光は俺がさっき買ってきたドクターペッパーを、喉仏の辺りでごくごく言わせながらちらりと俺を見た。その喉仏は汗でじっとり濡れて、妙になまめかしい色だった。

「なんスか」
「え、ああ、お前、勢いよく飲むなー思て」
「先輩に散々待たされて喉乾いとったんスわ」
「っ、あんな、俺この炎天下の中走ってきてんねんで!」
「別に走れなんて誰も言うてませんけど」
「そ、それはそうやけど、…そもそもお前な、普通後輩っちゅーのは先輩をたてるモンなんやで?」

はあ、と明らかに適当な返事をして携帯をいじりだす光。その長いまつげをボーッと見つめている自分にハッとして、慌てて目を逸らした。さっきの喉仏といい、俺にはいちいち光の身体のいろんなところをじっと観察する癖がついてしまったらしい。別にただムラムラして見ているだけでもない、はずだ。もちろんそういう気持ちがないと言えば嘘になるが、それを抜きにしても光の身体は魅力的で、…いや、それも突き詰めていけば結局俺の性欲とかフェチズムの問題になってくるのかもしれないが。

「それ、一口もらえます?」

光が携帯から目をあげて、ちょうど今俺が飲もうとしていた98円の麦茶を指さした。

「ん、…」

俺が麦茶を口に含んだまま手で合図しても、光はさっきから一ミリも変わらない真顔のまま「誰があんたの口ん中でぬるくなった麦茶よこせなんて要求したんスか」と言ってのけた。俺は口の中に留まらせていた麦茶をごくりと飲みこんだ。

「ちょっとぐらい笑ってくれてもええやんか!」
「え、今の笑かそうとしてはったんスか」
「あっ、当たり前やろ」
「謙也さん、これから出身地が大阪やっちゅうこと隠してもらえません?」
「どういう意味や」
「全国のおもろい大阪人に迷惑がかかるんで」

ようやくふっと一息はきだして笑った光の、今度はギラギラきらびやかに飾られた耳に目をやりながら、俺はもう一度麦茶を口にした。光は俺が口から離したペットボトルに手をのばしてきた。
その手首を掴んで、ペットボトルを床に置く。怪訝な顔で俺を見つめ返す光に、俺の口の中でぬるく温まった麦茶をダイレクトに飲ませてやった。口を開けば何かと憎まれ口を叩いて俺をからかうくせに、こういう時には抵抗しない所が光の可愛いところだと思う。麦茶が光のつやつやした喉仏の裏を流れ落ちていく音が微かに聞こえた。麦茶を飲み干しても、光はしばらく俺から離れなかった。

「俺のドクペも飲みます?」
「…お前の、ドクペ、…?」
「あほか。そーゆー意味ちゃいます」

光はドクペのペットボトルに口をつけた後、さっき俺がやったみたいに手で合図をした。




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