もしも氷帝テニス部員たちが将来テニススクールのコーチになったら。
〇設定
財閥の社長に就任した跡部は、その有り余る資産のほんの一部を使って最先端の設備を整えたテニススクールを設立した。多忙な社長に代わって実際にスクールを運営しているのは元氷帝テニス部員たちである。事務等を担当する実質的なスクールの代表は滝萩之介。イケメンコーチ陣による直接指導はもちろん、採算を度外視した格安の料金設定も魅力の一つで、入会は５年先まで予約が埋まっている。
〇宍戸(小学校低学年クラス)
「明るく、楽しく、元気よく」がモットーの宍戸コーチは子ども達に絶大な人気を誇る小学生キラーで、初恋を捧げてしまう女の子が後をたたない。かといって男の子から恨みを買うでもなくむしろ取り合いになることが多いので、それが悩みと言えば悩み。一度思いつきで生徒を脇に抱えてコートに連れていくと僕も私も状態になってしまい、仕方なくすべての生徒を二人ずつ抱えてコートを行ったり来たりする光景は久しぶりに帰国した跡部を驚かせた(宍戸コーチの抱っこは一回のレッスンに二人までの予約制になった)。「激ダサだぜ」は封印したらしく、最近は「今のちょっとカッコ悪かったぜ」程度に留めている。
〇岳人と慈郎(小学校高学年クラス)
慈郎は自分一人でいいと言い張ったが、多数決で「たぶん無理」と判断されたため子どもにウケが良さそうな岳人と一緒にクラスを受け持つことになった。岳人は全体の指揮をとり、慈郎は個々の指導を担当するといった役割分担がうまくいったと滝は満足している。岳人・慈郎ともにレッスン中の15分程度は鬼ごっこやだるまさんがころんだを生徒と楽しんでいたが、だんだんその時間が長くなりほとんどテニスをしないレッスンが数回続いたことが発覚。コーチ陣は緊急会議を開き岳人と慈郎をこっぴどく叱った。それからしばらくの間はストイックな指導にシフトチェンジした二人だったが、納得できない生徒たちにのせられて再び鬼ごっこを再開。仕方なく滝はレッスン時間をきっちり測り、残り15分になった時点でそれを告げるためだけに事務所から出てくるようになった。鬼ごっこの目玉はラスト２分間で行われる岳人と慈郎の一騎打ちである。
〇日吉(中学生クラス)
普段から生徒に指導する際には演武テニスをほぼ封印している。理由は「それぞれに合ったスタイルを身につけてほしい」から(スクールのパンフレットより引用)。強い生徒には更なる努力による成長を促し、弱い生徒には這い上がるチャンスを与えるという指導方法には定評がある。この下剋上スピリットをベースにした指導には跡部も感心し、「また新たな可能性を開いたヤツがいる」と社交パーティー等でよく話の種にされた。そのせいでやたらとくしゃみが止まらない。そんな日吉コーチを心配した女子生徒たちは花粉対策のマスクやらスプレーやらを大量にプレゼントした。せっかくの厚意を無下にできず、マスク姿でテニスをする日吉コーチはまさにコーチの鏡だ。
〇長太郎(高校生以上)
「コーチとか向いてないんじゃないか」という周りの助言をものともせず、尊敬する宍戸さんの後についてコーチに就任。滝は悩みつつ最も手のかからなそうなクラスへ鳳コーチを配属したが、この苦肉の策は予想以上に良い成果をあげた。日吉のスパルタ教育で散々しごかれた生徒たちにとって長太郎の(良い意味で)甘く、(比較的)自由なメニューは癒しと言っても過言ではないらしい。中学卒業を期にスクールをやめる生徒も多くいたが、「高校生以上になると練習が楽になって楽しい」という評判によりスクール全体の利益も上がった。この功績で、長太郎は跡部にご褒美をもらえるという噂がある。
〇忍足(VIPクラス)
やはり金持ちが経営するスクールなので金持ち優待枠が存在しており、〈金さえ積めばいつでも好きなように最高のレッスンが受けられる〉という庶民には想像もつかないクラスを受け持つ。有名な芸能人や資産家の娘などにも個人指導をしている。基本的に生徒とコーチ以上の関係になるのは禁止だが、アイドルのなんとかと食事しただの社長令嬢に花束を贈っただのという噂が絶えない。本人は噂をすべて否定するが、しつこく聞くと心を閉ざすので相当怪しいと睨まれている。だが、その割に休日はだいたい暇そうにしているというのはあまり知られていない。
〇跡部(と樺地)
ファンを世界中に増やしていく超人気コーチ跡部はほとんどスクールに顔を出せないが、その恵まれた容姿を生かしてテレビＣＭや雑誌広告に惜しげもなく登場しまくり「氷帝テニススクールと言えば跡部」というイメージをほぼ全国に定着させた。バラエティー番組のゲストに呼ばれることもしばしばあり、彼にとってはほんのお小遣いに過ぎない莫大なギャラはすべてスクールの運営に回される。稀にひょっこりスクールに現れる場合は、子ども達に夢と希望とアドバイスを与えるとパニックになる前にさっさと引き上げる。ちなみに、跡部に付き合ってあれこれと世話を焼く樺地の生活は中学時代からほとんど変わらないままもうすぐ10周年を迎える。感謝祭が楽しみだ。