forked tongue |
「テメエ、本気で撃ちやがったな。よりにもよって兄貴に」 お迎えには来てくれたものの、乗り込んだ瞬間そう叱りつけてきた。ウォッカさんおこである。 「信憑性が増したろう」 「次やったらタダじゃおかねえ」 ハンドルを握りながらプンスカするウォッカにはいはいと返すと、隣から艷やかな笑みが響いた。 「あら、あと二・三発プレゼントしてあげればよかったのに。せっかく素敵な服を着てるんだし。性能テストになったわよ」 足と腕を組む姿は今日も美しい。なにやらピチッとしたライダースジャケット姿だ、それも似合う。さすが組織の美女担当。彼女も合わせて、レトロでちいさなポルシェに大人四人、ちょっと狭苦しい。俺はライフルの入ったケースも持っているから余計だ。 そしてやっぱり防弾ベストがあったらしい。ジンはもはや肌着レベルで常に身につけているからな。ウォッカもそうだろう。パンツを履き忘れても防弾ベストだけはしっかり着込むに違いない。 まだ言い加えようとしたベルモットが、俺の胸ポケットからの振動音を聞き取って口を閉じた。黙りこくってタバコを吸っていたいたジンが小さく振り返って視線を飛ばしてきたので、携帯を取り出して通話に応じる。 「はい」 『さっきのは赤井君かね?』 「ええ、そうです」 『助かったよ、ありがとう』 「いえ」 『今はどこだ?』 「まだ杯戸ですが……私を追ってきている可能性がありますので、念の為時間を空けてから戻ります」 『ああ、そうしてくれ』 ぷちっと切ってまたポケットに放り込む。おかげさまで向こうはなんとかなったようだ。 「兄貴にもそのくらい殊勝な態度を取りゃあいいものを」 ウォッカのぼやきのあとに、ようやくジンが口を開いた。 「気色悪ぃだろ」 ひどい。 土門の暗殺については延期になったそうだ。ボスとの連絡を取り終えたジンが解散を告げ、ベルモットを彼女の指示した場所へ降ろすと、そのままホテルに向かうことになった。 俺はシングル一部屋、相変わらずジンとウォッカは二人で一部屋だ。もしかしてホモなのか。階が違うのでエレベーターで別れようとしたら、ジンから部屋に来いと言われてすごすご付いていく。 迎え入れられた部屋でちゃんとベッドが二つあってちょっとホッとした。うっかり知ってしまうよりちゃんと心構えをした上でカミングアウトされたい。 とにもかくにも怪我の手当をしようとしたウォッカを制し、ジンは俺にやれと言ってきた。責任取ってよねってやつか。消毒してテープ貼るだけの簡単なお仕事しか出来ないぞ。 備え付けのソファに座ったところにそのスキルレベルの低い応急手当を施してやると、それについては文句もつけず、ジンは静かに口を開いて、あれは、と言う。 「FBIの仕業か」 「そうだ」 ふん、とエコな返事をしてまたむっすり。 ならもっと早く言え、とウォッカが憤るが、あの時点で盗聴器をFBIのものと組織の人間が勘づくのには無理がある。実際そうだったんだからもし教えていたら不審感バリバリ、カンニングに協力した人間がいるとの疑いが湧きかねない。毛利小五郎は正真正銘無関係だったしな。それをライフル弾で撃ち殺したんじゃあ怪しさ花丸満点でいらぬ疑惑の芽が出る余地を与える。 そもそも俺は今日FBIメインで動いていてこいつらの細かい動向なんて把握していなかったのだ。 毛利小五郎の白黒についてはさて置くにしても、ジンも概ね承知の上だったようで、ウォッカにぺらぺらと説明してくれた。ウォッカに対してはホントお喋りさんだな。 一方俺には「灰皿」と一言。オイメシフロしか語彙のないおやじみたいである。デスクにあった分をソファ前のテーブルに置いてやると、ジンはありがとうもなしに火をつけスパスパ吸いはじめた。定年退職後無残に捨てられる形で熟年離婚するタイプだろ。棺桶まで一緒してくれそうなウォッカがいて良かったな、大事にしてやれよ。 ――ぱしゅ、と聞き慣れた音が鼓膜を打つ。 数度吸って吐いて煙を堪能したのち、ジンが何を思ったかちゃかっと愛銃を取り出し俺に向かって撃ってきたのである。 「兄貴!?」 サイレンサーが装着されていたためさほど響かなかったがお前ここホテルだぞ。 擦った感触のあった頬に当ててみると掌が赤くなる。 は、とジンが短く笑う。ややウケらしい。 「……揃いにしたかったのか?」 んなわけあるかと怒られた。まあ普通に考えてイレギュラー続きでフラストレーションが溜まっていたんだろう。ジンは満足したのかあっさりと銃を仕舞う。 ずっと不貞腐れてるよりはゴキゲンでいてくれたほうがマシだからいいけども、いくら処理できるからとはいえ、いい加減暇つぶしでぱすぱす撃つのは止めてほしいもんである。 もう用事がないなら自室でちょっと時間潰してFBIに戻るぞと言って部屋を出ようとすれば、ジンが「おい」と声をかけてくる。なんですかアナタ、メシもフロもウォッカに頼んでくださいよ。 「明日十八時。連絡しろ」 「……了解」 扉を閉めるとすぐさまカチャリとロックされた音がした。ウォッカだろう。さすがだカアサン。 拠点に着くまでにFBI向けのカバーストーリーも考えなきゃいけない。犯罪者もおまわりさんも両方やらなきゃいけないのが二重スパイの辛いところだな、どうしてこうなった。 ……しかしあの距離で撃ち返されて被弾したと思われるのはちょっぴり癪だなあ。 |
リクエスト - ジンとの絡み / 赤べこさま ありがとうございます |