▽ちょっとだけえろい 「………っ…名無し、もっと口開けろ…」 ランスロットの手が私の髪に触れる。いつもなら恥ずかしくて抵抗してしまうが、撫でてくれるようなその手つきが嬉しくて薄く唇を開くとぬるりと滑り込んできた舌がすぐに私の舌を絡めとった。くち、と粘膜の絡み合う音に背筋を震わせ緩やかに太股を擦り合わせれば、目敏くそれに気付いたランスロットの指先が太股の内側に触れた。 「や、ちょっ、ランス…っ…!」 「嫌だ?……嘘つけよ、本当は俺が欲しくて堪らねえ癖に」 「っン、あ、っランスの馬鹿ぁ…っ」 「は……どうとでも、言え…ッ」 「く、んぅ…ッ……ラン、ス…好き…大好き…っ」 「………ああ…知ってる、」 閉じた太股を呆気なく開かれ、ランスロット自身の体が割り込んでくる。キスも、それ以上のこともしてくれるけれど、私に触れるその唇は決して「好き」だと紡ぐことはない。下着越しに当たる硬さを、抱きしめてくるその熱を拒むことなんて出来ずベッドの白に沈む私は――ランスロット以上に、もっと馬鹿なのかもしれない。 「……は、あ………名無し……、」 「………ん……」 性交渉のあとの気怠さの中、汗で額に張り付いた髪を緩慢な動きで剥がすと名無しはわずかに身動ぎをしながら小さく唸った。ほとんど意識を飛ばすかのように眠りについた名無しの頬には、涙の跡が薄く残っている。 ――分かっていた。俺が「好き」だと言わないことが寂しいんだろうということぐらい。 「…ったく……言えるわけねえだろ、そんなこと」 俺たちは"円卓の騎士"だ。王が聖なる扉に向かうとき、彼の身代わりとなり犠牲になる可能性だってある。二度と会えなくなることだって、ないとは言えないのだ。 もし俺が死んだら。名無しがひとり残されてしまったら。「好き」という言葉で縛られた名無しが、果たして俺のことを諦めて、俺以外の男を愛して、幸せになれるのか。 「……好きな女には、幸せになってほしいんだよ」 だから、絶対に好きなんて言うわけにはいかない。 自分勝手な言い種だと、名無しは怒るだろうか。きっと、怒った表情すらも愛しく感じてしまうほど愛しているのにその気持ちを告げることは今の俺には出来ない。でもいつか、もし告げることが出来る日が来たとしたら。 「そんときは、覚悟してろよ」 そう言って、額にキスを落とす。今はただ、少しでも一緒にいられるようにと胸の中に思いを留めて。 傷つかないための予防線 (言えないだけで本当は、) |