メロウシェリー
コトン、と机に置かれたマグカップからは甘い香りと暖かな湯気が昇っていた。
差し出されたそのマグカップに思わず千影は目をぱちくりとさせる。
「もしかして、甘いのは苦手だったかな?」
「あ、いや、そういうわけじゃなくて、カズミくんこういうの作るの意外だなって思っただけなの」
「そうかい?…昔、弟によく作ってたせいでこれだけは今だに作り方を覚えていてね」
肩を竦めて困ったように微笑むカズミに千影は口を噤んだ。
彼と弟の二人は異母兄弟なのだと聞いたのはごく最近で、そこまで内情を知っている身としてはどうにもバツが悪い。
そのバツの悪さを隠すように入れてもらったマグカップをそっと手で包む。暖かい。
白いマシュマロ、クリーム。そしてチョコソースの下にあるであろうココア。
…お店で出すのともはや変わらないクオリティなのでは、と一瞬思ったが突っ込んでも仕方あるまい。
口をつけてみると見た目通りの甘さと暖かい液体で口の中を満たされる。
「…カズミくんって甘党?」
口を話すと、泡が若干口周りに残った。ぺろりと舌で舐めとると、カズミがぴくりと視線を動かした気がした。
…行儀が悪かったのだろうか?と疑問に思ったところで後の祭りだが。
「弟に作った時と同じように作ってみたんだが、甘すぎたかな?」
「甘い、けど。美味しい」
不安げに口を開いたカズミに、千影は首を振って嬉しそうに笑いかける。
その反応にカズミもまた表情を柔らかくした。
彼がそんな風にやわらかな表情をするようになったのはディフライダーの一件が一時的にとはいえ収束してからだ。
そのきっかけが自分でないことは不服ではあるがそれは傲慢だろうと、顔を出しかけた自己主張をココアと共に飲み込んだ。
「ならよかったよ」
「でもなんで、急に?」
「…君に作ってあげたくなった、っていったら信じてくれるかい?」
「っ!?」
その言葉のほうが作ってくれたココアよりも甘い。
恥ずかしさに顔が火照るのが嫌でもわかった。
[戻る]