最近追っていた大きなヤマにようやく一区切り付けることができた俺は、部屋でゴロゴロしながら久しぶりの有休を満喫していた。部屋には食べかけのクリームパンが放置してある。今朝気分転換にと買ってみたがやっぱり慣れなかった。そんなむさ苦しい部屋のそこはかとない貧乏くささと、ぼうっと眺めていたグルメ番組に触発され、たまには何かうまいものでも食べに行こうかと思い立った。体を起こし、携帯を手に取ると沖田隊長から何枚か画像が送りつけられている。副長が滑って転ぶ様を丁寧に連写したらしい。毎日毎日飽きもせず、よくやるよなあと思う。俺が言えたことじゃないのは分かっているけれど。

家路を急ぐ人や、今から職場へ向かう人たちの中に紛れて歩いた。俺は今日仕事に追われてもいないし、家に帰りが遅いと咎める者もない。そういうある種の優越感を片手にぶら下げて、何を食べようかと気持ちを弾ませていた。が、魚屋の角を曲がった途端に、一気に仕事へ引き戻されたような感じがした。

「ようザキ、俺たちが汗水流して働いてる間の有休はどうだった」

沖田隊長は顔を合わせて早々に、歪んでこそいないがかえってこっちを不安定にさせる真顔で言った。この挨拶にはさすがに俺も慣れてきたが、ムカつくものはムカつく。

「仕事サボってフラフラして、こうやって無駄口叩いてる一番隊長殿に言われたくないんですけど」
「お、言うじゃねえか」

隊長は少し愉快そうにしたが、相変わらず眉一つ動かさない。この人はいつもそうだ。このすっぱりした真顔?のまま、隊長が影に日向にはたらいてきた悪事の数を思うとぞっとする。今のところそのほとんどの被害は副長が被っている訳だが、同情より先に俺じゃなくてよかったという安心の方が先に立った。しかし、 なんだかんだいって副長は今まで死んだことはないし、沖田隊長も本気で殺そうとはしていないんだろう。と、最近は思えるようになってきた。俺がまだ入隊したての頃は、いつ副長が殺されてしまうかとヒヤヒヤしたものだ。

「ところで山崎、この辺で土方見なかったか」
「副長?見てないですけど」
「ふーん…じゃあ見かけたらメールしろ」
「はあ、また嫌がらせですか」

沖田隊長は「嫌がらせ?」と繰り返すと嫌な笑い方をして俺を見た。

「そんな生温いモンじゃねーよ」

後ろから感じたちょっとした邪気と寒気に思わず、体をひねっておまけにのけぞった。さっき俺が曲がってきた魚屋の向こう側から現れたらしい副長は、腰をねじった俺に目もくれず沖田隊長に掴みかかる。今日こそは殺してやるとかなんとか、副長が毎日のように繰り返す物騒な文句も聞き飽きてしまった。良くも悪くも、副長だって慣れているんだろう。本人にその自覚はあるのだろうか、今日も昨日もたぶん明日も、副長は飽きもせず隊長を捕まえてはイライラした様子で詰り続ける。隊長も隊長で、適当に逃げたり捕まったり、副長の話も聞いたり聞かなかったり、何がしたいのかよく分からない。ひとつ分かることは、二人とも互いに嫌がっているくせに現状を変えようとはしていないということだ。むしろ進んで悪化させようとしている。行き過ぎた意地の張り合いがこれだ。いい大人が大人気ない。でも人はストレスがなくなると逆にストレスを感じたりするらしいし、たぶんこのままでいるのが副長と隊長にとって最も普通で安心する?距離感なんだろう。でも安心するために命のやり取りなんて本末転倒だ。つくづく大人気ない。俺が止めに入ったってなんにもならないのが常だ。
だが、そんな彼らになぜか惹かれてしまうのも事実だ。さして魅力的でもないのに、意地っ張りで大人気なくて本末転倒なのに、そんなのどうでもよくなってしまう瞬間がある。だから、いや理由はそれだけではないけれど、俺は明日もあの人たちの元で誇りを持って働こうと思えるのだ。たまに転職したくなる時もあるけれど、そしてそれは今みたいに面倒な諍いに巻き込まれたときだったりするけれど。



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