(クロノ視点)
ショップでいつものように望月とファイトをして、望月はデッキの構成に悩んでいるみたいだった。
ギアクロニクルは最近一般クランとして販売が開始したばかりで品薄になりやすいらしい。
「望月、使ってないギアクロのカードならうちにあるけど見に来くるか?」
「…クロノくんの?」
「そ。流石に量があるから、持ってくるってなるとしんどいしなぁ」
「クロノくんがいいなら、ぜひ!」
まさかこんなに食いついてくるとは思わなくて、その勢いに若干引きながらも約束したのがつい昨日の話。
そんで、シオンとトコハにその一件を話した。
「じゃあ、今週末は自由行動ってことで」
「そーね」
「え、なんでだよ。お前らもくればいいだろ?」
「…クロノ、君って人は」
「…あんたねぇ」
俺の言葉に呆れたような顔をしてシオンとトコハは溜息をついた。
いつも通り誘っただけだろ?と俺は首を傾げる。
「…いや、僕らはいいよ。望月さんにも悪いしね」
「アイツ、別にお前らのこともうそこまで嫌ってないだろ?」
望月千影。ギアクロ使いの俺目当てで最初キャピタルに来たらしい。
始めてあった時、望月は目をきらきらさせて俺に話しかけてきた。
デッキは俺と同じギアクロニクル。
でも使ってるのは俺と同じじゃなくて、何故かリューズと同じタイガーを主軸とするデッキだった。
…複雑だとはいえ、リューズの一件を知らない望月に使うなとも言えない。
それになんだかんだ望月とファイトするのが好きだった。
でも俺と話すときは普通なのに、シオンやトコハは苦手らしく俺以外の同級生からは逃げ回ってたんだよなぁ。
最近になってようやく慣れてきたのか少しずつ話すようになったぐらいだ。
「そういうことじゃないの!私もクミちゃんと約束あるし」
「僕も予定があったからちょうどいいってことで」
「…なーんか納得いかねぇ」
そんなやりとりをしてあっという間に土曜日になった。
ミクルさんは仕事で今日も帰っては来ない。
慣れたことだから大して気にしちゃいないけど。
流石に人が来るっていうんだからと軽く片付けと掃除を済ませようと準備を始めた。
テレビの天気予報は、台風接近中!とアナウンサーが説明している。
アイツ、今日台風だっていってたけど帰り大丈夫なのか?
っていうか、そういえば俺の家に望月がくるの初めてだな。
そんなことを考えているとインターホンがなった、手元にあったカードを握りながらインターホンに声をかけて望月を家に入ってもらう。
玄関のほうに向かうと望月が少しきょろきょろとしながら廊下に立ってたのでそのままリビングへと案内して俺は自室へと戻り事前に出しておいたギアクロニクルのカードを入れたストレージボックスを掴んでリビングへと戻った。
望月にストレージボックスを渡すと、ありがとうと言いながらカードを手に取る。
「…そういえば安城さんと綺場くんは?」
ちらりとカード越しに望月がこちらを伺うように尋ねてきた。
もしかしてアイツらが一緒のほうがよかったのか?
「アイツら今日はそれぞれ予定があるらしいけど、どうかしたか?」
「う、ううん、なんでもないよ。そっかぁ」
もしそうならなんか、こう、イラっとするというか言葉に表しにくい気持ちがぐるぐると自分の中に渦巻くのを感じた。
…なんでだ?別におかしな話をしたわけじゃないのに。
その気持ちに答えがでないまま、望月がカードをじっくりと眺める。
たまに質問が飛んできて、使い方を説明したりすると真剣な様子で自分のデッキに組み込むの考えているみたいだった。
真剣な望月の表情を横目で見ていると、いつも喋ってるへらっとしたイメージとはまた一味違う。
こんな顔もするのか、と新しい一面を見た気がする。
「あの、クロノくん。これいれてファイトしてみたいんだけど」
「あ、ああ、いいぜ」
数枚選んだカードを見せて望月が俺に声をかけた。
横目で見てたもんだから、一瞬動揺した。けどそれを繕うように頷く。
「「スタンドアップ、ヴァンガード!」」
始まったファイトは、互いにダメージ4点。そろそろどちらも攻め込む頃合。
今は望月のターンで、このターンの超越するカードを悩んでいるらしい。
…その瞳は、カードを選んでいた時とはまた違ってキラキラとさせながら可能性を探していた。
「うん、ここで勝負にでないとだね。時空竜、バインドタイム・ドラゴン!」
「げ」
結論から言うと、このファイトで俺は負けた。
悔しかったからもう一戦!と言えば望月は喜んで頷く。
望月が負ければ今度は望月がもう一回と強請るのでそんな繰り返しをしていれば時間もあっという間に過ぎていった。
ふと、時刻はもう18時を指していて望月も気づいたのか窓に視線を外に向けたかと思えば窓にいきなり張り付いた。
窓の外は大荒れ。雨と風がこれでもかと打ち付けてるのが見える。
「そーいえば今日、台風だったか?」
「え、うそ!?」
「朝天気予報でいってたぞ」
天気予報を思い出しながら口に出すと、望月が信じられないと言った表情で俺を見ていた。
どうやら事前の天気の状態を全く知らなかったらしい。
こういう所はやっぱ抜けてるんだよな。
不安そうに帰りを考えているらしい望月に、思わず口にする。
「ちょっと様子見ていけよ。流石にこの中帰るのは危ないだろうし」
「う、でもクロノくんに迷惑かけちゃうし」
流石この中を帰れと言うほど俺も酷い人間じゃない。
…それに、どこかで帰らない欲しい気持ちもあった。
「別にいーよ。叔母さんも帰ってこねーし。なんなら夕飯作ってやるから食って行けよ」
「…い、いいの!?」
俺の言葉に望月は目をさっきみたいにキラキラとさせていそいそと自分のスマートフォンを取り出す。
家族とのやり取りを聞くのも悪い気がして俺は冷蔵庫の材料を確認しにいく。
買い物はしてあるおかげで、大体なら何でも作れそうだ。
作る品を決めて材料を取り出すと、電話が終わったらしい望月がこちらに駆け寄ってきた。
「あの、ごちそうになります。…あと何かお手伝いさせてください」
「おう。んじゃ、言う皿だしてもらっていいか?」
「うん」
指示しながら作ってると、時たま望月が俺の作ってる様子を楽し気に見ている。
…なんか、恥ずかしいな。手元が狂わないように、調理に集中して恥ずかしさを紛らわせてなんとか作り終えた。
ダイニングテーブルに二人で座る。いつもはミクルさんと二人か、一人なのに、不思議な感じだ。
頂きますと手を合わせ、食べ始める。望月の口に合うか心配で少し様子を見ていたが、食べた後にまた瞳を煌めかせて嬉しそうに笑った。
「そんなにうまいか?」
って思わず聞いたら思いっきり首を縦に振るもんだから、喜びと少し恥ずかしさで視線を逸らして食事を進めて誤魔化した。
多分誤魔化したのはばれてるだろうけど。
食事が終わって片付けていると望月は再び窓の外を見つめていた。
その視線の先は明らかに外に出ちゃいけないだろっていう荒れ模様がそこに映し出されていて、流石にもう帰るの諦めたほうがいいだろこれ。
水道の栓を締めて、この後どうするか考えているらしい望月に声をかける。
「…流石にこの中帰ろうとすんなよ」
「で、でもでも!」
でもへったくれもない。こんな中で帰したら危ないに決まってる。
どうせ家には俺しかいないんだし、望月ぐらい泊めたって問題はない。
「泊まっていけばいいだろ?」
そう口にすると望月はワンテンポ置いてから驚きの声をあげた。
服も必要なら叔母さんのを借りればいいだろうし。
しばらく云々と唸っていた望月も流石に観念したらしく再びに親に連絡しているのでその間に風呂でも洗っちまおう。
風呂の掃除を終えて、お湯を張る。必要そうなものはこれで大丈夫だとは思う。
まあ何か足らなかったらその時言ってもらえばいいか。
そういえば風呂あがってから着れるような衣類なんてあったっけかな。
ミクルさんのを借りるにしても適当に探しておくべきかもしれない。
そんなことを考えていると電話が終わったらしい望月が俺に頭を下げて「一晩よろしくお願いします」と口にした。
お風呂の湯もそこそこ溜まっていたし先に望月を風呂場に案内する。
「あー、後で洗濯するけど何か洗うものあったら置いといてくれればいいぜ」
「…う、うん!わかった!」
若干顔が赤い望月に俺は首を傾げて脱衣所からミクルさんの寝室へと移動する。
ミクルさんの衣類も俺がほぼ洗濯しているので衣類の場所ぐらいはわかる。
多分必要なのは寝間着ぐらいだろうか、と手に取ってみたんだがサイズが望月には合わなさそうだ。
かといってそこまで望月に近い体系の服なんてうちにはない。
どうするかなぁとリビングまで戻ってきてから思い出す。
そういえば昨日ジャージ洗ったな、と。…自分で考えててなんだけど、少し悲しい気持ちになる。
何が悲しくて同学年の女子と似た体格なんだよ、と。
まだ伸び盛りなだけだ、いつか望月よりはでかくなる。いやなってみせる。
そんな複雑な気持ちを抱えながら上下セットのジャージを手に取って風呂場へと向かう。
お湯につかっているらしい望月に向かって聞こえる様に声をかける。
「寝間着代わりに使えそうのおいとくぜー」
「ひゃ、ひゃい!!!ありがとう!!」
急に話しかけられて驚いたのか、間抜けな声をあげた望月に笑いながら洗濯する衣類を手に取る。
…先ほどまで来ていた望月の服も当然。…いや別に何も考えてない。
ぶんぶんと首を振ると洗濯機へと詰め込み、おまかせコースで洗い始めたのを確認してその場を離れた。
考えると望月と二人っていうのはあんまりない。こう考え始めるとなんか色々気になってくるけど、考えに沈む前に望月が風呂から上がった。
濡れた髪をバスタオルで拭きながら…少し大きいらしい俺のジャージを着てる姿を思わずまじまじと見てしまった。
「あ、あのさ、これ…」
「あ、悪ぃ。お叔母さんのサイズどれもでけーかなって思って、それで、俺の服のほうがサイズまだ合うかと思って、さ」
「う、ううん。貸してくれて、ありがとう。ちょっと大きいぐらいだけどだいじょうぶ…」
「…じゃあ俺も風呂入ってくるから」
ぽりぽりと頬を掻きながら誤魔化すように言うと少し恥ずかしそうに望月はこくこくと首を縦に振って頷く。
なんだかその場にいるのも居たたまれなくなって、足早に風呂場へと向かった。
思った以上に自分のジャージを着てるって言うのはあれなんだな、言葉にしにくいけどヤバイ。
手早くお風呂に浸かったものの、どうにもさっきの姿が頭から離れなくて調子が狂う。
リビングに戻ると望月がぼんやりとテレビを眺めていた。…ていうか、髪乾いてないだろ。
「…おい、ちゃんと髪乾かさねーと風邪ひくぞ」
声をかけると変な声をあげて驚いた望月がこっちを見た。
…やっぱ、あんま直視するのやめておこう。
濡れた髪をバスタオルでまだ拭こうとしているのを見かねて、半ば強引に望月をダイニングの椅子に座らせてドライヤーを手に取った。
この方が乾かすならやりやすいし、何より正面から見るのはあまり、よろしくない。
スイッチを入れて、髪を手に取りながら乾かしていく。ふわりと香る匂いが、自分と同じものだ…。
ドキドキする気持ちに気づかない振りをして、乾かしていくと望月の頭がゆるやかに下がる。
…眠い、らしい。名残惜しいけど望月の髪を手放して、ドライヤーの電源を切る。
寝るなと声をかけると、ふわふわとした声が帰ってくるもんだから限界みたいだ。
仕方ねぇ。眠そうな望月の手を引いて、ミクルさんの寝室へと案内するとやっぱり眠気の限界だったらしい望月がベッドに潜り込みすやすやと寝息を立て始めたのを確認して扉を閉める。
大きく息を吐き出して自室に戻ったのはいいが、今日寝れる気がしなかった。
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