「安室君、熱を出したんだってな。助けに来たぞ」
 インターホン越しに見えたその人物は、ビニールの手提げ袋を掲げてどこか得意そうに安室の目に映った。



「阿呆なんですかあなたは!?ここ、どこかわかってて来たのか!!?」
「君の部屋だろう、なかなか良いところに住んでいるな眺めもいいし」
「そりゃそうだベルモットのツテだからな!!いやだからなんで!?なんでここを知ってるんだていうかなんで僕が熱出して寝込んでるって知ってるんだいやそれよりも百歩譲って来るなら沖矢昴で来いよ阿呆!!!」
 一息に悪態を吐いた安室は、思わずゴホゴホと咳き込んでしまった。
 帰宅してから計った体温は37.9度。ここのところ寝る時間を削ってバーボンとしての仕事をしていたから、疲れが出てしまったのか。
 そこだけで20平米はありそうなダイニングで、安室は勝手にソファーに腰掛けた赤井に思い付くまま怒鳴り散らした。(入る時赤井は靴のまま上がろうとしたのでそこでも既に怒鳴っていた)
「安室君、あんまり喋り過ぎると喉に悪いぞ」
「誰のせいで……っ!!」
 頭が痛い。
 安室が住んでいるこの部屋の名義人は シャーロット・ハーデス。ベルモットの日本での偽名だ。当然彼女もこの場所を知っている。流石に四六時中監視されている訳ではないが、帰宅して盗聴器が仕掛けられていたことが彼女と任務をこなすようになってから一度だけあったので、油断は禁物。
 今夜も例に漏れず、熱でフラフラの状態で盗聴器を探して、何も反応が無かったから良かったものの、もし盗聴されていたら九死に一生を得られなかっただろう。
 しかも、この男は『赤井秀一』の姿で現れた。世間的には死んだ男。もし組織に嗅ぎ付けられでもしたら消される人間が出てくるのだ。
 わかってやっているんだったら、FBIの切れ者は名ばかりだな。
 ゴソゴソ、と持参したビニール袋ではなくジャケットの懐を漁る赤井は、手にした物体を安室に投げてきた。反射でそれをキャッチする。
「わ……なんですかいきな…り……」
 プラスチックの筒型をしたそれを見て、安室は開いた口が塞がらなかった。
「最近アメリカでも人気なんだ。使い方は知ってるか?まずシールを剥がしてその穴に……」
 物体を持つ手が震える。この、男は…どこまで人をおちょくれば……!!
「安室君?ああ、もしかしてもう持っていたか?でもそのタイプはこの間発売になったばかりらしくて、」
「今日という今日は殺す……赤井秀一……!!」
 安室は不穏に叫びながら手にしていたテ◯ガを思いっきり投げ付けた。驚きもせず華麗にキャッチした赤井は、信じられないくらい真面目な顔で言い放つ。
「熱なんて一発抜けば治るぞ安室君」
「エロFBI死ね!!!」
「ちなみにローションもあるんだが……」
「その口……よほど縫い付けられたいようですね…」
 殺気を放つ安室に、赤井は表情も変えず今度こそビニール袋を漁り始めた。スポーツドリンクに熱冷まし用の湿布を取り出してテーブルに並べる。その隣に並べられた玩具の存在を無かったことにしても、安室は呆然と立ち尽くした。
「気でも触れました……?なんでこんなもの…」
「立場は違えど同じ目的を持つ君にはバテてもらっては困るからな」
「はあ?」
 ペリペリ、と湿布のフィルムを剥がしながら赤井は立ち上がった。思わずファイティングポーズを取る安室に近付き、赤井は無理矢理安室の額にそれを貼り付ける。
 ひんやり、冷たい感覚が伝わる。
 よし、と満足したように赤井は顔を離した。こんなに距離が近いのは戦闘以外では初めてだった。
 おかしい。
 安室は眉を寄せて考える。こんな敵に塩を送るような真似を、なぜ赤井がするのか皆目見当が付かない。
「疲れた……」
「あんなに捲し立てるからだろう、今おかゆを作るから待っていてくれ」
 聞き逃しできない言われようだったが、それよりも赤井から似つかない言葉が出てきて安室は再び口をあんぐり開けて驚いた。
 おかゆ?粥?え、料理するの?
「え、いらないから帰ってください」
「まあそう遠慮するな。君は楽にしていてくれ、すぐにできると思うから」
 そう言って、赤井は安室の肩をぽんと叩いた。
 初めて来たはずなのになぜか迷わずキッチンで作業を始めた赤井を見て、安室はふらふらとソファーに腰を下ろした。叩かれた肩に触れる。
 熱い。
 赤井の目が緑色をしていることに初めて気が付いた。
「ああ、そうだ安室君」
「は、はいっ?」
 びくりと肩を弾ませ安室は返事をする。赤井はキッチンから顔を覗かせてまっすぐ安室を見ていた。
 胸がざわざわと騒ぎ出す。
「梅干しは好きか?」

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