚えとけ」

「……っ」


 鬼畜だ!イケメンの皮を被った鬼だこの人は!もう頭にきた!今日こそこんな関係終わらせてやる!さっきの練習通りに…見てろよ、トラファルガー・ロー!!


「先輩!あたしもうこんな――、っ」


 言いかけたところでぐいと強く腕を引かれ、体が傾いたせいで続くはずの言葉は喉の奥に引っ込んだ。


「…言っとくが、お前を手放す気はねェからな」


 下からわたしを覗き込むような先輩の視線に思わず息を飲む。冗談じゃない、この先もこんな風に理不尽にパシられ続けるなんてごめんだ。先輩の手を振り払って練習通りにビシッと言ってやればいい。
 そう思っているのに体は言うことをきかない。先輩から目を逸らせない。


「どうでもいいヤツなら端から相手になんかしねェ」

「……」

「お前のことはそこそこ気に入ってんだ。ありがたく使われてろ」


 理不尽だ。理不尽すぎる。何言ってんだこの人。世界は自分中心に回ってるとか思ってるに違いない。むしろ我こそが神的ななんかもうよくわからないけどそんなどこまでも果てしなく上から目線な先輩なんかの言葉に何はしゃいでんだわたしの心臓め!このドMが!!
 と、自分の心臓をののっしってみたところでドキドキはおさまりはしなかった。結局の所女の子というのは恋とイケメンの前では無力なか弱い生き物だと言うことを知った、夏――。




作戦
敢えなく失敗。



「わかったら返事」

「……はい」

「よし、じゃあお前のせいで溶けたアイス買い直しな」

「はい………ん?」


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