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「あなた、こういうのはあまりやらないでしょう。下手なことされても迷惑です。僕がやるので適当に合わせていてください」

 バーボンはそう言うと社長の視界にうまく入り、向こうから自分へ近づいてこさせた。
 社長は上等なスーツを来た恰幅のいい男性で、既にいくらか酒が回っているようで顔がほんのりと赤い。

「安室くんじゃないか」
「お久しぶりです。この度はこんな素敵なパーティーにご招待頂きありがとうございます」
「いやいや! 君には世話になったからねえ」
「いえ……その節はどうもすみませんでした。事実とはいえお教えしてよかったのか……一度は愛を誓った女性の所業にさぞや胸を痛められたことでしょう……」
「元妻のことは、正直言ってかなりショックだったが……きみが調査してくれたおかげで助かったよ。社員たちのためにも、あんな姑息な行いを見逃すわけにはいかない」
「そうですね、謂われない嫌がらせや違法行為を黙ってみていては、それに携わるすべての人間への侮辱を許すのと変わりありませんから。さすが、社長に相応しくていらっしゃる」
「はは。当たり前のことを言ってるだけだがね。それでまた、君に頼みがあって……」

 なんて二人でニヤニヤもにょもにょやっている。
 要するにバーボンはこの社長になんやかんやと手を貸していたらしい。元奥さんとその姑息な行為をやったのはうちの組織にも関わらず。いずれにせよ夫婦ともども口封じするつもりだったということだ。

 わ〜〜ママ〜〜あれがマッチポンプっていうんだね〜〜。
 こら見ちゃいけません! お酒の名前がついた人に殺されちゃうわよ!
 きゃ〜〜、400ヤード先からスナイプされちゃう〜〜!

 なんて脳内諸星劇場を繰り広げていたら、軽く肩を叩かれる。

「こちら新しく助手として雇った諸星と言います」
「諸星です。どうぞお見知り置きを」

 何の助手だかは知らないが、なるほど話を合わせろとはこういうことかと、軽く礼をしたのち頑張ってニコリと笑ってみたが、それを見たバーボンの口角がひくついていたのでどうにも失敗したようである。
 社長の方は、おやどうもなんて普通のリアクションなんだが。

「依頼のお話でしたら、今少し概要をお聞きしても?」
「そうだな……いや、今からアレの時間だった! すまないね、また後で頼むよ!」

 バーボンについて移動しようとした社長だが、何かを思い出したようにしてホール隅で控えていたスタッフの元へ駆け寄る。あれこれ指示していたと思うと、一面ガラス張りの窓際に大きなプロジェクターが降りてきた。あれじゃあ狙撃はできなさそうだ。

 ちらと伺うと、バーボンは『聞いていないぞそんなの』といった顔でわなわなしている。
 いやー、彼は表情豊かで面白いなー、なんて酒に口をつけようとしたら、グラスを止められ、手首をぎりぎりと握られた。それ俺だからいいけど、他の人にやったら多分だいぶ痛いぞ。
 怖い顔したバーボンが、俺の手を引っ張って顔と体を寄せ、耳元に囁く。

「キャンティ、社長宅付近、玄関の見えるポイントを探して待機しておいてください」

 さらりと言って、それからまた社長の視界に入る場所へと歩いて行ってしまった。

『偉そうに言っちゃって! あれだけ大口叩いておいて、予定と違うじゃないか!』
「どうも自慢好きの社長が夜なべして考えたサプライズのようだ」
『……チッ、仕方がないから最後の晩餐くらい楽しませてやるけどさぁ……バーボンに、”しくじるんじゃないよ口だけクソ男!”って伝えときな!』
「ああ。そちらは任せたぞ、キャンティ」

 もちろんそのままでは激おこぷんぷん丸になるのが目に見えていたので、”キャンティが激励していた”とだけ伝えたのだが、「どうせクソ男だとか言ってたんでしょう!」とまじおこだった。大当たり。お前ら実は仲いい?


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