悪戯アドベンチャー

クロノくんたちが、合宿と言う名のお泊りに行くというのは知っていた。
あーいいなぁ。海いきたいなぁとこっそり思っていたけど、
流石にU20参加者と運営組である伊吹さんたちも一緒だと聞いていれば流石に行きたいなんて言えるわけもない。
だから諦めて送り出そうと思っていた矢先にハイメさんから「千影もいくよね!」と。
何を言ってるのかわからず目をぱちぱちしているとハイメさんがウィンクをしながら
「千影も僕たちのアミーゴだからね!仲間はずれはなしさ!」と言っていただいてまさかのまさかで今、私海にいます。
うん、トコハちゃんとクミちゃんとかリンさんとかもはやスタイルがいい人達ばかりに囲まれて私は萎縮してしまう一方ですけどね!!
水着はもちろん来てるけど周りのスタイルの良さを見た以上、パーカーを脱ぐ度胸はございません!
これでも一応クロノくんの彼女である私としてはもうなんていうか完敗なので水着なんて着てくるんじゃなかったと若干の後悔。
行くと恐る恐る頷いた時、クロノくんは嬉しそうにしてくれたのを知ってるので行かないっていう選択肢は流石になかったんだけどね、うん。
U20に絡むあらゆる思惑。多少クロノくんから聞いてたので今更驚くこともなかった。
…ストライドゲートの事を思い出せばそこまで不思議じゃない。
最初の時はリューズ…くん?いや、さんのほうがいいんだっけ?
そのことも全然教えてくれなくて、私は何も教えてくれなきゃわからないって散々泣き喚いたことがあってそれ以来話すようにするってクロノくんはちゃんと今も約束を守ってくれているのは、すごく嬉しいし進歩だと思う。

「…お前も何かあったらちゃんと言えよ」
「クロノくんがそれを言うの?」
「お、俺は言うタイミング逃しただけだって!」

そんなやりとりをしているとトコハちゃんとシオンくんがクロノくんを引きずって海に投げ込んだ。
流石トライスリーの時からの仲だなぁとしみじみと眺めてしまう。
二人に追われるクロノくんに手を伸ばすのは私じゃなくてカズマくんだけど…あ、悪い顔してる。
案の定、助かったと思ったクロノくんは手を離されて再び海へとダイブ。
思わず面白くて肩を揺らしながら笑ってたら、クロノくんがそんな私に気づいて助けを求めるように手を振る。

「おーい、千影!助けてくれ〜!!」
「や、やだ!!私まで巻き込まれちゃう!」
「なーにいってんだ、そらいってこい!」
「わああああ!カズマくんの薄情者おおお!わぶ!」

クロノくんの言葉にぶんぶんと首を振りながら拒否してると、隣にいたカズマくんが悪い顔をしながら私の背中を容赦なく押してくれた。
桟橋を覗きこんでいた私はバランスを崩してそのまま海へと無事ダイブ。
急な飛び込みに口の中に海水が入ってきてしょっぱい!!
ぷはっ、とようやく海面へと顔を出すとクロノくんがすぐさまに傍にへと来てくれた。

「大丈夫か?」
「うぇー。ちょっと海水飲んだ…しょっぱい…」
「ったくカズマも乱暴だな」
「後で仕返ししよう…」
「俺もさっきやられたし後でお返ししねーとな」

ぺっぺっと口元を動かす私にクロノくんも困ったように笑う。
そんなクロノくんをまじまじと改めて見て、水着なんだなぁと実感が沸いた。
上半身すらっとしているわりに筋肉がないわけでもないそのなんとも言えない色気に思わず見とれそうになったのは内緒。
…でも今はそれよりカズマくんにはあとでしっかりお返しをしなくては!と私が決意を固く決めているとクロノくんもうんうんと頷いてくれた。

「…重い」
「パーカー脱いじまえばいいだろ?」

水分を含んだパーカーが重くて思わずぼやくと、クロノくんが不思議そうにパーカーを指した。
彼に言ったってわかってもらえない気がする乙女心はどうしたら伝わるのだろうか。

「や、焼けるからやだ」

我ながら心苦しい言い訳だったと思う。視線を落としながら呟いた私はきっと可愛くない。

「…せっかくの水着なんだからもったいねーだろ」
「っえ!?」

ぼそりと耳元で呟かれた言葉にハッとしてクロノくんの顔を見ようとしたんだけど…
クロノくんは私の手を引いて先に歩いていくからその表情が見える事はなくて、その意味がどういった意味なのか頭の中でぐるぐるとしているまま浜辺へと戻ってきた。
海に上がる前に手が離れた。うん、まあからかわれるし仕方ないよね。
浜辺にあがると、ぼたぼたとパーカーから海水が落ちていく。流石に絞らないとなぁ…。
ぎゅ、っと裾を絞ってみるけどまあなんていうか焼け石に水といったかんじ。
うう、流石に脱がないとこれはだめか。
クロノくんをちらりと見ればいつの間にかタイヨウ君たちと喋ってるみたいだし、こっそりと茂みで絞ってこようとそっと抜け出す。
あんまり奥に行くと帰れなくなるから、みんなが見えるぎりぎりの茂みに入り込むとパーカーを脱いだ。
水色の生地にかわいい花柄のプリントされていて、腰にはシースルーのフリルついたビキニ。
びしょびしょのパーカーを脱いで絞りながら、何しているんだろう私はと冷静になってしまう。
水着は海で遊ぶための衣装であって、別にスタイルをみてもらうためのものじゃない。
リンさん達がスタイルいいのはわかりきってたことで、その上で水着を持ってきたのは私自身だ。
比べられる事が怖くて意地を張る意味なんてない。そう、だから、うん大丈夫。
幾分か水分の落ちたパーカーを羽織らずに腕に抱えて茂みから出ようとした瞬間、引っ張られる。

「?」

何?と思って振り向くと、ビキニの紐がいつのまにか木に引っかかっているのが少し見えた。
やばい。と思って慌てて抜け出そうともがいてみると何故かさらに絡まる。

「千影?んなとこで何してるんだよ?」
「ひ、…っ!?!」

突然かけられた声に驚いて紐が、するりとほどける感覚を背に感じて思わず脇を締めて、腕を組む様に抑える。
だって絶対これ落ちる!!これ完全に今ほどけたね!?
慌てる私の胸中をよそに驚いたクロノくんが更に驚いたような顔を見せた。

「な、なんだよ!?」
「あ、あはは、ナンデモナイヨ」
「明らかになんかあっただろ…!?」
「だ、大丈夫。大丈夫だから!」

目を泳がせながら必死に説得してみるもののクロノくんの怪訝そうな顔は変わらず。
ひーん、こんな時ぐらいいつもみたいにみんなの所にいってくれればいいのに!と私の祈りも届かない。

「大丈夫なら、いこうぜ。そろそろ昼飯らしいし」
「あ、ま、まって、あとから、あとからいくから!!」
「…やっぱお前なんかあっただろ」

じーっと見つめるクロノくん。
…その視線から逃げれたらよかったんだけど、今振り向いたらバレるのだから隠すのは無理があると諦めて意を決して私は口を開いた。

「ひ、紐が」
「紐?」
「う〜〜。びきにの、紐が、解けたの、で」
「…は、むぐ!」

はぁ!?って多分言おうとしてたであろうクロノくんの口を慌てて私は手で抑える。
脇はちゃんとしめたままだからなんとか大丈夫。うんでもちょっと水着が浮いてるからやばいね。

「大きな声上げたらみんなこっちみるでしょ!!」
「むぐ、むぐぐぐ!」
「あ、ごめん」
「…直してやるよ。後ろか?」
「え、あ、」

クロノくんが背後に周って解けた紐を結びなおしてくれるのを背に感じながら心臓の音がバクバクと煩い。
こんな風にお披露目したかったわけではないし、ましてやこんなハプニングも望んではいなかったんですけどね!!
首筋にやわらかい感触。え、何?と思って振り向くとクロノくんの顔がすぐそばにあった。
そのまま唇が重なって、すぐ離れた。唇に残ったほのかなぬくもりが名残惜しい。ってそうじゃない。

「ほら結んだし、先にいってるぜ」
「は、え、うん…?」

混乱する私をよそにクロノくんはさっさと一人で歩いていってしまった。
ちらりと見えた頬が少し赤いのは気のせいじゃなかったと思う。
…ええ。何今の。ずるくない?今まで色々もやもやしてた気持ちすら吹っ飛ばすようなその行動が、胸の高鳴りを加速させるだけで。
火照る頬が冷めるまで、みんなと合流するなんてできるわけもなかった。



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