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「しかし、何なんだ? そのタイやヒラメの文字は……竜宮城じゃあるめーし……」
「ダイイングメッセージなんじゃない?」

 事件を解く鍵になりそうなものは、落書きと被害者が付けていたであろうダイバーズウォッチのようである。
 落書きはサバ、コイ、タイ、ヒラメ。ダイバーズウォッチの文字は“AKAMINE ANGEL ほにゃらら CLUB”と一部が削られているとのこと。なんとなく推察はできそうな文字群なのが救いか。※◎△×√☆&やらペペロペプコリスなんかだとお手上げだった。

「――光里お嬢様!?」

 さてどういう意味かと考え始めたとき、そう言って、先程微妙に絡んできたダイバーの男たちが船をつけてきた。
 彼らは行方不明だった“お嬢様”を探しにきていたらしい。 
 三日前、四人でダイビングに来て、潜ったまま上がってこないお嬢様から“後はヨロシク♥”とのメールが来たからさっさと解散して帰っちゃったんだと。どっかのFBI捜査官たちを彷彿とさせるな。
 それだけならこのダイバーたちが素直さんすぎるし多少の非があるとも言えそうなものだが、以前にも似たような事があってそこらのイケメンと飲み明かしていた挙句大騒ぎにするなと怒られたという。
 しかも彼らはもともと“お嬢様”の身内や使用人というわけでもなく、仲間内でダイビングをしていた所を入ーれてと言われただけらしい。なおかつワガママ放題されたというならそりゃあ捜索に身も入らないわけだ。捜しに来てくれた分マシだろう。
 お嬢様はお嬢様でもユーコットキカンスキーさんだったようだ。俺はどっちかというとロサギガンティアアンブゥトンさんみたいなのがいいなあ。

「お兄さんたちは、お魚さん、何が好き?」
「一人ずつ答えてくれませんか?」
「おい! 何なんだお前ら、急に変な事言いだしやがって……」
「被害者が残したメッセージと犯人との間には何かしらの関わりがあるはずだと言いたいのでしょう」
「あん?」
「それ自体は当たり前ではありますが、既成概念や偏見のない子どもの目は物事を多面的に捉える上で手助けになりうる。聞く価値はあるのでは?」

 ぶっちゃけ好きにさせていればその内解けてしまうんじゃないかと思ってそう言えば、刑事さんにぎりりと睨まれてしまった。
 だが事実コナン君たちに任せてみると、削られたダイバーズウォッチの文字が“FISH”であるとの情報が得られた。鯖、鯉、鯛、鮃にフィッシュとは。ナゾナゾ本みたいだな。
 犯人の名を突き止めたのはコナン君だ。流石に漢字ナゾナゾは小学一年生には難しかったらしく、他の子供たちには分からなかったようである。
 しかしそのメッセージによる名に加え、メールが来たのはそれを“お嬢様”が言いかねないと知る人物が送ったからであり、口元の絆創膏は“お嬢様”のレギュレーターを使用した際についた口紅を隠すためだろうと指摘されると、“青里周平”は一見諦めたかのように犯行を認め動機を語りだした。半年前仲間が潮に流された“お嬢様”を助けるために死んだのだと。
 しょぼくれてみせながらも彼の足はそれまでからやや逸れて子供たちの方を向き、手は他者の視線から隠れるようなしぐさでポケットへ動いていた。こりゃマズいなとコッソリ彼のそばに寄る。

「あの女は義郎を見殺しにしたんだ、とにかく早く陸に戻って暖けぇベッドで眠りたかったんだよ! 義郎が死のうが死ぬまいがお構いなしにな!」

 ううんなるほどたいへんワガママさんだな。だから何なんだ。

「昴さん!?」
「ちょっとあなた――」

 ポケットから引き抜かれたナイフが標的を決める前に掴んで取り上げて捨て、ついでに本体をえいっと放り投げたところ、男は思いの外飛んで海に落ちてしまった。
 どぼん、となかなかいい音が響く。

「おや」

 動転してはいたもののさすが泳げる方のダイバーというか、気を取り直したように泳いで逃げられかけ、それを井田氏と刑事さんが追いかけ捕まえ引き摺りあげた。そんでもって俺は刑事さんに怒られてしまった。

「何やってんだあんたは!」
「すみません、この子――この子たちが危ないかと」
「それにしたってもっとやりようがあるだろーが!」

 まもなく警察の船がやって来て、それに乗っていたおまわりさんにも、コナン君にも怒られてしまった。もはや人に怒られるのが特技になってきている。履歴書に書いたら即オチお祈り祭りで礼拝堂が建てれそうだ。
 それから帰りの道中、船内でざっくりといった掌の手当を受けていると、“青里周平”もだが“お嬢様”もなんてやつなんだと子どもたちが話す声がしばらく耳を打つ。せっかく遊びの帰りだというのに、しょうもない話題を落とされてしまったもんだ。

 死んだ殺した殺された、そんなことぴーぴー言ったって仕方ない。まったく傍迷惑さんだったな。俺もだが。


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