右手に酒瓶、左手に2つのグラス。歩く度にカチャカチャ鳴るグラスに自然と胸も弾む。午前0時、酒瓶を持った方の手でサッチの部屋のドアをノックした。



「どーぞー」

「開けてー両手塞がってるの」



程なくしてドアが開くと風呂上がりでリラックスムード全開の部屋の主が顔を出した。彼と目が合ったところで、両手を自分の顔の高さまで上げて持ってきた物をアピールする。それを見た彼は「いいねェ」と口端を上げてわたしを部屋へと招き入れた。



「今日のために奮発しちゃった」

「そりゃ楽しみだ」



入って早速、殆ど使われる事のない彼の机で2つのグラスに酒を注ぎ込み1つをサッチに手渡した。サンキュ、とグラスを受け取った彼がベッドに腰を降ろして、わたしは机に備え付けの椅子を引き出して座った。



「サッチ、誕生日おめでとう!」

「おう」

「また1つおっさんになったね」

「ばか、ダンディーになったと言え」

そんなアホな事を言いながら乾杯を交わしてグラスに口を付ける。生憎わたしには洒落た感想など述べられないが、素直に美味しいと思った。サッチも「こりゃ良い酒だ」と上機嫌。嬉しそうに綻ぶ顔を見れば、こっちも奮発した甲斐があったというもんだ。



「しっかし、あれだな…酒なんか全く飲めないガキだったお前がなァ」

「ん?あー、そんな頃もあったね」

「一口でも飲めば所構わず腹出して寝ちまうもんだからよ。気が気じゃなかったね、おれは」



そう言えば、もう少し女としての自覚と危機感を持てとかよく言われてた気がする。



「でも、そんなあたしに一番に手出したのサッチだからね」

「いやァ、本当に美味い酒だなー」

「ごまかした!」

「他のヤツに取られんの嫌だったんだよ!悪いか!」



開き直りやがった。全然悪くないけど。むしろ全力で嬉しいけど。何か照れくさいから首だけ横に振って、ぶっきらぼうに酒瓶を突き出した。素直に差し出されたグラスにとぷとぷと酒を注ぐ。自分のにも注ごうとしたら「貸せよ」とサッチに酒瓶を奪われた。とぷとぷ。わたしのグラスにも酒が注がれていく。



「……お前は、どうなんだよ」

「どうって?」

「おれで良かったのか」

「……は」



視線をグラスからサッチへ移すが、目は合わなかった。まさか今更そんなことを聞かれるなんて。グラスから瓶が離れたのを見て、一口酒を流し込んで口を開く。



「今夜はさ、みんなでサッチの誕生日祝いの宴だね」



瓶を置いて漸くサッチはわたしを見た。しかし彼が求めていた答えとは違ったらしく、言葉には出さないものの納得いかないような微妙な表情を浮かべている。



「そうやってちゃんとお祝いの場が用意されてるにも関わらずわたしがフライングしたのは何ででしょう?」

「……何で…」

「正解は…絶対に私が一番最初のおめでとうを言いたかったから、です!」



その理由は仲間だからとか恋人だからとか、そんな形式的な理由じゃない。単純に、本当に大好きな人だから。誰よりも先に伝えたかったし、少しでも早く彼が喜ぶ顔を見たかった。わたしはこんな性格だから好きだとか愛してるだとかそういったストレートな愛情表現は苦手だ。だからこんなこと位しか思い付かなかったけど、伝わればいいな。



「…そんな風に思えるんだから、良かったんじゃない?サッチで」



グラスをぐるぐる回して渦巻く液体を見つめる。…しかし、もう少しマシな言い方出来なかったのか自分。サッチから反応が返ってこないのが不安でチラリと彼を盗み見る。すると予想外にも嬉しそうな笑顔を浮かべたサッチと目が合ってしまったもんだから、今度は恥ずかしくなって慌てて視線をグラスに戻した。





姿

次はちゃんと言えるように頑張るね。







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 20110403公開
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