昔から忘れよう忘れようと思ってはますます惹かれ続けて、彼女を作ろうが結婚を決めようが、結局は謙也を好きな気持ちが募るだけだと分かったのはついこの間だ。結婚までいけばさすがに区切りを付けられるだろうなんて、甘かった。

次から次へ式場のパンフレットに目を通し、頭に入ってもいないのに適当に丸を付けたりページの端を折ったりして俺が読んだ形跡だけが残っていく。まだ日取りも何も決まっていないのに、俺の未来は教会の真っ白な明かりに照らされているようだ。こうして遠くない未来に俺は結婚して、家庭を作って、それで、どうなるんだろう。それが俺の幸せなんだろうか。自分の気持ちを隠し通して、彼女には嘘ばかりついていい夫を演じて、そんなのはどう考えても幸せと程遠い。俺を心から好きだと言ってくれる彼女を抱きしめて、これが謙也だったら、と思ってしまう俺に幸せになる資格なんてないんだと痛いほど思う。





「白石!」

振り返ると明るく笑う謙也が俺を待っている。俺も笑って片手をあげた。隣に座ると謙也は少し迷ってから下を向いて「結婚するんやろ」と言った。俺はどっと汗をかいて心臓の動きが早まるのを感じた。うん、と言葉にならない返事で頷いて、前に置かれた水を半分くらい一気に飲んだ。
謙也は動揺していた。今まで散々仲良くやってきた俺が隠していたたくさんのことを知ってもまだ、俺を責めない。今も一人で傷ついて、それでも俺に笑いかけている。俺は泣きたかった。何もかも全部話して謝りたかった。だがそうすれば楽になれるという単純な話だったのはもうずっと昔のことで、色々なしがらみに縛られた俺は今の謙也との気まずい関係すら手放すのが怖いから、こうして空になったグラスをじっと見つめていることしかできない。俺は俺の臆病に一生背を向け続けて生きるんだろうと思った。



謙也と別れてからどうやって帰ったのかほとんど思い出せない。誰もいない真っ暗な部屋に戻ってはじめて、俺は何度も謙也の名前を呼んで泣いた。





お前を敷き詰めて出来た世界


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