35

 コナン君は毛利父娘を阿笠氏宅に匿うよう頼んでいるらしい。
 しかし接点であるコナン君もなしに事情も知らず他人の家にそう長居はできまい。

 たしか毛利探偵はヘビースモーカーでギャンブル好きのアイドルオタクだったはずだ。
 調書レンタル事件の際調査を行った捜査官によれば、毎日毎日せわしなく競馬競輪と沖野とかいうアイドル情報をせっせと集めており、ついでにリア充らしくしょっちゅう麻雀やら野球やら飲み会やらと遊び回っているんだとか。
 阿笠氏はその遊び仲間というわけでもない。お客様でじっとしているとは思えん。
 テーブルに置いていた日本語新聞の背面をチェックすると、近い時間に競馬番組があるようだ。夜には沖野の出る音楽番組も。
 こりゃ帰るな。娘の方は残ってくれるといいが。

 毛利探偵事務所は道路側の一面に窓がある。
 広く中も見えてしまうような、明らかに防弾ではないガラスのものが。しかも彼の定位置はさも狙ってくれと言わんばかりの窓を背にしたデスク。
 だがあのあたりのビルはほぼテナントが入ってたはずだから押し入ってフロアの窓からバチコンとはいけないだろうし、事務所の文字プリントがあるから狙える場所も限られてくる。

「……行くか」

 小学生相手に不義理も情けないしな。
 寝室の一つへ移動しクローゼットをがらりと開けた。徒労になればむしろ重畳。油断せずに行こう。

 取りあえず同僚のスーツを借りてちゃちゃっと着替える。ニット帽を脱いで乱れた髪をこれまた拝借した整髪料で軽く撫で付けた。
 普段は職質受ける点でお察しな厨二真っ盛りかつ不審者じみた俺だが、一応お偉いさんと話す時なんかはこういう格好もしていたのである。
 あまり時間がなさそうなのでちょっと雑なのと隈は許してほしい。畜生根性を極めし鋼の連勤術師という設定で行くことにする。気休めに以前変装に使った眼鏡でも掛けとこう。
 奥の方から引っ張り出したちょっぴり普通より重い大型のプロジェクタースクリーンケースモドキとビジネスバッグを持てば、どこからどう見てもややかなりお疲れ気味なただの社畜だ。多分。 

 それから重要書類や“備品”の所在と戸締まりをざっと確認して拠点を飛び出しタクシーを捕まえた。

「――すみません、会議に遅れそうなので急ぎでお願いします」

 流石にスーツでシボレーはいかん。



 そこらへんのオフィスの警備員なんてちゃんとした格好をして堂々とした態度でニコヤカに会釈すれば意外と通してくれるもんである。
 ICカードリーダーや指紋認証タイプのセキュリティゲートがなくてよかった。ここが条件的に一番いいのだ。複数人相手なんだから少しでも地の利を稼がないとな。
 フロアにはテンキーシステムくらいはあるかもしれないが、用があるのは屋上だから無問題。
 就業時間中のためか運良く人気のなかったエレベーターで着いた最上階から、関係者以外立ち入り禁止の文字をスルーしてしれっと少し薄暗い階段の方へ向かって上り、若干古びた扉を工具という名の鍵で開け外から軽く細工する。あとで何とかして弁償するよ、ジェイムズが。
 念のため軽くクリアリングしてから、双眼鏡で候補のポイントを見て回る。良かった良かった。まだどこにもいないようだ。

 邪魔な眼鏡はバッグに放って、ケースからライフルを取り出す。マグナムよりは少し軽い普通のアークティクウォーフェアだ。.三〇八ウィンチェスター弾を込めた弾倉を装着する。
 雲行きは未だ怪しいものの雨は上がったし視界は悪くない。狙撃点の候補はそれぞれ約七百から七百三十ヤード。北北西の風、軒並み時速五マイルほど。
 温湿度は自分がアテにならんので計測器を使う。寒かったんだな今日。雨の後だからか湿度も高い。さほど流れないにしろ着弾点はそこそこ下がるだろう。
 キャンティなんかは体感でバシッと近似値出してくるから一緒に任務やってた時は楽だったなあ。

 一度スコープで各所を覗いてみる。
 数は多くないしポイント間はそう離れているわけじゃないんだが流石に十倍じゃ視野が狭くカバーできないので、ひとまず七百三十と見做してノブを回してからバレルを縁に乗せすぐ構えられるよう姿勢を整え、目はまた双眼鏡に戻した。
 TUGSが欲しくなるな。そんなもんないのとあったとしても設置してる暇もないのが悔やまれる。

 しかしこういうのは久々でちょっとテンションが上がる。出番はないかと思っていたが整備とゼロインはしておくもんだ。
 こないだのは拾い武器だったし、俺はオートよりボルトアクションの方がいい。精度がいいのはもちろん、ハンドルの操作が好きなのだ。格好良く決めたいよね。


 back 

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -