21

 拠点として使用しているマンスリーマンションの一つ、そのリビングの簡素なソファに部下と向かい合わせて座り、ガラステーブルに広げられた資料を見て思わず頭を抱えそうになって、なんとか眉間を揉む程度に抑えた。

「……赤井さん、これをどこで?」
「…………」

 アフリカ好きの獣医学科教授にもらったんだーなんっつって通るわけないよな。


 バスジャックの日、俺のスキーウェアに刺さった針。流石に眺め回しても何なんだかさっぱりわからず軽い気持ちで検査を依頼したら、結果の書類を手に入れた部下はなんとも難しい顔で戻ってきた。
 針自体はそう珍しいものでもなかったが、それについているものが問題だったのである。
 ――ほんの微量で、成人男性程度ならものの数秒で意識を消失させる、即効性が高く非常に強力な麻酔薬。それが検出されたのだという。たくさんあればヤシオリ作戦の足しになるかもしれんね。
 もしあの時体に刺さっていれば俺はバスごとしめやかに爆発四散していたことだろう。サヨナラ!

 状況と感触からして手で刺されたものではないため何らかの方法で射出されたはずであり、殆ど全員がバスの急停車で体制を崩したあの場で俺の体前面に向かって針を撃ち出せるような人間は、通路にいながらしっかりと立ってこちらを見据えていたコナン君以外にありえない。
 つまり大変危険な麻酔針を所持していてかつ使用したのはあのお手柄小学生コナン君ということになる。
 このカシオミニ……はないが、パームを賭けてもいい。ちゃんと調べたぞ黒羽くん。なんか大変だったんだな。

 バスに乗っていたコナン君は比較的身軽な格好で、あの軽い針を、スキーウェアを貫くほどの強さでまっすぐ射出できる道具を持っていたようには到底見えなかった。かなり小型化されているか、それとは分からないような形態にカモフラージュされていたと思われるのだが。
 少年はどうしてそれを所持し得たのか、なぜ使用したのか。

 ――俺が軽く調べた程度でも分かった情報として、コナン君の生活圏内、かつ頻繁に訪問する場所に米花町の2-22、あのアロンジュおじさん阿笠博士氏の住居がある。
 阿笠氏といえばあの辺りや一部の界隈では名が知れていて、役に立つんだか立たないんだか分からない発明品の数々をずっと作り続けているという変……発明家らしい。氏は特に何かに固執するような研究はしていないようで、作品のジャンルは多岐に渡る。
 そして中にはなかなかにオーバーテクノロジーであったり、有害、あるいは有用が故に販売や配布を中止した発明品があるというのだ。

 あの大動物向け吹き矢モドキは、阿笠氏が懇意にしているコナン君に自身の発明品を与えたか、もしくは場所の提供と材料の入手を行いコナン君が制作した、ということも考えられるのではなかろうか。あのアロンジュおじさんうろちょろするコナン君を咎めもしなければ危険な行為に協力してたしな。
 どこかしらで購入したという線もあり得なくはないが、そんな必然的に法の目に疚しくなってしまうようなものをホイホイ小学生の手に渡る可能性のある手法で販売する輩がいるのかどうか。いやいるかもしれんな、ネットは広大だわ。それも可能性の一つか。

 使用はストレートに犯人を黙らせるためだろう。
 コナン君からしてみれば俺も怪しい人間ではあったかもしれないものの、あれだけ頭の回る少年が、あのタイミングで俺を昏睡させるべき理由がない。
 その場で急に俺のツラがムカついて撃ったというなら別だが。……ふつーにありうる?
 犯人に当たったとしてもそのまま乗客全員彼を置き去りにするかもしれず、警察も回収が間に合うか分からないというのにやりおる。


 なんにしろとんでもねーもんである。銃を持っているのと大差ない。ちょーカゲキ。オモチャってレベルじゃねーぞ。違法ロリペド野郎迎撃アイテムにしてもやりすぎで一緒に連行されること必至。

「調べてもらったのに悪いが、まだ情報が確定していない段階で何も言えない」
「……わかりました。信じていますから」

 部下がやけに神妙な顔で頷く。
 trustと言われるほどのことは何もなく、これを捜査の議題に乗っけたところでなんか妙に錯綜しそうだし、今はただただ小学生コワイって話なんだが。


 back 

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -