01

  ――赤井さんは、


 やや遠くからその高い声が聞こえてぱちりと目を開ければ、少し古びたジプトーンが視界に広がった。
 知らない天井だ。なんつって。

「アカイ……」

 誰だそれ。
 ……いや俺か。もう諸星大でもライでもないのだ、他に俺の名はない。何を言ってるんだか。ここはドコわたしはダレとかかまして良いのは記憶喪失の美少女だけだろ。
 直後、バタンと扉を開けたような荒い音と、駆け寄ってくる軽い足音が聞こえた。それに追従するような重いものも。
 首を動かしてそちらを向くと、眼鏡をかけた少年がえらい形相をして俺のそばに立っていた。

「目が覚めて――?」
「ああ……」

 目が覚めたというか意識が戻ったというか。違いを言っても他人には大して変わらないかな、なんて考えた瞬間、耳を劈くような声が響いた。

「――なんでオレに連絡しねーんだよ!!」

 過去イチの怒鳴りっぷりに結構本気でビビってびくりと体が跳ねてしまった。そんな俺をみとめ、ええと、コナン君はハッとしたようにして、それから眉根を寄せる。

「あ。……ご、ごめんなさい。心配したんだよ。ほんとに死んじゃったのかと思った」
「……悪い」

 あの鋼鉄メンタルコナン君のキャラがブレるほど心労を与えてしまったらしい。すまんすまんと頭を撫でようとしたら、何かに引かれるような感じがあって腕が持ち上がらなかった。

「ま、待ってください、今外します」

 コナン君の背後にいた白衣姿の、そうだ、新出先生が慌てたように寄ってきて俺の手首あたりに手をかける。

「赤井さん、かなり魘されてたんだよ」
「そうなのか……すみません、先生」
「いえ、その、こちらこそすみません。他に方法がなくて」

 そんなことする方じゃなかったと思うんだが、どうやら意識がない間に体が動いていたようだ。特に手がひどく、処置も点滴もままならない上治癒の妨げになるので、抑制帯を着けベッドに結びつけていたんだとか。
 何をやってたのか聞いても先生もコナン君もえらく濁す言い方をしたためバリバリどころじゃなさそうだ。迷惑かけすぎってレベルじゃないな。


 ――あれから一週間経っているらしい。

 メルヘンさんのガソリンタンク爆破殺法を受けた後、ポルシェはあっという間に消えてしまったからバレんだろと炎上するシボレーからおさないかけないしゃべらないで脱出したのはいいものの、迫るパトカーに見つかるわけにはいかず崖から落っこちた。ヤケクソである。
 木々のおかげかなんとかタイガー道場行きにならず着地でき、それから徒歩でコナン君との待ち合わせ場所に行こうとしたのだが、もともと水無怜奈の車に乗って去る予定だったもんで負傷して向かうには遠く、途中で体がいやな感じに重くなって動かなくなってしまった。
 流石にゆうしゃの火葬場近くでくたばるのはまずいメディックメディックと若干テンパった俺は、コナン君に貰ったイヤリング型電話とやらで、トチ狂ってコナン君ではなく新出医院に助けて智えもんとコールをして意識を飛ばしてしまったのだこの馬鹿。このH。あんたってほんとーにばかね!
 人のいい智えもん改め新出先生はわざわざあんな山の中まで迎えに来てくれて、知り合いだろうがFBIだろうが誰にも口外しないでくれとの頼みを律儀に守り、医院に匿い一週間寝太郎を一人で治療し看ていてくれたのだという。しかしあのお手伝いさんとコナン君にはバレちゃったと謝られた。
 ぐうの音も出ないほどの聖人。一生足を向けて寝れない。教会にツテがあれば列聖してもらうのになけなしの人脈も虫の息なのだった。切ない。

 一方コナン君はといえば、協力者と待機していたのに俺がさっぱり現れないもんで失敗したのかと慌て、警察が引いてからシボレーのあった場所の状態や崖下に落っこちていたイヤリング型電話の履歴、車の痕跡などを追って新出医院までたどり着いたんだそうだ。
 それらや先生の車にあった証拠などを持ち出してお得意のキレキレ推理拳を炸裂させ、頑として口を割らずしらんいないいても教えんと立ちはだかる先生と軽くバトり、じれて帰ったフリからの不法侵入して俺を見つけたらしい。
 俺のために争わないで! ってこれも言って良いのは美少女だけだった。
 そんでもって仕方ないので事情を説明して休戦協定を結び、なかなか目を覚まさないし火傷や怪我もあるため先生に任せつつ、ちょくちょく様子を見に来てたと。
 なんだかもうどこにどう謝れば良いのか分からんな。


 back 

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -