射干玉フラストレーション

手元のカードと机に広げたデッキをにらめっこしながら千影は溜め息をついた。
あれもこれもついデッキにいれたいものを突っ込みすぎてバランスがすこぶる悪い。
フリープレイとして数人にファイトしてもらってよくわかった。
なので自分のデッキを見直すことにして広げてみたものの行き詰まってしまう。
べたんとカードを広げた傍に頬をつけて数枚のカードを握って見つめる。

「この構築だめだ…」

思わず言葉が漏れた。
そんな千影の肩から手が延びてくると彼女の手にあった一枚のカードがその手によって引き抜かれる。
何事かと顔をあげれば、見慣れてはいるが会話などできるわけもないようなファイターがそこにいた。

「そのデッキならこれをいれてみろ、そのグレード3は抜いておけ。それと構築が片寄りすぎだ」

「え…ありがとうございます」

差し出されたカードを手に取って、広げたデッキの中から指をさされたカードを引きぬいて差し入れる。
やはりバランスは大事だよねと言われた言葉を噛みしめながらも次々と指示される事を頷きながらも千影はデッキを入れ替えていく。
一通り指示が終わってデッキをシャッフルする。一人回しでもしてみようかと思いながらも並べた。

「試しにやるぞ」

「え、でも私強くないですけどいいんですか?」

当然のように目の前の席に座る有名人、櫂トシキに思わず千影は聞き返した。
千影のプレイ歴は大して長くはない。何よりもここらへんで有名なプレイヤーと言われる櫂トシキにテストプレイをしてもらえるなんて機会はないとわかっていても流石にそこまで頼むわけには断ろうとしたが遮られた。

「戦ってみなければデッキの調整にならないだろう。せっかくだ相手をしてやる」

「!ありがとうございます。櫂、さん」

櫂の言葉ももっともだが、まさかテストプレイまで相手までしてくれるとは思っていなかった。ので思ってもいない申し出に感謝を述べた。櫂は事もなげに自分のデッキを取り出し、シャッフルしていた。
千影の言葉にちらりと櫂は視線をこちらに向ける。

「さんはやめろ、それ以外で呼べ。敬語もいらない」

「あ、じゃあ呼び捨てで。私は望月千影。好きに呼んでくれればいいよ」

「ああ、いくぞ」

思わず敬語になっていたのは櫂がまとう雰囲気のせいなのか本人から言ってもらいようやく千影は敬語をやめた。
その様子に櫂も頷き、二人共カードに手をかけた。

「「スタンドアップ!!(THE)ヴァンガード!!」」

二人の声がショップ内に響いた。

「負けたー!」

櫂トシキの華麗なファイナルターン宣言後、抵抗するだけしてみたものの千影は見事に敗北した。
プレイ歴も浅いし当然と言えば当然なのだが、悔しいものは悔しい。
がっくりと項垂れてしまうが、目の前の櫂は涼しい顔で自身のデッキを片付けている。

「どうださっきのカードでうまく動かせそうか」

櫂の言葉に項垂れた顔をあげる。
千影はさきほどの戦いを思い出しながらぱっと笑顔になる。
確かに回り具合は櫂の指示を受けて変更してからはまともに動かせていた。

「すごい!!前よりも戦えるようになってた!」

千影の晴れやかな笑みに櫂は満足げに視線を交えた。

「お前に足らないのは経験だ、色んな奴とファイトしてみるといい」

「ありがとう!頑張ってみる」

こくりと櫂の言葉に頷きは、千影はカスタマイズしたデッキを嬉しそうに握った。

「ね、またファイトしてくれる?」

「気が向いたらな」

ぶっきらぼうではあるが、それでもまた彼は相手をしてくれるようだ。
まだまだヴァンガードが楽しくなりそうだなと千影は目を細めて喜んでいた。


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