18

「シュウ。話があるの」

 深刻な顔つきで突然家にやってきたジョディは、シャワーを浴びたばかりでびしょびしょの俺を見て目を丸くした。
 ごめんなさい、と謝られて、こっちこそ半裸で出て申し訳ない。
 とりあえず上がってもらって、適当なシャツを着て首にタオルをかけ、そのまま話を聞こうと思ったのだが、風邪を引くと怒られてしまった。彼女は俺をイスに座らせ、慣れた手つきでドライヤーをかけ始める。
 ちなみに俺の髪は体質なのか、見事に伸びているのにアジうんたらエンスもびっくりな纏まりと艶で、折角でもったいないし、時間もあるからと地味に手入れはしていたりする。どうでもいい話か。
 ジョディは丁寧に指で梳きながらドライヤーを当て「懐かしいわ」と零した。恋バナの上髪の毛乾かしあいっことかしてたんだろうか。女子かよ。

「まだ先になりそう? 切るのは」
「しばらくは、しないつもりだが」
「そう、残念ね。それまで教えてはくれないんでしょ」
「……ん?」
「シュウ、熱くない?」
「いや、全然」
「ホントに?」
「ああ」
「……なら良いけど。そういえばシュウ、最近また、体つき良くなったわね」
「そうか」
「ええ。昔みたいに戻ってきてる」
「筋トレマニアのやつが、あれこれ教えてくれるんだ。この前は一緒にジムに行った」
「シュウがジム?」
「笑うことか?」
「いえ、まあ、最近デスクにいることが多いものね。ペンは剣よりも強しとはいっても、ライフルが相棒のシュウには、フィジカルは重要よ。いいことだわ」

 この前発砲してしまった際には難しい顔をしていた彼女だが、何故か今日は穏やかな声でそう言った。


 それなりに時間をかけ髪を乾かし終えると、テーブルの上を軽く片付けて、やって来た時間的にまた飲むだろうと、自分のものと一緒に、もはやジョディ専用になってきているグラスと酒を出した。
 注いだばかりのブラントンを軽く舐めるように飲んでから、ジョディは意を決したように口を開く。

「――20年前、私の父を殺した犯人が分かったわ」

 えっ。
 すわまた恋愛相談か振られでもしたかと思っていたんだが、予想の斜め上どころか直下にめり込むヘビーな話題だった。
 それおまわりさんに言えよ。いや俺がおまわりさんか。いやいやお前もおまわりさんだろ。
 彼女はバッグからA4サイズの封筒を出し、綴じていた紐をくるくると解く。その中から、書類を数枚ピックアップしてテーブルに広げた。

「シャロン・ヴィンヤードの訃報、葬儀のニュースは見たでしょ?」
「ああ。他のを見ようにも、ここ最近はそればかりだ」
「娘のクリスのコメントは?」

 見たような、見てないような。シャロンファンが取り上げては泣いたり怒ったりしてたな。なんだかシャレたことを言っていた気がする。

「”A secret makes……”」
「”a woman woman.” ――あれは20年前、両親を殺し家に火を放った人物が私に言った言葉よ」
「……よく覚えてたな」
「記憶は風化するわ。でも、使わなくても引き出して、丹念に手入れをしてあげ続ければ、こうして報いてくれるのね。あなたの大好きな銃と一緒」

 メンテは大事、はっきりわかんだね。そしてヘビーだなあ美女の過去。


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