そして手折られる
朝を迎えて、千影はいち早くベッドを抜け出すと身だしなみを整えキッチンへと向かう。
当然まだ誰も起きていないらしく暗いままなのでまずは電気をつけて、冷蔵庫の中身を覗いてみる。
朝食として作るには申し分ないだろう。お昼の事も考えてあまり使いすぎるわけにもいくまい。
ベーコンエッグにフレンチトースト、サラダあたりにでもしておこうと千影は食材を取り出すと調理を始めた。
時間が立つに連れて、起床した人々がキッチンの気配に顔を覗かせる。
人数分となるとやはり時間がかかる。来た順番に渡して冷める前に食べる様に促しながら失敗したと千影は思いながら次々に作っていく。
シンが途中で手伝いましょうか?と聞いてくれたが、昨日からシンが用意をしてくれたりしていたので千影はこれぐらいはさせて欲しいと伝えれば「わかりました」と頷いてくれた。すんなりと引いてくれる所がシンさんの性格のよさを表していた。
しかし、鍋のような調理であれば同時に食べることはできるが、こういった保温が聞かないものを大人数と言うのは明らかにチョイスミスだなぁ、と次回があるかはわからないが教訓にしようと千影が胸の内に秘めていると櫂が食べ終わった皿を片付けに来た。
「あ、お皿流しにおいといていいよ。終わったら洗っとくから」
「そうするとお前が食べる暇がないだろう」
「んや、別に全員終わった後でもいいし?」
「代われ、ここから俺が作る」
「え、いいよ、大丈夫だって」
「俺が作るのでは不満か?」
「そういうわけじゃないけど…櫂だって食べたばっかりだし」
「構わん、だが作り方は教えてもらうぞ」
「教えるっていってもそんな手の込んだもの作ってないから櫂ならすぐできると思うよ」
そんなわけで櫂と交代することになった千影が櫂に指示すると最初に言った通りすぐに作り上げてしまった。
その手際のよさに感心していると、さっさと食べに行けと皿を渡されてしまったので千影はそのまま朝食を取ることにした。
ちなみにキッチンに立つ千影と櫂を見て「なんか新婚夫婦みてぇだよなあの二人」と朝食を食べながら三和が呟いた言葉に周囲が頷いているのは二人は知らない別の話である。
アイチが来なかったことを覗いて朝食は問題なく済ますことができた。
まだ思い悩んでいるのかと千影が心配していると櫂が「アイチなら平気だ」と唐突に呟いた。
何が、と思ったがどうやらアイチを心配しているのが顔に出ていたらしく、櫂がフォローをしてくれたらしい。
元々櫂はアイチの事を深く信頼しているのもあるとは思うが、昨日の肝試しの際何か話したのかもしれない。
「櫂が言うと説得力あるね」と頷いて笑うと櫂は目を細めるだけで返事を返すことはなかった。
いつも通りに会話出来ている、そんな互いの内心を隠しているとも知らずに。
片づけが終わった千影を探しに来たのはレンとアサカだった。
「千影さーん、ビーチバレーしましょー」とレンがビーチバレーのボールを子供の様に持ち上げながら誘ってきた。
後ろにいるアサカは昨日とは違い水着をきており、惜しげもなくその魅力を解放している。
一方でレンは相変わらず長袖を着ていて暑くないのだろうかと思ってしまう。汗を全くかいてない様子を見るとそういう体質なのかもしれないが。
「櫂も誘ったんですけど断られちゃいました。セパタクローでもいいですよーって言ったんですけど」
「レン様がせっかく誘ったって言うのにまったく!」
しょんぼりとしたレンと櫂の対応に納得がいかないアサカの温度差に千影は困ったよう笑うしかない。
手が空いてはいるので遊ぶことに異論はないのだが、流石に炎天下の中遊ぶとなると日焼けが気になるのでレン達に塗ってくるからそれからね、と断りをいれるとレンが「いいですよー僕が塗ってあげましょうか?」などと冗談を言ってくるのでアサカが慌てた様子で自分がやると言いだした。
千影としてはパーカーも羽織るので自分で塗れない場所はないのでまったく必要はなかったりする。
現に今も半袖半パンのパーカーといった昨日と色味の違うスタイルなのでそのまま遊ぶつもりだった。そして千影の姿を目ざとくアサカが指摘する。
「というか、貴女水着はどうしたのよ。持ってきたんでしょ?」
「持ってきてはいるけど、海入らないならできるだけ着なくてもいいかなぁって…」
「ええ、もったいないですよ。アサカー、お願いできます?」
「はい、レン様。さあ行くわよ。望月千影」
「え、待って、ちょ、ねえ、鳴海さん待って、ねぇ!?」
視線を泳がせながら曖昧な返答をする千影にレンがにっこりと笑って指示を出すとアサカが容赦なく千影の腕を掴んで部屋へと引きずっていく。
千影の抗議の声もむなしくレンが手を振って見送るだけであった。
「うう、私の純潔が…」
「誤解を生むような事言わないで頂戴」
「わー、可愛いじゃないですか!」
結局、部屋に連れ込まれて押し問答を数度して折れたのは千影だった。
持ってきたのは自分だったので着ないつもりだったとは流石に言えず、着替えたのちアサカが日焼け止めをしっかりと塗ってくれたわけである。
持ってきた水着は淡い水色をベースに白い花柄をあしらってあるビキニである。
胸元は控えめなフリルで飾ってあり、腰にはリボンを巻いたスカートにしたのは前の年に購入して使ったのも数度程度なので持ってきたのだが、正直な所スタイルのいいアサカとミサキに挟まれたくないのが本音だったりするのだが現実は無常だ。
持ってきてないと言えばよかったのかもしれないが、レンの事なので用意してありますよーと言い出しかねないのが怖かったのもあり結局着たわけである。
そして、しっかり褒めてくるあたり抜け目のなさに千影の怒る気力も失せてしまった。
はいはい、と千影は聞き流しながらレンとアサカについていく。
「あとミサッキーも呼んで2vs2にしようかなって」
「ミサキかー、あの様子で誘って大丈夫かな」
「そこは僕に任せてください」
レンの思い付きに千影は若干顔を顰める。
昨日の様子といい明らかにミサキの精神状態を加味すれば誘うべきなのかは微妙だとわかっているからだ。
しかし、任せろと言われた以上は下手に言い合いをしても仕方ないと千影は頷いた。
「4人目が欲しいんですよー。2vs2ができるほうが楽しいじゃないですか?」
「他をあたって」
「私に負けるのが怖いんでしょう?」
「はぁ!?」
レンの誘いにやはりミサキは興味がないと拒絶していた。
予想通りの展開なので千影はただ傍観している。
無理に連れ出したところでミサキの気分が晴れるとはあまり思えないが、アサカの一言でミサキの反応が変わった。
「せっかく千影さんも水着なんですよー。一回ぐらいいいじゃないですかー」
だめ押しとして結局ダシにされているのは自分じゃないかと千影は内心思ったが、レンたちの言葉にミサキもたじたじになっているところを見るとまんざらでもないらしい。
ちらりとミサキからの視線に頷くと息をついて「わかった、やる」と呟いた。
「わーい!ありがとうございますー」
若干レン達と結託して嵌めたようなものではあるが、ミサキと一緒に遊びたかったのも事実なので折れてくれてよかったと思う所もあった。
アサカがミサキを上手く煽ってくれたおかげで仕方ないと言った状態から、むしろアサカに勝とうとする意思のほうが強くなっていた。
ビーチに出て、さっそくトスはレンと千影がほぼ行い、主にアサカとミサキの二人がアタッカーとレシーバーして役割を果す形になってしまった。
どうにも互いに負けられない相手として認識しているらしい。
トスがメインとはいえ、流石に終わらない打ち合いの応酬に千影の体力が最初に値をあげた。
そんな様子に気づいたレンが「疲れたんでおわりにしましょー」と一声あげてくれたおかげでようやく地獄のビーチバレーは終わりを告げるのだった。
その後はレンがミサキにファイトを申し込んでいたので千影も観戦しようかと思ったのだが、飲み物が飲みたくなったので準備しにキッチンへと戻って来た。
アサカがレンのために用意しているらしいフルーツジュースを用意していたので合わせてミサキの分も千影が用意したのを渡すと仕方ないと言った感じで運んでくれたので今は千影一人だけだ。
水分補給もしたのでぶらつこうとロッジを出た。
日差しはまだ強いので、できるだけ砂浜ではなく木々の生い茂るほうに寄せて歩く。
カムイ達の掛け声なのか、何かよくわからないものが響いていて、頑張っている事だけはよくわかった。
*
「俺より強い相手だっていっぱいいるじゃんかよ〜」
目の前で嘆く三和に櫂は容赦なく「次だ」と宣言し、ファイトの継続を告げる。
昨日の夜と見違えたようにやる気を見せたアイチの姿にファイターとしての魂が擽られたと言った所だ。
そして気づいた感情を考え続ける事にも若干疲れているのもある。
一人でデッキを眺めていると雑念が多すぎるせいで集中できないため、結果的に三和を引き連れてファイトをしていたわけだ。
「ていうか、千影ちゃんとかともいつも通りやりゃいいじゃん。俺も疲れたし交代させてくれよー」
三和の言葉に櫂は一瞬、デッキをシャッフルする手の動きを止めた。
いつでもあればそれでもよかったが、今はなんとも複雑な心境であって自分からファイトを誘う気にはならなかった。
レンとは何回か合間をみてファイトしているが、レンはレンで他のメンバーにちょっかいをかけていたのを見ているので今は相手をしてくれそうにはない。むしろ、三和と会う前にはビーチバレーしようなどと誘われて断っている。
そうなると結果的に三和とファイトしているのが最善の選択肢であって、当然やめさせるつもりはなかった。
しかし、櫂の思惑をよそに「なんか叫んでると思ったら三和の声じゃん。てかこんなところでファイトしてたの?!」といつの間にか訪れていた千影の声が耳に入った。
「お、千影ちゃん水着じゃーん。かっわいいー」
三和の言葉に視線を向けると、昨日とは違った装いの千影に櫂は一瞬硬直したが、すぐに平常を装うように視線をカードへ戻す。
その仕草に千影が気づかないとも知らずに。例え、気づいたからと言って千影もまた指摘するつもりはない。見るに堪えないほどと取るかもしくは、見るだけ何かが沸き上がってしまうのかそのどちらかをはっきりさせないほうがいい。その方が互いの為だとわかっていたから。
「はいはい、お世辞ありがとう。まーたなんでこんな所でファイトしてんのさ」
「櫂に呼び出されてほいほいついてきたら案の上ってわけよ。まーアイチ達に断ってる手前自分から誘うには色々問題があるんだろうけどな」
千影が三和の言葉を軽く流す。褒められて喜ぶ様子がないあたり、三和の軽薄さが問題なのか、千影自身が褒められるようなものではないと言う意識からなのか。
櫂自身も率先して褒める性格ではないので、下手に口にしなくてよかったとは思うが。
三和の説明に関してはおおむね事実なので口を挟む気にはならなかった。
だが、三和は先ほどの通り疲れているらしく櫂とのファイトを交代して欲しいと千影に打診していた。
千影がちらりと櫂へ視線を向けた。カードに視線を落としたままの櫂を見て、ファイトをしたいと言う気持ちはまだあるようなのは確かにわかる。
「櫂がいいなら別にいいけど」
「かーいー、いいだろ?」
「…どちらでもいいファイトだ」
「って待って、私デッキ今持ってないわ…あーバッグの中だ…」
櫂の返答に千影は対面に座ろうとして気づく、今の千影は当然手ぶらだ。
水着にデッキを持ち合わせるほど千影はファイター脳ではない。
結局、その場で継続することは諦めて櫂達はロッジへと戻ることとなった。
千影が三和と櫂の間で色々と喋りかけていたが、櫂は短い返答をするだけだ。
あまりに見る機会のない水着姿。肌の露出が多いせいなのか、どうにも視線が向いてしまう。
ロッジにつくと三和が飲み物を取りにキッチンへと消えた。
「水着、変?」
ロッジのテーブルに腰かけた瞬間、千影が櫂に問う。
理由は当然、櫂が千影に幾度か向けた視線のせいなのは明らかだった。
この場合なんと答えるべきなのかその正解を櫂は持ち合わせてはない。
「…いや見慣れないだけだ」
なんとか捻りだした答えは嘘は言っていないつもりだ。
ただ、見慣れていない千影の姿が気になって仕方ないだけで。
似合うと三和のように伝えれば何かが変わるのかもしれない、だがそれが正解だとは何故か思えなかった。
櫂の返答に千影は安堵したように笑った。
「私も櫂のその姿見慣れないんだよね。いつもそんなラフな格好してこないでしょ?」
確かに今日の櫂は普段よりはラフではある。
海辺と言うこともあるので、特におかしいわけではないはずだが互いに見慣れないと言うのも何処か不思議な話でもあった。
デッキを取りに戻るため、千影がロッジの奥へと消えていくのを見送る。
三和はいつのまにか逃げ出したのかキッチンはもぬけの殻だ。
Q4は今日の昼過ぎに迎えの飛行機が来る予定なので、そろそろ帰り支度をし始めていてもおかしくはない。
戻って来た千影とファイトを開始して、いつも通りのやり取りを数度交わす。
目の前の千影が動くたびに普段目にしない箇所が目に付く。
判断力がどうにも鈍る。そんな櫂に千影はうまく攻め込んで珍しく2連勝を決めていく。
小さく溜息をつき、振り払うようにカードと向き合う。
ファイトするときはどんな状態でも真剣でなければ相手に失礼だとわかっている。
そこからはいつものペースを取り戻した櫂の勝利が続いた。
千影も悔しそうにはしているが、諦めるつもりもないと果敢にファイトに挑む。
そんなやりとりをしているといつのまにかテーブルには各チームたちが集まってきていてまるでキャピタルのような状態になった。
代わる代わる自分達もとファイトを始めてしまい、櫂と千影は一端切り上げる事にした。
わいわいとファイトする様のほうが似合っている彼等を見ると千影は何処かほっとする。
あんなに追い詰められていた顔をしていたQ4も今では生き生きとした顔でファイトをしているところを見ると壁を乗り越える事はできそうだ。
飛行機がくるまでまだ時間があるのでこれは時間ぎりぎりまでファイトしていそうだなと千影は笑いつつ、ロッジから出て片づけをしているシンに声をかけて手伝い始めた。
その姿になんとも言えない気持ちを抱きながら、櫂はただ溜息をつくのだった。
*
「すいません、千影さんまで巻き込んでしまって」
「むしろまかせっきりでごめん。シンさんだって引率できてるとはいえ…」
ゴミを拾うシンが千影に謝罪するが、千影は首を横に振る。
AL4組の引率として呼ばれたわけではないが一番年上としてはどうしても気になっていた。
レンたちの相手をしたりしている間も細かい後片付けはシンが行ってくれていたので千影ものびのびとできていたのも大きい。
だからこそ最後の後始末は手伝わなければと千影は思っていた。
「そうでもないですよ。千影さんたちがご飯を作ってくれたり後片付けしてくれたりですからね。一人だったらもっと大変でしたけど、アイチくんたちをこの合宿に誘った意味がちゃんとあったみたいでそれだけで何よりです」
「シンさん、ほんとそういう所、格好いいわー」
ミサキは勿論だが、Q4やキャピタルに来る子供の成長を見守る親のような存在として文句も言わずに黙々とサポートを続けているシンは千影にとって尊敬できる存在なのは違いない。
「本当ですか!?…ちなみに褒めてもなにもでませんよ?」
「チッ…。褒め殺してカード安くしてもらおうと思ったのに」
「千影さぁん!?」
千影の褒め言葉にシンは喜んではいたが、釘を刺すような言葉に千影は露骨な舌打ちと思惑を口にするのでシンは思わず嘆くような声で千影を呼んだ。
勿論冗談だよ、と千影が肩を揺らして笑うとシンもやれやれと言わんばかりに笑みを返す。
「それで千影さん、櫂くんと何かありました?」
「ん?」
がさがさとゴミを分別していると、唐突な質問が飛んできて千影は目をぱちぱちとさせてシンへ視線を送った。
だが、シンは千影の方を一切見てはいなかった。
「特にないけど、何かあった?」
何もなかったわけではないが、普段の櫂と千影の関係性から考えれば多少の接触など特別な何かに含まれる事態ではないはずだ。
だから、千影は特にないとあえて答えた。
むしろ何かがあったと認めると千影が意識していると言っているようなものだ。
「いえ、櫂くん何か考え事をしているように見えたのと千影さんをやけに見ているなぁと思ったので…」
「水着だからじゃない?お互い、見慣れない格好だよねってさっき話してたから」
「そうですかー」
あからさまな視線はやはりシンのような聡い人間にはわかっていたらしい。
千影も気づいているのでおそらくレンも気づいている可能性が高いだろう。
その視線の意図に関して、千影は深く探ることをしたくなかった。
だって、藪蛇なのが分かりきっている。これ以上、下手を踏んでしまうのが怖い。
千影の言葉にシンは何か感じ取るものがあったのか、それ以上追及はしてこなかった。
片づけを終えるとQ4の飛行機が迎えにきていた。アイチたちをまたキャピタルでと挨拶を交わして見送った。
「VFサーキット楽しみだね」
「ああ…」
飛行機を見送る櫂に千影は笑いかける。
二人はすでに着替えており、AL4の迎えももう少ししたら到着するはずだ。
レン達はまだロッジだ。櫂はアイチたちを見送るように空を見上げている。
「…お前は、俺達とアイチ達が決勝で当たることになったら…どうするつもりだ」
櫂の問いに千影は首を傾げる。どう、といっても千影はどちらも応援するつもりであって片方を応援すると言う事はない。
「応援しにいくよ、どっちも。みんなのファイト楽しみだもん」
「…そうか」
櫂としては特に深い意味のある質問ではなかった。
ただ、キャピタルに入り浸っていることを考えれば櫂たちAL4よりもQ4であるアイチたちを応援するのだろうと思っていたので少し驚いた。
「えー。もしかして櫂、私がアイチたちだけ応援するつもりだと思ってたの?」
「まあ、な。お前は元々キャピタルのメンバーと仲がいいだろう」
悪戯っぽい笑みを見せながら千影が櫂の顔を覗きこむ。
少しばつが悪そうに櫂は視線をずらす。
櫂の言う通りではあるのだが、千影の中で櫂もキャピタルの仲間だから応援する。
そう、それだけの事だと千影は自分に言い聞かせた。
「そりゃね。毎日通っててもはや家族みたいなもんだから。櫂もね」
ただの会話。だが、これで櫂は理解できるだろう。
今以上の関係を望むことはできない、そう突きつける言葉だと。
千影が櫂に対して思うことは、家族のような情愛なのだと。家族は、それ以上の関係にはなることがないと。
横を向いていた翡翠の色が動揺に揺れる。
だが千影はそれに気づかない振りをして「もうすぐ飛行機来るから、戻ろっか」と櫂の手を掴んでロッジへと歩き始めるのだった。
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