はくぎんのおうじさま

 一生懸命に背伸びをしなくてもいいくらい身をかがめて繋いでいてくれた手をそっと離し、零くんさんは白く息を吐きながら穏やかに笑んだ。

「まだこのあたりは結構綺麗に残ってるね」

 そういって促すように移した視線の先には、結構どころかなかなかの銀世界が広がっていた。
 話し合いだか取り調べだか、断片的に聞こえた単語からはいまいちどういうものかは分からなかったけれど、ひとまず仕事で抜けるとジェイムズさんやジョディさんとどこかへ行ってしまった秀一さんに代わり、零くんさんが、手が空いているから相手をしてくれると申し出てくれたのである。
 しかも今日は雪が積もったから、せっかくだからそとで遊ぼうと、えふびーあいのビル近くにある公園まで連れてきてくれた。
 道中はそれなりに踏みしめられて固まったりちょっぴり溶けてシャーベット状になっていた雪も、公園内では、誰かが手を付けたようなあとはあちこち見られはするものの、まだまだ充分ふかふかと言えそうなくらいある。
 ぽすぽすと歩いてみたら、思いの外ずぼりと足が埋まって抜くのが大変だ。けれど、ぎゅっ、と、あの雪独特の音と感触が楽しい。

「ありすちゃん、寒くない?」
「う、うん、だいじょぶ」

 頷けば、零くんさんは安心したという風に息をつき、それから分かりやすくぱっと表情を明るくして、しゃがみこんであたりの雪をかきあつめはじめた。零くんさんの手のうちで、雪はあっという間に体積を増し、わたしの腰ほどの大きさの玉になる。

「ほら、これを押して転がしてごらん」

 言われるままえいえいと押せば、玉は軌道にある雪を纏って更に大きくなっていく。
 わたしが下手くそに転がして玉の形が歪むとちまちまと修正してくれながら、零くんさんはもう一つ、わたしのよりも大きな玉をちゃかちゃかと作り上げ、その上に、わたしの玉をぽんと乗せた。
 なかなか立派な雪だるまの出来上がりである。

「やったね」

 降参ポーズのように手を翳されて、ちょっぴり迷って、こうでいいんだろうかと恐る恐る、わたしも掌を合わせるようにしてみれば、零くんさんはぱんと少し勢いをつけてわたしの掌を叩いた。

「へへ……」

 イケメンさんがニコニコ笑顔でしゃがんでやってくれるハイタッチに、思わずちょっと気持ち悪い笑いを漏らしてしまった。

 それから零くんさんは、雪だるま以外にもうさぎさんやらネコさんやらを器用に作り上げてくれた。
 雪なんて見慣れているだろうし、もうそれで遊んではしゃぐような子どもでもないだろうに、本当に楽しそうにやってくれるので、わたしもついついウキウキ調子に乗ってしまう。

「あ、あの、ありがと……です」
「僕こそ。大人になるとおおっぴらに遊べないから、ずっとうずうずしてたんだよ。ホントはスーツじゃなければ飛び込みたいくらい」
「えっ」

 きみのおかげでとても楽しかった、ととびっきりの笑顔を向けられて、体がかっとあつくなった。雪なんて溶けちゃうんじゃないかというほど。


善吉さま スケブありがとうございました


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