紅赤黒メランコリー
「君が、噂のカノジョですか?」
その声音に背筋がぞわりとする。
ゆっくりと視線を向けてみれば、紅い、紅い髪の、少年。
千影は自分よりも年下だというのに彼にひどくプレッシャーを肌で感じていた。
彼の視線はまるですべてを絡めとられてしまいそうで思わず目を逸らす。
「そんなに怯えないでください。何もしませんよ」
微笑みながら、彼は千影へと一歩ずつ近づいてくる。
逃げたいという気持ちが胸いっぱいに広がるが、逃げたところで意味はないだろう。むしろ家にまでついてこられては困る上に、走れても逃げ切れる気がしなかった。
まるで蛇ににらまれた蛙の気持ちだ。
「平凡、ってところですかね」
品定めをされているのが嫌でも理解できる言葉を彼は千影にかけた。
「用が…ないなら、帰らせて」
絞り出すように出した声は自分でもわかるほどか細い。
こんなにも自分は細い声だったのかと心の何処かで他人事のように思う。
「そうですか、じゃあ、また」
品定めに来ただけだったらしく拍子抜けするほどあっけなく冷ややかな笑みを浮かべて彼、雀ヶ森レンは去っていった。
そのあとに残された千影は大きく息を吐いて、その場にへたりこむように座り込んだ。
夢でも見ていたのかと思ったが植え付けられた言いしれない恐怖が千影を支配していて、それが幻ではないのだと理解させる。
そしてなによりも。”また”といった彼の言葉にゾッとする。二人っきりでなんて勘弁願いたい。
そうやってぐるぐると考えていてどれぐらい座り込んでいたのだろう。
「何をしている」
ふいに声をかけられて顔を向ければ見知った顔。ああよかった。まるで別の世界に一人残されてしまったかのような感覚を彼が打ち消してくれた。
「…櫂」
「なんだ」
呟いた名前にいつものような顔で返事を返された。
「たてない」と千影が呟いた。
「…何をしていたんだお前は」
はぁ、と溜息をついて櫂は困った顔に変わる。
「も、もうちょっと待ってくれれば立てると思うので、ですね、それまで、そこにいてくれませんかね!」
年下にお願いしている内容があまりにも情けないと自覚しているが、このまま置き去りにされても困ると千影は必死で櫂に頼み込む。
「キャピタルでいいな?」
「何が?」
櫂の唐突な言葉に?マークが千影の頭に浮かんだ。
返事をした瞬間、掬い上げるように櫂が千影を抱き上げる。
「は!?か、櫂!ここまでしなくていいってば!」
「お前が立てるようになるまで待っているのも面倒だろ」
「そうだけど!流石にいい年こいているので大変恥ずかしいのと重いでしょう!?」
「知らん。別に持てないほどでもない」
「ちょっと!そこは軽いとか嘘でもいってほしかったなぁ!?」
普段通りの会話を交わしながらキャピタルへと連行されていくことになっているのだが気づいてみれば、先ほどの恐怖は綺麗に消えさっていた。
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