執着ディストラクション(櫂&タクトonly)

「ファーストリバースファイターは君がふさわしい!」

立凪タクトの元に訪れた櫂はおおよそ元のタクトとは似つかわないその変貌に驚きながら、ファイトを始めていた。
そして明かされたのは石田ナオキに起きたその状態がリバースと呼ばれ、それを広めようとしているのが目の前のタクトだと言うこと。
仕組まれたファイトに逃げ出すわけもなく櫂はタクトは今対面していた。
ターンが進むにつれ、目の前にいるタクトの使うリンクジョーカーと呼ばれるクランの力はすさまじく呪縛と呼ばれた固有能力は自分のユニット達を次々と無効化し、その存在を捻じ伏せられていた。

「リバースすれば君にもわかります。その力が素晴らしいものだと。
 そして君はこの力に魅せられている。かつてない力を感じ、それを欲している」
「ッ!」

タクトの囁きに櫂は言葉を詰まらせる。
間違いなく、櫂はその強さをその身に受け驚きと興味が同時に沸きあがっていた。
強さそれは追い求め続けるただ一つの櫂自身の生き方。

「それに、今の君では彼女も手に入れることができない。」
「…どういうことだ」

つけたされたように紡がれた言葉に櫂は思考も行動も全てが一瞬停止した。
彼女と言われて思い浮かぶのはただ一人だ。
キャピタルでファイトするメンバーでは一番の年上で黒い髪を靡かせ、笑いながらぬばたまを握っている女。
キャピタルにいるメンバーの年齢層が櫂と同年代や年下が多い中、初めは珍しいものだと思ったのだが、彼女は櫂達と同年代ぐらいしか見えなかったのも幸いしたのかいつの間にか周りと距離を縮めあっさりと馴染んでいたのだ。

「彼女は、望月千影は君を受け入れない」
「…何?」

タクトの戯言に櫂は怒りに声を染めながらも尋ね返す。
彼女が自分を、自分の気持ちを受け入れるとは思ってなどいない。
しかしそれを他人にずけずけと言われるのは無性に腹が立った。
櫂自身が彼女への想いに気づいたのはごく最近だった。
VF甲子園の時、アイチとレンを応援するその姿に苛立ちを覚え、自分の傍に置きたいと強く思ってしまったこと。
それの感情をなんと呼ぶのか。しかし彼女がそれを望むことも受け入れることもないと櫂は理解していた。
だからこそキャピタルへ足を運びファイトをし、たわいもない時間を共に過ごし続けてきたのに。

「櫂トシキ。君は理解しているはずだ。君もまたそれを理解しながらも淡い想いを捨てきれずに傍にいるのだから。だからこそ彼女は君を受け入れる事はないでしょう」
「お前にアイツと俺の何がわかると言うんだ!」
「ふふ、僕は知っていますよ。彼女が君との関係をこれ以上進める気がないと言うことも、君はそれ以上を望みながら今の関係を壊さぬように堪えていることも」
「ッ」

少なくとも櫂の気持ちに関しては全て図星だった。ギリギリと唇を噛みタクトを睨み付けることしか櫂にはできない。
幾度思っただろうか、傍にいる彼女に触れたい、その視線をもっと自分に向かせたい。
…望月千影を他の誰の物にもさせたくはないと。

「だがこの力さえあれば、彼女との一線を越えることもいや、彼女を手に入れることすらも可能でしょう」
「馬鹿な…」
「君がそうやって弱いままでいればいつか彼女は離れていくのではないですか?
 …そう、雀ヶ森レンや先導アイチのような強い者の元へともしくは別の誰かの元へと」
「そんな、わけが」
「ない、と言い切れるんですか?どうして?そんな確証もありはしないのに」
「クッ…」

社会へ出て働く彼女とまだ学生の自分では時間の差と生きている場所が違う。
それでもその差を埋め続けたのはヴァンガードのおかげだった。
自分の強さが彼女との縁を引き寄せ、今の関係を作り出したのだ。
しかし今は、違う。友である二人は強く手の届かない所までいってしまった。
そして彼女のことすらも失ってしまうというのか。
震えが止まらなかった。己の心の弱さに。

「強い友と戦いたい。愛するものを自分だけの物にしたいッ!!
 けれど今の君にその力はない。
 ならば手に入れればいい求めればいい!リンクジョーカーの力を!
 そして、自分の大切なものは手にいれなければ失わなくてすむのです!!!」
「違う、違う、違う!!!そんなものは、違う!」

懸命に否定する言葉を吐き出しても、拭いきれない不安が櫂の心を覆う。
イメージが侵食される。リンクジョーカーの力を使い、アイチを倒す自分を。
望月千影に口付け微笑む、自分と彼女の姿を。
そして手にしてしまったのは黒く禍々しい強き力。

「何故、自分自身ではない力と強さを、選んだ…ッ。アイツは、そんな自分を望んでは、いなかったはずだ…ッ」
「…俺、は!」

自分自身の信念を自分の手で殺してしまった櫂は、すでにリバースファイターとして完全に成ってしまう。
己の欲望のためにその足が最初に赴く先は、ただ一つだけしかない。


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